コミカライズの抱える諸問題を克服したから「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」の漫画は面白い

この記事は

SQ記事4連弾の最後は「あの花」コミカライズの記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。

コミカライズに於ける2つの問題

昔から思っていた事。
「コミカライズの扱いがヒドイ」。

コミカライズ。
小説(ラノベ含む)、アニメ、ゲーム等他媒体の作品を原作とした漫画作品。
このコミカライズですが、大抵扱いがヨロシクない。

そう思う理由は大きく分けて2つあります。

1つ、絵(画力)。
どういう訳か新人の「連載をした事が無い」漫画家さんが作画を担当する事が多いからなのか、割と高い確率で「読むには辛い」レベルの画力の漫画になる事。
僕は長い間、とあるメディアミックス誌(既に休刊)を買ってましたが、そこで連載されたコミカライズの殆どは絵が残念な作品でした。
新人の方に経験を積ませるという目論見がある為なのか。
ベテランの方に担当させる事の出来ない訳でもあるのか。
理由こそ知りませんが、「新人漫画家」さんの登竜門的意味合いが強い印象があり、故に絵も稚拙(というと失礼ですが)なものも少なくありません。

とはいえ、最近は絵に恵まれている作品もあります。
「新人」としては、「とある魔術の禁書目録」(「月刊少年ガンガン」連載)の近木野中哉先生とか。
個人的には「大当たり」だと思います。
漫画として読みやすく、また、原作を損なわない絵であり、しかもグングン上手くなっていっている。
素晴らしいと思うのです。

新人以外では、例えば、アダルトコミックを主戦場として活躍されていた漫画家さんが「一般」デビューとして、コミカライズを担当する事もあります。
連載経験的(雑誌への掲載年数)には豊富な方が担当される確率が高い為か、「かみちゅ!」の鳴子ハナハル先生とか素晴らしい出来となっていました。

また、同人活動中にスカウトされた方もコミカライズを担当される事が多く、「禁書シリーズ」から派生した「とある科学の超電磁砲」(正確には「スピンオフ作品」ですが、ここに含めます)の冬川基先生もそう。
「超電磁砲」は氏の高い画力もあり、レベルの高いコミカライズとなっています。

他にも、原作となったアニメに直接関わっていたメインスタッフ自身が作画を担当されたり(「まなびストレート」、「エヴァ」、「ガンダム・ジ・オリジン」等)と、絵のレベルが非常に高い作品も数多いのです。

が。
僕個人の印象的には新人さんのイメージが強く、どうしても扱いが宜しく無いなと感じざるをえません。

2つ。物語。
主にアニメを原作としたコミカライズに言えることなのですが…。

アニメのコミカライズの場合。
主な目的は、アニメの宣伝になるんじゃないかと思います。
放送を控えたアニメのストーリーを事前に知って貰おうという試みで、漫画で紹介しておこうという意図があるんじゃないでしょうか。
その為か、放送開始の半年から1ヶ月程前を目途に、連載が始まる傾向が強いように思われます。

コミカライズはどういう訳か月刊誌で連載される事が多く、故に、ひと月に1話。
ページ数的には20後半から40ページ台くらいでしょうか。
速筆の方が作画を担当されればもう少し多いのでしょうけれど、大体の目安としてはこんな感じ。

この位のページ数ですと、アニメでは(作品にもよりますが)1話持ちません。
せいぜいがAパート程度でしょうか。

どうしても、原作となるアニメの内容を綺麗になぞる…所謂「原作準拠」的展開は難しいのですよね。
放送の半年前から始まったとしても、月刊連載ならば僅か6話。
アニメ換算で約3〜4話分しか消化できない計算です。

総集編のような駆け足展開や重要なエピソードだけを再構成したものになりがちになります。
勿論これで上手い事構成できればいいのですけれど、そうは出来にくい「壁」がまだあって。

アニメの放送が終わっちゃうと、連載自体も終わっちゃうんですよね。
放送終了から数か月後には、終わってしまう事が大半なのではないでしょうか。
「アニメの宣伝」が目的なのだとしたら、まぁ仕方ないとも言えますが、こうなると「打ち切り」っぽい展開にもなってしまう。

通常の漫画に比べ、制約が多いコミカライズ。
原作や作画担当者の力量に関係なく、残念な物語になりがちなのではないかと思っています。

「かみちゅ!」のようにオリジナルエピソードを中心にしたり、「輪廻のラグランジェ 〜暁月のメモリア〜」のようにアニメ本編の前日譚にしたり。
回避策はいくらでもありますけれど、原作となるアニメの物語そのものをなぞる構成だと、色々と難しいのかなと。

以上のような理由から、コミカライズって不遇だなと感じています。

「あの花」コミカライズが素晴らしい

ここから本題。
「ジャンプSQ」連載中の「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のコミックス第1巻が発売されました。
このコミカライズが滅茶苦茶素晴らしい出来なのです。

先程の「コミカライズの扱いが宜しくないと思う理由」に当て嵌めて見ていきます。
先ずは絵(画力)。

作画を担当されている泉光先生は、連載経験が無いという意味では「新人漫画家」さんです。
ですが、絵が上手い。
素人考えなのですが、連載経験の有無って、画力にダイレクトに反映されると思っています。
例えば。
初回は、時間もあるので連載経験者もそうでない人も大抵絵が綺麗なのですよね。

ですが、2回、3回と連載を経ていくうちに、差が出て来る。
連載した事が無い人って、徐々に絵が雑になったり、崩れて行ったりしてしまう事が多い。
スケジュールが切迫していき、絵に拘る時間もまた取りづらくなるのかな?
経験者は、ある程度絵も完成されてますし、ペース配分も存じている為なのか、そういう事は少ないように見えますが…。

そんなイメージを持っているのですが、泉先生の絵は変わらないのです。
終始絵が安定していて丁寧。
少なくとも、この1巻収録の1話と4話を比べても、差は感じません。
雰囲気もアニメ版に似ていて、満足度も高い。

元々絵が上手い上に、自身の絵というものを確立させているのでしょうね。
月刊連載という事もあってか、こういった絵の崩れも心配ない上に基本の画力が高い。
この点、このコミカライズは素晴らしいです。

続いて、物語。
原作となった「あの花」は11年4月から7月に放送された作品です。
この連載は、アニメ放送開始のちょうど1年後。12年4月(5月号)からの連載。
既に終わったアニメのコミカライズなので、宣伝という意味合いは薄い。
「薄い」と評したのは、13年夏に映画が公開される事が発表されたからですね。
この映画までの「繋ぎ」と考えるのが自然でしょうし、とすると、宣伝の意味合いも多少はある。

けれど、既に終わった作品であることには変わりない。
連載もゆったりとしたペースで、「原作準拠」で進めることが可能。
アニメを意識する事が無いというだけで、多くのアニメコミカライズとは異なると思います。

このように連載ペースに余裕があるからなのか、アニメには無いシーンが多数挿入されている事も特徴の一つと言えそうです。
原作準拠の物語であるからして、あくまでも「補間」程度ではありますけれど、この点も(基本的に)良いと思う点です。
まあ、本当に「補間」である為、場合によっては、無い方が良かったかなと思わないシーンもある事は事実ですが。

という事で、長々と書いてきましたが…。
「あの花」が好きでしたら、このコミカライズを手に取ってみてくださいませ。
満足度の高いコミカライズであるとオススメできる作品です。

あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 1 (ジャンプコミックス)

あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 1 (ジャンプコミックス)

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