「恋は雨上がりのように」最終10巻を読んだので総括してみる

はじめに

僕はほぼ毎日近所の書店に寄っています。
毎回買う訳ではないけれど(寧ろ冷やかしの方が多い)、居心地が良いんですよね。
本屋好きなんです。

今日も今日とて足を運んでみたら、「恋は雨上がりのように」10巻特装版が売ってました。
特性クリアカバー付きで100円ちょっとお高い仕様です。
通常版も探したのですが、見つかりません。

特装版・限定版は通常版よりも1日2日早く発売される事が多いので、今回もそういったケースだったのかな。
通常版を買うつもりでしたが、一刻も早く読みたかったので予定変更。

先程読み終えましたので、感想を書いてみます。
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望んだ結末では無かった

結論だけは先に知ってました。
アニメでも同じような締め方でしたし、その前にまとめサイトの見出しでネタバレ食らっちゃったんですよね。
基本的に僕はまとめサイトとか見ないのですが、全然関係ないところでたまたま目にしてしまって。
気になってついリンクをクリックしちゃいました。
詳細については書かれてませんでしたが、大方「酷かった」という論調でまとめられておりました。
それを踏まえて、今回10巻を読んでみたのですが、まとめサイトから窺えた想像よりずっと綺麗に着地していたと思いました。
1巻掛けて丁寧かつ克明に心情が描かれていたからです。

この恋には、大きな壁がありました。
年齢ですね。
あきらは高校生。
店長はアラフィフ。
子持ちだし、世間体もあるし、あきらが思ってるよりか周りの反応が冷たい。
決して彼女の恋は応援されるようなことはありませんでした。

でも、だからこそ、僕ら読者は、彼女の恋が実る事を期待していた訳です。
「僕ら」としましたが、「僕は」が正確ですね。
僕は応援していた訳ですよ。

壁を乗り越えた先に幸福が訪れるのは、物語の定型です。
現実は残酷だからこそ、物語にだけは救いを求めてしまうのは素直な心理ではないでしょうか。
もしかしたら、まとめサイトで纏められていた人の意見も似たような感じなのかもしれません。
故に、裏切られたような気持ちになって、酷かったという結論に行きついたのかなと想像します。

確かに望んでいた結末ではありませんでした。
けれど、納得出来る終わり方だったんですよね。
少なくとも、納得させられるだけの物語が10巻にはありました。

「もしも2人が同級生だったらば」という妄想に込められた本音

最初は拒否していた店長も、あきらの純真な恋心に晒され続けて、少しずつですが着実に変わっていました。
「この恋は実るかもしれない」という確かな期待感が持てたのです。

実際、店長はあきらに惚れていたと思うのですね。
少なくとも、今の関係を維持したいという気持ちはあったはずです。
象徴的なのは、76話の一節です。

もしもあきらと同級生だったらば…。
ふと妄想に耽る店長。
「あきらの同級生」であるところの店長は、こう述懐します。

彼女ははやく雨がやむことを願っていた。
けれど僕はそうは思わなかった。

10巻ではところどころで店長のあきらへの想いが漏れていましたが、作品の根幹的にもこの一節がとっても重要だったんじゃないかなと。
店長としては、このまま雨が降り続けることを願っていた。
2人でこのまま雨宿りをしていたいという気持ちの表れですよね。

これに対して、あきらはこうアンサーを返してます。

晴れてるほうがうれしいけど…
雨の日も…
たまには悪くないなって…思うよ。

雨宿りも良い。
けれど、「たまには」なんですよね。
彼女にとってはやはり「一時的」なんだということが窺えます。

立ち止まりたい店長と歩き出したいあきら。
「もしも2人が同級生だったらば」という妄想を2人の視点から描いたのは、こういう2人の本音を炙り出したかったからなのかなと解釈しました。

雨宿りの物語

「その人は、どしゃぶりの心に傘をくれた。」
帯で綺麗に纏められていますが、今作の2人の関係はまさにコレですよね。

大好きな陸上に振られてしまい、傷心の中訪れたファミレス。
心の中はどしゃぶり。
そんな折、店長が優しさという名の傘を差し出してくれた。

タイトルから、この時点で雨が止んだものと錯覚してしまったのがいけなかったのかもしれません。
雨上がりと同時に恋が始まったと解釈してしまった。
でも違ったのですね。

雨は降り続いていたのですね。
どしゃぶりの中、ただあきらと店長だけは、傘の下にいた。
雨が上がったと錯覚していた。

2人きりの相合傘です。
まさに”2人だけの世界”です。
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小さな世界の中、女子高生相手に、そりゃ店長は真正面から相手には出来ないでしょう。
気恥ずかしさや、遠慮、嫌われてるんじゃないかという疑念もありました。
あきらは、そんな店長の心を変えていきました。
丹念に少しずつ解きほぐして、心の距離を詰めて…。
あきらの積極的なアプローチは確かに実を結びつつありました。

いつの間にか、店長はそんな傘の下の2人の世界に浸っていました。
けれど、これではいけないと思ってしまったのでしょうね。

このまま止まり続けるのは、彼女の人生にとってプラスにならないと考えたのか。
はたまた、再び(小説家という夢に向かって)歩きたいという勇気を与えてくれたからなのか。

後者とした方が僕は好みかな。
自分の背中を押してくれた人。
大切になった人が、立ち止まったままなのはやはり嫌だというのは理解出来ますから。
作中の意を素直に汲むなら、前者の方が近いかもですけれどね。

ま、どう考えたのかは明言されてませんので憶測の域は出ないのですが、今度は店長が、あきらの背を押します。
大好きな陸上を捨てようとした勇気、それは蛮勇では無いのかと。
言ってないな。こんなこと。
作中の台詞にこじつけようとしたらダメですね…。

ともかく、あきらの背中を押します。
狭い傘の中、やっと雨が止んでなかった事に気づいた。
素直になって、景色が見えて、雨が漸く止んで…。

うん。
10巻読んで、物語の解釈が間違っていたのではないかと気づかされました。
雨は降り続いていたんですね。
長い時間掛けて、あきらが立ち直るまでの物語。
あきらの心の雨が止むまでの物語。
雨宿りの物語。

物語はこうなんだよということが、丁寧に綴られていたので、非常に納得出来ました。

あきらの恋は本物だった

間違えてはいけないのは、あきらの恋は本物であったという事ですね。
決して一時的な気の迷いや、若気のいたりでは無かった筈です。

一度諦めた夢に復帰するまでには、大きな大きな決断が必要です。
怪我という理不尽で、突如奪われた夢なのです。
絶望感、悲愴感は果てしなかったことでしょう。
葛藤も大きかったはず。

そんな心を再び動かすのですから、そこには大きなエネルギーを注入しないといけません。
心溶かす言葉であったり。
大切な人からの言葉であったり。
これという答えは無いけれど、あきらにとって「勇気をくれる言葉」ですね。

これまでの物語の積み重ねでは、色々な言葉があきらに投げかれられました。

同じ境遇を経験した倉田みずきの言葉は届きませんでした。
あきらにとって、みずきは大切な人じゃなかったからなのかもしれません。

同じ道を歩んできた大切な友人である喜屋武はるかの声も届きませんでした。
はるかはずっと歩み続けられてきたからなのかもしれません。

いずれも「勇気をくれる言葉」じゃなかった。

頑なな心を、店長は解しました。
あきらにとって、大切な人であり、歩みを止めた境遇を分かち合えるからなのかもしれません。
それは「勇気をくれる言葉」であって、故に、彼女は決断出来ました。
陸上に復帰したという事実そのものが、心から店長を想っていたからという証左になっていると思います。
どうでもいい人の言葉はなかなか響きませんからね。

復帰して暫く経っても、店長からの贈り物の傘を大事にしてるあきらの笑顔に心洗われました。

終わりに

望んだ結末では無かったのは間違いないけれど、丁寧に間違いを正してくれた物語には、心からの納得がありました。
最後は笑顔で終えられたのは、素晴らしいと思います。
楽しいひと時でありました。
この漫画に出会えて、本当に良かったです。

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