この記事は
「青春ブタ野郎」シリーズの感想です。
ネタバレあります。
はじめに
この記事は、僕が面白かった作品を未読の方にオススメする記事ではありません。
あくまでも、このシリーズの既読者に向けての記事になります。
故にネタバレしまくっています。
繰り返します。
シリーズ7巻までのネタバレに触れています!!
努々承知の上、お進みくださいますようお願い致します。m(_ _)m
「初恋少女の夢を見ない」
シリーズ7巻目となる今作は、大きな区切りともなっています。
1巻からばら撒かれていた伏線が回収される「第1部完」とも言える内容であり、そのヒロインには牧之原翔子が座っています。
大きい翔子と小さな翔子。
2人の関係性の謎とは?
心臓に重い病を患い、余命いくばくもない小さな翔子は救われるのか?
翔子の物語はどういった決着を見せるのか。
この記事では、「翔子の物語」に着眼点を持って書いていきます。
鴨志田先生の”力”
先ず2つほど「こういう物語が好きだ」と「こういう作家が好きだ」というのを纏めてみます。
僕の好きな物語の定義
僕の大好きな物語についてです。
不幸は、幸福度を何倍にも高める最高のスパイスである。
ある人は、こう言いました。
具体的に言えば、僕の目の前の鑑に映ってるオッサンが言ってました。
人の感情はバネと同じです。
限界までググッと沈めれば沈めるほど、その反動は大きく、いっきに最高点まで到達します。
それは、我慢すればするほど、弾性力の限界に挑めば挑むほど反発力も大きくなります。
故に、大きな幸福を得る為には、正反対となる大きな不幸が必要だという事です。
ハッピーエンドというのは、どれだけの不幸を描けるかに懸っているのです。
しかし、この考え方は、あくまでもフィクションの世界に限った力学です。
現実はそんなことは絶対にありえません。
不幸はどこまでいってもただただ単純に不幸なだけです。
不幸の後に、幸福が起こるとは限らないし、もし幸福が起きても、不幸がチャラになることは決してありません。
現実には有り得ないのです。
だからこそ、尊いのですよ。
だからこそ、願うのですよ。
現実では起きないからこそ、せめて物語の中では祈ってしまう。
誰もが笑って、誰もが喜ぶ、完全完璧全壁のハッピーエンドを望んでしまう。
僕の好きな物語は、それを結実させた物語です。
掌の水を一滴も零さずに掬い上げる、そういう主人公が大好きなのです。
積み上げた幸福な結末の上に更なる幸福を積み上げる。
それが最高じゃないですか。
僕の望む結末は、酷く身勝手で、酷く歪な。
誰もが笑える世界なのです。
そういう世界観の物語が大好きです。
こういう作家さんが好きだ
もし、貴方が小説家や漫画家になりたいのであれば、やるべきことがあります。
文章力を磨くこと、画力を上げること。
構成力、台詞のセンス、演出力。
どれも大事だし、勉強しないといけないと思います。
他にも色々と鍛えるべきものはありそうです。
でも、その前に「心」を知ることが欠かせないんじゃないかな。
自分自身の感情に向き合うんです。
どんな時に喜ぶのか。
どうして怒るのか。
何故哀しいのか。
どうすれば楽しいのか。
感情の起伏、その大きさをしっかりと把握する。
自分に向き合えたら、今度はそれが独り善がりな感情ではないか、他人を観察してみる。
誰かの感想を読むのだって、立派な観察行動です。
そうやって広く一般的・普遍的な感性を磨く。
そうじゃないと、他人の心を揺さぶる事は出来ないと思うのですよ。
「ここで感動させるんだ」というポイントが独善的だと誰も共感してくれません。
誰しもが感情移入できる心を描けて、初めて琴線に触れられるのかなと。
まぁ、独善的な感想しか書けない僕が言っても説得力がありませんけど。
「上手い」作家さんて、心を知ってることが多いよねって話です。
故に鴨志田先生を尊敬する
読者の感情を巧みに操り、「好きな物語」を丁寧に積み上げる作家。
これが僕の鴨志田先生の順当な評価です。
人心掌握に長け、手練手管でどん底に落とす。
落として落として落とし切ったところで、いっきに昇天させる。
僕の好きな世界観…至上の幸福感を最高の形で味あわせてくれるのです。
「鴨志田一」という作家は、間違いなく多くの人の琴線に触れる感情を描ける作家さんです。
まだ「ブタ野郎」シリーズしか読んでませんが、そう確信しました。
シリーズ第7作「初恋少女の夢を見ない」には、大号泣させられたのです。
翔子の関与しない物語
いっきに7巻まで読みましたので、一先ずは、4巻までの感想を書かせて下さい。
特徴は、「翔子が関与していない」という件。
これ大事です。
各巻メインヒロインの思春期症候群に関する物語を主題とし、全て咲太とヒロインで解決しています。
1作ずつ短評を書きます。
1巻「バニーガール先輩の夢を見ない」
- 作者: 鴨志田一,溝口ケージ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2014/04/10
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (9件) を見る
桜島麻衣の物語で、原点はやはり面白い。
シリーズを通した素晴らしい点が全部載せ状態なんですよね。
思春期症候群というSFチックな設定が「ヒロインの悩み」を具象化している点が先ずもって凄い。
1冊かけて思春期症候群を解決すること自体が、ヒロインを描くことに直結している為に兎に角ヒロインが映える映える。
息遣いだったり、肉感だったりが伝わってくるほどに魅力的に生き生きとしている。
クライマックスに向けての盛り上げ方が巧みで「すべて救われるオチ」が秀逸。
物語を堪能したという満足感を得られるし、その結末に温かい涙を流せる。
そして忘れちゃいけないのが、咲太と麻衣の間の愛情の深さ。
それが十全に伝わってくるのです。
世界から認識されなくなった麻衣を唯1人認識し、症候群にも抗って見せた咲太。
症候群を破ったのは、咲太がそれだけ麻衣を想っていたからですよね。
空気と戦う事を嫌う(これもかえでとのドラマに絡めて納得いく説明がされている。)のを厭わずに、空気と戦った。
愛を叫んだ。
吊り橋効果的なのもあったかもですが、麻衣はそりゃ惚れますわ。
咲太の麻衣を想う気持ちの深さに触れて、それに応える麻衣の気持ちも理解できる。
シリーズを読み進める中で、とっても大切な点ですね。
2巻「プチデビル後輩の夢を見ない」
- 作者: 鴨志田一,溝口ケージ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2014/08/09
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (4件) を見る
古賀朋絵の物語。
朋絵がばり好き。可愛い。
朋絵の症候群に咲太が巻き込まれたのは何故なのか。
量子もつれなのかな?
個人的には、咲太との関係を朋絵が望んでいたからだと思っています。
空気を読んで、他人に遠慮しちゃう朋絵。
福岡から湘南に出てきて、多分初めて「素」を見せたのが咲太だったんじゃないかな。
心の中では自分でも嫌気がさしていた部分を
「その馬鹿げたルールの中で、お前、必死に生きてんだろ?
なら、バカにしない。バカだとは思うけど」
と咲太に認められた上で否定された。
これ大きいと思うの。
自分で間違ってるとは思ってる部分でも、そうやって生きて来た手前、頭ごなしに否定されると反発しちゃう。
今までの生き方を認めてくれた上で、やんわりと否定してくれた。
素を見せても平気な人として認識出来た。
思春期症候群って悩みの具現化なので、おいそれと他人に知られたくないことです。
信頼できる人、相談できる人、知ってもらいたい人。
そして、しっかりと受け止めてくれる人。
尻を蹴り合った出会いを通して、朋絵は咲太を「自分の素をしっかりと受け止めてくれる人」という認識を作ったのかなと。
だから、咲太だけが朋絵の悩みに触れられたのだと思いました。
逆を言えば、朋絵ならば、咲太を「見つけてくれる」とも感じたのです。
麻衣と同等に咲太を想っている。
世界から咲太を見つけてくれる。
それが朋絵という女の子という認識を強く抱いたのです。
ともあれ、夢の中の出来事を目覚めてからも共有した2人。
「忘れなかった」「経験が無かった事にならなかった」のは、凄く救われますね。
折角良い関係が構築できたのに、それがゼロに戻っちゃうって個人的に嫌なんですよ。
ちゃんと憶えていた事は、だから良かったです。
3巻「ロジカルウィッチの夢を見ない」
- 作者: 鴨志田一,溝口ケージ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2016/06/10
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (2件) を見る
双葉理央の物語。
理央の件は、少し前2巻と毛色が異なります。
咲太だけが認識し、咲太1人で解決してきた(この道程で理央の助けは大いにあるが)麻衣と朋絵の悩みとは異なり、咲太が「ある点」に於いて蚊帳の外にいる物語。
理央の悩みの全てを解決できるポジションには居ないんですよ。
勿論主人公なので、がっつりと関わってくるにはきますが、趣は異なりますよね。
理央の悩みは、僕も常に抱いていることなので、感情移入が一番出来ました。
今回大事なのは、咲太のポジション。
ある意味「当事者」として症候群と向き合ってきた麻衣、朋絵の件とは違い、咲太には「なんとかしてあげられること」と「どうしようもないこと」がありました。
前者は、理央の孤独感を埋めてあげる事。
国見との3人の友情を改めて信じさせることで、彼女の悩みを優しく包んであげれた。
後者は、理央の片思いですね。
こればっかりは、咲太にはどうもしてあげられない点。
咲太は自分の出来る範囲のことは無茶をしてでも通してくれますが、どうにもならないことにはとことん無力なのです。
普通の少年だから。
ヒーローじゃないから。
4巻「シスコンアイドルの夢を見ない」
- 作者: 鴨志田一,溝口ケージ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2015/05/09
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (4件) を見る
豊浜のどかの物語。
「あたしのお姉ちゃんだっつーの」。
「変猫」のエミの影響で、この語尾が好きになってしまった。
かわいい。
強気な性格が読みとれて、とてもいいですね。
改めて、咲太が麻衣に惚れていることが見て取れたお話。
麻衣は芸能人です。女優です。
一般人に比べれば、遥かに綺麗なのでしょう。
それはのどかだって同じです。
売れてないとはいえ、アイドルになれる程の器量。
でも、彼はのどかには一切なびかない。(単に好みじゃないのかもだけど)
見た目は麻衣で中身はのどか。
思春期の狼なら食いついても仕方ないのに、咲太はそうしない。
本物の麻衣に無い違和感をしっかりと覚えて、しっかりと「豊島のどか」として相手をしている。
中身をしっかりと見ている事が窺えるのです。
彼が、麻衣の見た目に惚れたというのは否定できないとは思いますが、ちゃんと中身を好いていることが浮き彫りになりました。
5巻「おるすばん妹の夢を見ない」は救われてない
咲太の妹・かえでに纏わる事実が判明します。
かえでの思春期症候群、咲太の胸の傷、そして翔子がどう兄妹と関わって来たのか。
咲太自身が原因を誤解している為に、全ての要素がごっちゃになっています。
翔子の物語として見直すべく、5巻の状況を整理します。
- 作者: 鴨志田一,溝口ケージ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2015/09/10
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (4件) を見る
「花楓」から「かえで」へ
ここから始めていきましょう。
2年前の事。
酷いイジメの為に引きこもってしまった花楓。
深く傷ついた彼女は思春期症候群を発症。
体中に謎の痣が出来てしまいます。
イジメと思春期症候群。
花楓の精神は限界に達したのでしょう。
解離性障害を発症し、花楓の人格は眠ってしまい、新たに「かえで」として目を覚まします。
心が解離してしまう程追いつめられていた妹を助けられなかった。
苦悩する咲太の胸に3本の傷跡が刻まれたのはこの頃。
翔子さんが咲太の側に初めて現れたのでしょう。
まだ、咲太には”見えていなかった”けれど。
傷が原因で入院した咲太は、病室を抜け出し逃走。
七里ヶ浜で翔子さんが”見えるように”なりました。
翔子の言葉でかえでに向き合えた咲太。
しかし、事態は好転する事はありませんでした。
かえでを花楓とは違うということを受け入れられなかった母は、やがて精神を病み、かえでも自分を認めてくれない母の言動に傷ついてしまいます。
再び思春期症候群を発症してしまうかえで。
季節は巡り、冬。
咲太は決心します。
両親とは別にかえでと2人きりで生活をすることに。
「花楓」のことを知らない街で最初から始めることを決めます。
助けてくれた翔子に憧れを抱いていた咲太は、彼女が来ていた学校に転校する事を決め、藤沢を転居場所に定めました。
「かえで」から「花楓」へ
さて、5巻の本編の時間軸に話を戻します。
藤沢で生活を続けるかえで。
咲太の努力や麻衣達の協力もあり、徐々に復学への意志を強めていきます。
年内に学校へ通うという目標を立て、少しずつ準備を始めます。
そんな中、かつての親友・鹿野琴美と偶然の再開を果たします。
花楓しか知らない琴美の言動は、再びかえでの心を揺らします。
振り返ってみると、これが呼び水になったのでしょうか。
「花楓」との再会を果たすことになったかえで。
上野動物園に行った翌日、唐突に花楓が帰って来ます。
かえでの頃だった2年間の記憶を失って。
かえでが居なくなってしまい、喪失感に苛まされる咲太。
再び胸の傷が開きます。
そこを助ける翔子さん。
咲太を彼の家へと運ぶと、かえでを失った咲太の心を癒します。
5巻で解決したこと
5巻で解決したのは1つだけです。
花楓の解離性障害が治ったこと。
これだけであって、それ以外のことは解決してません。
花楓の思春期症候群も未解決だし、咲太の思春期症候群(胸の傷)もそう。
勿論翔子の謎も解けていません。
5巻で失ったこと
かえでを失った。
これが全てです。
僕はこのシリーズを「掌の水を一滴も零さずに掬い上げる物語」と称しました。
実際4巻まではそういう物語が展開されたのです。
誰もが笑って終われる物語があったのです。
とはいえ、厳密に見ればそうじゃないですよね。
失恋は違うのかよと言われると言葉に詰まりますし、そこは唯一笑えない点です。
朋絵が、理央が、のどかが失恋しています。
けれど、3人とも失恋して泣いて終わった訳では無いです。
それぞれがケジメを着けて、乗り越えて笑って終わっている。
強引な解釈かもですが、最終的には「皆ハッピー」でした。
かえでだって、この系譜に連なる終わり方なのかもしれません。
唯一自分を「見てくれた」咲太から幸せを笑顔をいっぱい貰えた2年間だったのだから。
でもやっぱり切ないよ。
この終わり方は。
なんだかんだ、花楓はかえでの記憶を取り戻し、統合し、それでもって笑って終われると信じていたのに、そうならなかった。
かえでは消えちゃいました。
5巻は、僕の心に大きなシミを作りました。
「完全完璧全璧に救われないヒロインもいる」。
この事実は後の不安要素になったのです。
翔子がしたこと
5巻までに翔子さんがしたことは青字の部分だけです。
2回咲太を助けてますね。
妹のことで傷ついた咲太の気持ちを救っています。
咲太にとっては人生を変えるほどの大きな出来事でした。
ある意味人生のどん底に叩き落された時に優しく癒してくれたのだから。
かえでとの新居を藤沢に決めた理由になっていて、これによって麻衣達と出会えたのですから、間違いなく人生変えられてます。
物語の原点になっているし、咲太も翔子さんの重要性を認識している為、僕ら読者も「見誤ってしまいがち」です。
ですが、正しい尺度で評価すべきです。
1回目の邂逅も2回目の邂逅も咲太の人生に絶対に必要だったのかというと、そうではありません。
翔子が咲太の心の傷を癒さなくても、いずれ傷は塞がっていたでしょう。
特に2回目は、時が経てば麻衣が帰ってきて、咲太の側に寄り添ってくれたはずです。
翔子が咲太の人生を変えた点は、唯一「引っ越し先を藤沢に決めさせた」こと。
これだけなのです。
彼女の功績を揶揄したい訳ではなくて、物語の正しい(と勝手に考えている)解釈には不可欠な要素なので、敢えて書きました。
6巻「ゆめみる少女の夢を見ない」で不幸を見る
初めて前後編という形になった翔子編。
後編に向けての伏線があり、咲太、麻衣、W翔子3人の気持ちが丹念に描かれてました。
- 作者: 鴨志田一,溝口ケージ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2016/06/10
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (2件) を見る
将来スケジュール
伏線は、将来スケジュールですね。
小さい翔子が知らない間に小学四年生の時に書けなかった夢が記されていきます。
それは夢というには、あまりにも現実に則った記述。
大きい翔子の歩んだ人生が記されている。
故に大きい翔子が疑われるも彼女は否定します。
この伏線ですが、最初登場した時点でほぼほぼ答えが示されてるんですよね。
「筆跡も同じだったし、追記したようにも見えなかったしね」
それについては咲太も同じことを考えていた。
鉛筆の文字に違いは見当たらなかったのだ。
字の濃さも太さも一致してるように思えた。
別の日に書いたのであれば、鉛筆の削り具合は違ったりもするので、微妙に差が出てもよさそうなのに。
この記述を真っ正面から受け止めれば、不安なんか抱かずに済んだのに。
いやー無理でした。
あまりにも重苦しい展開の連続に将来スケジュールの存在自体忘却してました(笑)
自己犠牲!!、自己犠牲?
3人は、それぞれ「大切な人に生きて欲しい」という信念で行動を取りました。
信念は同じなんだけれど、つぶさに見ていくと、ちょっと違います。
翔子さんと咲太
翔子さんは、咲太を事故から救う為。
咲太を救えば、自分が助からない可能性が高くなる。それでも、行動を起こした。
大好きな咲太に生きていて欲しいから。
咲太は、翔子を助けたかった。
懸命に前を向いて生きる翔子。
自分は医者じゃない。ヒーローじゃない。何も出来ない。無力だ。
正しく自分の力を認識し、その上で、翔子を助ける「ただ1つの道」を辿る。
自分が事故死すれば、「正史」通り翔子は助かる。翔子さんが証明している。
この2人は、文字通り「自己犠牲」の精神に則っています。
自分の命を差し出してでも助けたい。
尊いとも言えます。
優しさの極致ですね。到底真似できそうもありません。
ですが、100%賛成しかねる行為です。
言い方悪いですが、所詮は自己満足です。
遺された人間の痛みを無視したやり方なんですよね。
どう取り繕ったところで、やり切れない思いが残ります。
主人公ならば、第3の道を模索して欲しい。
絶望的な状況でも諦めずにもがいて欲しい。
そう。
金田一ハジメ少年のように。
麻衣は生きたかった。咲太と。
麻衣は咲太を救いたかった。
翔子の為に、死ぬことを覚悟した咲太の気持ちに気づいたから。
敏い彼女らしく、咲太の全てを見抜き、咲太を死なせないように動いた。
結果だけ見ると、麻衣も自己犠牲精神に則って咲太を助けたかのように映ってしまいます。
しかし、ちょっと違いますよね。
彼女は、咲太達とは異なり「自分も生きる道」を第1に行動しています。
だから、咲太の説得を試みました。
死を覚悟した咲太に「生きて欲しい」と心からのお願いをしました。
翔子が犠牲になる事を承知で、咲太を優先した。
それでも咲太の覚悟を変えられませんでした。
故に、事故当日に咲太を助けようと動いたのです。
結果として麻衣が事故にあってしまっただけで、なにも彼女は死のうと思って行動していた訳ではありません。
死ぬ覚悟はしていても、一緒に生きることをなによりも優先してました。
このちょっとした違いは大きかったです。
「初恋少女の夢を見ない」で号泣
自分の感情と作品考察を分けて整理して書けば良かったのですが、想いが溢れてここまで書き殴って来ました。
推敲しろよとお叱りを受けそうですが、すみません。
自分の文章を読み返す苦痛に耐えられないので、それは勘弁して下さい。
てなわけで、最後だけは感想と考察を分けて書いてみます。
考察:ご都合主義なんて言わせない
未来の夢を視た。
それは「自分の感知しない人物の未来をも確定させた完璧な未来」。
朋絵の視た未来は、確かに朋絵と咲太の記憶に刻まれた。
もし誰かが夢の中で未来を視たとしても、その記憶は必ず刻まれる。
必ず。
思い出す。
ーーー
翔子さんが咲太の人生に関与した点は唯1つ藤沢に引っ越しを決意させたことと既に書きました。
ここさえどうにかすれば、後は翔子さんが関与してない出来事です。
「予知夢」通りの展開を勝手になぞってくれるでしょう。
この点を、「咲太に刻まれた記憶」で解決しました。
夢だから半ば忘れているけれど、なにか心にクルものがある。
夢の中の少女が来ていた制服に何となく惹かれ、咲太は高校を選んだ。
これまた朋絵の事件のお陰で自然な描写に思わせてくれました。
ご都合主義?
NO。
断じてNO。
6巻までの世界観をしっかりと踏襲した一貫した物語と結末。
だから、だからこそ、ただただ涙を流せたのですよ!!!!!!!!!!
感想:泣いた
かえでを救えなかった事実が、ここにきて僕の不安を掻き立てました。
翔子は助からないかもしれない。
一度「救えなかった事実」が出てくると、2度目があるかもと身構えちゃうのです。
「最終的には助かるんでしょ」というお約束が働かないんですよね。
実際、麻衣の死を痛感した咲太は、麻衣だけを救う事を祈ります。
翔子を諦めちゃうんです。
これは仕方ないかなと思ってしまいました。
彼はヒーローじゃない、一介の高校生なんです。
全部救う事は出来ないし、救えないモノもある。
理央の初恋の件で力になれなかった。
かえでを救えなかった。
翔子の病を治せない。
散々と描かれてきた事実だし、なにより2人の間にある愛情の深さを知っている。
咲太が麻衣を想う気持ちを、麻衣が咲太を好きなことも見てきちゃっている。
咲太の決断を責められないし、文句を言えない。
故に読んでて辛かった。
終始苦虫を噛み潰したような顔をしてました。
眉間に皺を作りまくってました。
麻衣に生きて欲しい。
それが僕の願う完全なハッピーエンドだから。
翔子の病が治って欲しい。
それが僕の願う完全なハッピーエンドだから。
誰もが笑って終われるパーフェクトな未来を勝ち取って欲しい。
咲太にはその道を取って欲しい。
けれど、麻衣を救えば翔子を失い、翔子を取れば麻衣が死ぬ。
どうしようもない。
「じゃあ第3の道を探せよ!!」とも言えない。
咲太の決断を仕方ないと思えてしまったから。
究極的に不幸な状況です。
辛く酷な描写が続きます。
あぁ、ダメかもしれない。
何も思いつかない。
ダメだ。
ダメだダメだダメだ。
絶望していた時でした。
麻衣を救った咲太が覚醒します。
翔子を救うんだ!!と動き出します。
心から喝采しました。
流石主人公!!それこそが主人公だ!!!
まさか将来スケジュールが絡んでくるとは!!(本気で忘れてた)
翔子が小四の時の夢。
つまり、3年前から「咲太の自覚している世界は翔子の夢の中だった」ということでしょうか。
壮大な設定です。
あぁ、なんにせよこれで翔子は助かる!!
そう思ったのに…。
最終章は心が急いた。
序盤はヒロインを全員登場させ、これまでのことを振り返ってます。
麻衣との会話では、今まで歩んでこなかった歴史が語られます。
ああ、翔子が目を覚ましたんだな。
じゃあ、翔子はどうなったんだ…。
クライマックス
意識するよりも早く、体が反応した。
考えるよりも先に、心が動いていた。
海の方を振り返る。
「牧之原さん!」
咲太は知らない名前を呼んでいた。
波の音にも負けない大きな声。
海風に乗って、遠くまで広がっていく。
呼んだ瞬間に、その名前を思い出していた。
やさしさに繫がる大切な名前。
あたたかい記憶のすべてが、目頭を熱くする想いとともに、咲太の中に蘇った。
「……」
砂の上で、少女は目を丸くしている。
信じられないものを見るような目で、咲太を見ていた。
でも、すぐに顔をしわくちゃにして泣き出すと、溢れ出した涙を拭おうともせずに、「はい、咲太さん!」と、翔子は笑った。鴨志田 一. 青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない (電撃文庫) (Kindle の位置No.3887-3891). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.
涙腺決壊。
これ以上考えられない完璧なハッピーエンド。
今までを拾い上げ、全てのヒロインを救い、新しい未来へみんなで笑って歩く。
どん底の不安があったからこそ、込み上げる最高の気持ち。
本当に本当に最高でした。
最高だった
あまりにも乱雑で申し訳ありませんでした。
言葉がないほど感動して、整理がつかない程の感情が爆発しちゃいました。
鴨志田先生、最高でした。ありがとうございました。
アニメは2クール希望したいな。
7巻までを丹念に映像化してくれたら、BD買うかもしれません。
さて、8巻を読みます。
駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
- 作者: 鴨志田一,溝口ケージ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2016/10/08
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (1件) を見る