「青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない」感想

この記事は

「青春ブタ野郎」シリーズ第10巻の感想です。
ネタバレあります。

はじめに

大学生編開始!!
わぁ~嬉しい!!!
今回のヒロインはまさかの広川卯月。

のどかが所属する「スイートバレット」のリーダー…というだけでは終わらずにヒロインに昇格です。
空気が読めない天然な卯月が空気を読める様になったら…。
クライマックスがとっても良かった。

新キャラについて

高校2年生だった咲太も麻衣と同じ大学に通う為に猛勉強。
そんな大変な1年間をハイライトで消化されてしまいましたが、麻衣の献身的な協力もあって無事に合格。
入学式の日に、中学時代の級友である赤城郁実と再会したり、のどかや卯月と同期になったり。
思春期症候群を忘れるには十分な時間が流れた咲太・大学1年次の秋から新章は始まりました。

堰を切ったように新キャラが目白押しでしたね。
塾で講師のバイトをやり始めた咲太の教え子として、先ず吉和樹里と山田健人の2人が登場。
さらに健人の片思いの子であり、朋絵を慕う姫路紗良は強烈なインパクトを持って出てきました。
この子は絶対に今後強烈な思春期症候群を起こして、咲太を振り回しそう。

大学では、咲太の友人として福山拓海が初登場。
消防士になった国見ポジションなのかな。
軽い性格っぽいので、あんまり本筋には関わってこなさそうなのがなんともw

そんで、大学編で最も重要なキャラになりそうだと思ったのが美東美織。
あっさりと麻衣の懐に入り込んだり、今どきの若者には珍しくスマホを持っていなかったりとどこか咲太を彷彿とさせる女の子。
彼女の麻衣に対する態度も「同性の憧れの人」というよりかは「好きな人」に近しいリアクションに思えて、その辺も咲太らしい。
麻衣の「ちょっと咲太に似てる」っていうのは、実は的を射ているんじゃなかろうか。
9巻での「麻衣に似た女の子」が彼女なんじゃないのかな?
ただそうすると、美織は非実在人物になっちゃうわけで、今までのシリーズを考えるとちょっと違う。
それはそれで面白いのかもですけれど、やっぱり普通の女の子が思春期症候群を経て成長するドラマを見てみたいので、彼女もそうであって欲しいのです。

なので、あのランドセルの女の子は、彼女の思春期症候群発症時の姿。
なんかの拍子で、彼女の身体に不思議なことが起こって、思春期症候群っぽい状態になる。
その状態時に、彼女と同じ悩みを抱えてる人を見つけると、とことこと近づいていく。
相手には、「自分が本音を語りやすい姿」に見えるとかなんとかいう感じで。

自分で書いといてなんですけれど、ふわっとしすぎていて、妄想にしても酷い。
うううん。ないかなぁ。

もう1つ考えたのが、霧島透子の正体が美織説。
カラオケに行かなかったのは、歌声が透子に似てるのを悟られないためとか。
そんなことを途中まで考えてたのですけれど、ラストを考慮すると考え過ぎなのかもですね。
読了した今は、透子自体が多くの人間が無意識に生み出した思春期症候群そのものに思えるんです。
未来を知る翔子が透子を知らなかったのは、透子が人間では無いから。

今回の思春期症候群が、その伏線なのかなって。
無数の人間の共通した悩みなどから生み出された存在。
透子の歌を聴いた「思春期特有の悩み」を抱えた子は、思春期症候群を発症してしまうとか厄介な特性を持っていたら、9巻で咲太が発症したのも頷けるし、卯月も同じだと説明が付けられます。
サンタコスの自称透子の言葉とも矛盾しません。

大学編の最大の目的が、この霧島透子を無に帰すことなのだとしたら厄介な大事件になりますよね。
なんたって、「相手」は不特定多数の人間なのですから。
これまで通りに、1人の悩みを解消してあげれば解決するわけではありません。
ある意味咲太の苦手としていた空気との戦いになりますし、シリーズ全体を通しての大きなメッセージ性を持たせられる気がします。

とはいえ、「個人の成長を描いてこそ」という部分は守られる気がしますので、そこに郁実を関わらせれば伏線の回収にもなりそうじゃないですか?
郁実の悩みと透子が形成された悩みが同じで、郁実の成長が透子を消すことのヒントになるって感じで絡ませればさ。
どうかな、どうでしょう、どうなんだろう。
話が大きくなりすぎて、青ブタっぽくないと言われるとそうかもしれません。

適当に思ったことを書き殴っちゃいましたが、新キャラが大勢出てきたのは、ワクワク感がありますね。
これから彼女たち1人1人にスポットが当たって、新しいドラマが紡がれるという事が予告されたようなものですので。
まだまだ続きそうで、僕は嬉しいです。

ただ、いきなり新キャラの悩みを書かれてたら、高校編(9巻までを勝手にそう呼称します)との「繋がり」みたいなものが希薄に感じてしまっていた気がします。
咲太と麻衣だけが続投の別の物語を読んでる気分になってたかもしれません。
高校編から1年半もの「空白期間」があるので、余計にそう感じてたと思うのです。
だから、高校編からガッツリと登場していて、かつ、スポットの当たってこなかったという点で、卯月が主役になってくれたのはそれだけで嬉しかったですね。
卯月が高校編と大学編の橋渡しになってくれてる感じがしました。

そんな卯月のドラマ。
クライマックスで泣きましたよ。

卯月のドラマに泣く

空気の読めなかった女の子が、ある日空気を読める様になったら。
若い頃に空気読めないキャラだった芸能人が、歳取ったらその設定を無かったことにしてたとかなら、たまに見ますが。
こりん星とかこりん星とか。
「リアル」では、僕は読んだことが無いテーマでしたので、新鮮でした。

非常に青ブタらしいちくっとした痛みを伴うドラマに仕上がってましたね。
卯月の空気の読めなささは、確かに嘲笑の対象にはなるのかもですけれど、そこに救われている人たちもいるんだよってことがしっかりと描かれていましたので、「変わって欲しくない」と考えちゃうんですよね。
彼女らしく今まで通り、空気が読めない子であって欲しいって。
でも、それだと「成長」が無い訳で。
変わって欲しくないけれど、青ブタとしては変わらなければならない。
読みながら、どういう結末が綺麗なんだと頭を悩ませてました。
僕のこういった葛藤を、しかし、本当に見事なまでに解消してくれてましたよ。

「卯月が大学を受験した理由」というのを中盤でポッと咲太を通して問題提起させて、ラストで汲み取る。
彼女自身仲間ともっと絆を深めたいから、仲間の真意だけは読めるようになりたいと願っていた。
だから、卯月が心許す仲間の空気はしっかりと読んで、そうじゃない人の空気は以前のように読まないようにすることで「成長」を示したと。
この落としどころが、僕のモヤモヤを綺麗に吹き飛ばしてくださいました。

最高に爽やかで納得の結末にまで卯月を導いた咲太ですが、今まで通りの「ちょっと背中を押すだけ」の「何もできない・ヒーローじゃない」咲太だったのも、個人的にはポイントでした。
これはかつて「売れてないこと」を自認していたのどかの心の裡に寄り添った咲太だからこその説得力がありましたね。
だからこそ、卯月も心動かされたのでしょうし。
咲太がのどかのことを分かっていると理解しているからこそ、卯月も納得して、歩みを再開したのかなと。

客席から歌いながら舞台に歩んでいく卯月とそこに手を差し伸べるのどか達。
文章からその光景が映像になって脳内で再生されて、涙腺を刺激されまくりました。
これ実際にアニメで見てみたいなぁ。
こういうシチュエーション、凄く好みです。
ホント、良かった。

終わりに

今回も満足度の高い一冊でした。
未だに最高に好きなシリーズであり続けてくれることが嬉しい。

次回も楽しみです。

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