劇場版「青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない」感想 咲太の「花楓」への想いを表現した原作とは異なる2つの演出が響いた

この記事は

「青ブタ おでかけシスター編」の感想です。
ネタバレあります。

4年ぶりの新作

青ブタが帰ってきてくれました。
高校生編を残すところ原作2巻分という中で、4年間のブランクを経て、劇場版2部作という形での帰還。
いや~嬉しい。
この勢いのままテレビシリーズ2期で大学生編にも入って欲しいところ。

その前に今回は第1弾ということで、未消化に終わっていた花楓の物語の続きを描いた「おでかけシスター編」が公開されましたので、早速見てまいりました。
拙くも感想を書かせてもらいます。

咲太の「花楓」への想いを表現した2つの演出

受験当日。
午後試験直前になって体調を崩した花楓を心配し、保健室に駆け付けた咲太ですが、そこで花楓から「お兄ちゃんだって”かえで”の方が好きなんでしょう」というようなことを言われてしまいます。
怒って良いのか、悲しんで良いのか…。
その時の咲太の表情が全てを物語っていたと思うのです。

花楓自身が咲太に言ってましたけれど、咲太って自分の気持ちをあまり口にするタイプじゃありませんからね。
本心を隠して皮肉めかして誤魔化すことが多いから、そりゃ花楓だって分からないし、不安だったに違いない。
けれど、面と向かって大切な妹から「私の事なんて…」と言われたら堪らないでしょうね。

本来未成年の咲太が親元を離れて、妹と2人暮らしをしているのは花楓の為であって。
それだけで彼の妹を想う気持ちの大きさが分かるというものですけれど、中々どうしてそういった点には思い至りにくいのかもですね。

ところで、咲太の「花楓を想う気持ち」が行動として表れていたシーンが2つありました。
いや、もっとあったんですけれどね。
妹の為に願書を貰ってきたり、妹の為に通信制の高校の説明会に赴いたり。
今回は至る所で、咲太の「花楓の為」の行動が散見していたのですけれど、ここでは2つほど注目して見ました。

1つ目は、願書出願のシーンです。
雪が舞い散る中、授業中の咲太は「大の方です」と嘘を吐いて授業を抜け出し、来賓用入口まで花楓の様子を見に行きます。
中々来ない花楓。
原作では、わざわざ「最も願書提出者の少ない日時」を示し合わせていたという記述があります。
花楓が少しでも来やすくなるよう、受験生と出くわす人数が最低限で済むよう配慮してるんですよね。
アニメではこの辺の言及こそありませんでしたけれど、「時間の経過を表現する演出」が取り入れられていました。

咲太の肩に積もった雪の表現ですね。

ここ原作ではこうなってました。(以下本文から引用)

ちょっと様子を見てこようと思い、咲太は屋根の下から出た。校門の方へと歩き出す。傘をさしていないから、風で舞う雪がぺたぺたと制服に張り付いて くる。室内から見ていたときの印象より大雪だ。ひとつひとつの粒が小さいから、なかなか積もらないだけで、すぐに咲太の制服は真っ白になってしまった。

鴨志田 一. 青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない (電撃文庫)  KADOKAWA / アスキー・メディアワークス

たまらず校舎から校門まで出た咲太。
そこで「制服は真っ白」の状態になっています。
この時江ノ電が通過。駅に止まって、受験生がぞろぞろと校門に向かって歩いてきます。
先頭集団にこそ花楓はいなかったのですが、その後から遅れて姿を現します。
しかし、受験生とすれ違っては止まり、すれ違っては止まりを繰り返しつつ、結局校舎まで入ってくるのに10分以上掛ったと描かれています。

このように原作だと時間経過に関して克明に描写されているのですけれど、これを映像にするのはしんどい。
80分弱の映画で、実際にこのシーンだけに10分間も使う訳には中々いきませんしね。

だからこそ咲太の行動を少し変えたんだと思ったのです。
原作とは異なり、咲太は校舎から外には完全には出ていません。
扉の外には出てましたけれど、あくまでも屋根の下にいた。

半身を外側に向けていた為でしょう、片方の肩にだけ少しずつ雪が積もっていった。
ハッキリとしたことは言えないですけれど、「手で払う必要があるほど咲太の肩に雪が積もる」には、相応の時間が経過したとみなせると思うのです。

あくまでも彼は授業を抜け出してきた身です。
いくら大と布石を撒いていたとはいえ、あまりにも長すぎると教師から叱責されてもおかしくありません。
そんなこと知ったことかと言わんばかりに、堂々と授業をさぼって妹が来るのをじっと待ち続ける。
携帯電話を持たない兄妹です。
いつ来るともしれないのですから、余計に凄いことですよね。

2つ目は、花楓が体調を崩した時、保健室に駆け込んだ際の咲太の足元です。
こちらもまずは原作2か所抜き出します。

先ずは、電車の中のシーン。

学校に急ぎたい今の咲太にとっては、じれったくて仕方がなかった。けれど、次の停車駅に止まる頃には、自然と焦る気持ちは霧散していた。
乗り合わせた観光客の笑い声や、この街に暮らしている人々の雰囲気は、ゆっくり走る電車の速度と調和が取れている。はみ出しているのは咲太の方だと気づいたから。
むしろ、落ち着くように言われているような気がして、咲太は空いていたシートに腰を下ろした。
実際、咲太が焦っても仕方がないのだ。電車の速度が上がるわけではないし、花楓のためにも、咲太は冷静であった方がいいに決まっている。

鴨志田 一. 青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない (電撃文庫) KADOKAWA / アスキー・メディアワークス.

続いて校舎に入る時。

駅から歩いてすぐの峰ヶ原高校の校門を小走りで通り抜けると、咲太は来賓用の昇降口を目指した。生徒用の昇降口に回るより、保健室には近いのだ。
勝手にスリッパを出して、脱いだ靴は脱ぎっぱなしにして校舎の中に入る。

鴨志田 一. 青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない (電撃文庫) KADOKAWA / アスキー・メディアワークス.

原作ではご覧の通り、しっかりと冷静さを取り戻した上に、スリッパに履き替えています。

しかし、アニメでは違いました。
アニメでも電車の中では一度腰を落ち着けていますが、心の中の心境は全く違ったのでしょう。

保健室に着いた咲太の足元をベットの下から俯瞰したカットがありましたが、咲太は裸足。
隣に「花楓が履いていたスリッパ」が置かれていたこともあって、余計に咲太の裸足姿が異質に映っていました。

この直後先生に言われて教室に花楓の荷物を取りに行った際には、咲太はしっかりとスリッパを履いていました。

どっちが良いとかいう話ではありません。
考え方の違いかな。
原作では冷静に行動していた咲太ですが、アニメでは彼の冷静さを欠いた焦燥感が描かれていたのです。

どちらも「花楓の為」を想っての咲太の行動には違いは無く。
アニメではよりストレートに「花楓が心配だった咲太」を演出した結果なのでしょうね。

終わりに

花楓からかえでへ。
そして、かえでから花楓へ。

記憶は受け継がれることは無く、消えてしまったかえで。

だからこそ余計に、本人も周囲も戸惑い、悲しみ、やるせない気持ちを抱えたのだと思います。

そんな中、花楓と咲太、それぞれの気持ちを中心に構成された80分。
石川さん、久保さんの熱演もあって、あまりにも切なくしんみりとさせられました。

そんな素晴らしい本編を締めくくる主題歌がまたなんて言うか。
まさかの花楓とかえでのデュエット。
ちゃんと歌い分けている久保さんに脱帽。

4年振りの新作は、大満足の力作でありました。

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