この記事は
「千歳くんはラムネ瓶のなか」第2巻の感想です。
ネタバレあります。
はじめに
ガガガ文庫の青春ラブコメのニューウェーブになるんじゃないかと勝手に確信している「千歳くんはラムネ瓶のなか」。
第2巻を読みましたので、感想になります。
非常に美しいロジックで彩られた物語
非常に美しいロジックで作られた物語。
第1巻の頃から語られるテーマ自体には変更がありませんでした。
学園を舞台としたラノベに於いて、多くの場合ライバルキャラ(場合によってはいけ好かない悪役)として設定されがちなリア充側に立って、リア充ならではの悩みや思春期を浮き彫りにしていくという手法。
今回は、ヒロインの1人である七瀬悠月の物語。
容姿端麗、運動神経抜群で、頭脳明晰。
登場人物紹介ではメインヒロインの位置に置かれている夕湖と共に学園を二分する美少女。
悠月ですが、1巻の頃は正直影が薄かったです。
というのも、1巻はヒロイン(笑)健太の物語であり、そこに唯一深く関わった夕湖くらいしかまともに見せ場がありませんでしたからね。
朔周りの夕湖以外のリア充仲間は基本的には顔見せ程度の出番しかなかったと記憶しております。
特に悠月は、同じクラスになったばかりという説明もあって、一番「外側」に配置されていた印象なんです。
なので、がっつりと「悠月とはどういう娘なのか」という処から徐々に掘り下げられていくのですけれど…。
悠月がメインに選ばれた理由とでもいうのかな。
2巻でこういうお話の持って行き方は、正直巧いなと感服です。
序盤から悠月は「朔に非常に似ている女の子」という説明が入ります。
しかも朔公認です。
男の子からモテ、女の子から僻まれて。
美少女ならではの人間関係の「問題点」にいち早く気づいて、そうならないよう上手に生きてきた彼女。
信頼できるかどうかで他人との距離感を測っては、人付き合いに気を使ってきた。
その点悠月自身も朔と己を重ねていたわけです。
結果的には、朔は悠月とはちょっと違って、泥臭くて面倒くさい生き方をしてるということが描かれます。
ヒロインを掘り下げつつも、「朔とはこんなリア充です」という主人公の掘り下げになっている点が凄いの1つ目。
1巻で描写された朔という人物像と齟齬がなく、キャラがブレてない点も見逃せません。
似て非なる存在と比較させることで、朔が「物語の主人公なのだなぁ」と思うとともに、彼のキャラクター性が浮き彫りになっていたと感じました。
そうやってキャラクターを立てつつも、恋に繋げてくるところが憎いです。
この流れ、本当に綺麗。
人が好きになる「条件」として、よく「自分に無い面を持っている人に惹かれる」って言うじゃないですか。
私よりも頭がいいから。
僕より優しいから。
暗い俺を明るい彼女が満たしてくれそうで。エトセトラエトセトラ。
己に欠けていると自覚している面であったり、正反対の性格だったり。
そういう異性を好きになる…という通説を聞いたことがあります。
僕はこれバーナム効果の一種だと思ってます。
人は誰しも何かしら欠けていますし、色々な性格を併せ持っていますよね。
完全完璧な人間はいないし、人間は1人1人個性があって、他人と自分は違います。
その中で、自分に無い部分を他人に見出すなんて、非常に簡単な作業なんですよ。
よっぽどのナルシストや高慢ちきでもなければ、誰と比較したとしても、自分に無い部分をその人に見出せるはずです。
何が言いたいかというと、「憧れ」の感情というのは、紐解けば「自分に無い部分を相手に求めている」ことに過ぎないのかなと。
バーナム効果。
誰にでも当てはまることを、憧れという名で錯覚しているだけ。
作中では、この憧れに名前を付けることで、恋になるとしていますけれど、まさに悠月の恋がそれ。
始まりは、間違いなく偽物だったのでしょう。
そこから始まった関係は、憧れが間違いであったと気付くことで、変わっていった。
自分と同じだと思っていた朔は、深く深く知り合うことで、自分とは違うことを気づいた。
大部分は同じだったけれど、決して自分には出来ない「強さ」を持っていた。
そこに助けられた。救われた。
曖昧だった「憧れ」からは霧が払われ、正しく形となって心に残った。
本物のそれを恋と名付けた。
唐突にポエミーな文章を書いてしまいました恥ずかしい。
言いたいことは察してプリーズ。
簡単に纏めれば、悠月が朔に本気で恋心を抱くまでの流れが、凄く納得できるんですよ。
朔と悠月を掘り下げつつ、両者の違いが恋の理由になってるところとか、綺麗すぎませんか。
プロローグとエピローグで「憧れ」と「恋」について語られている時点で確信犯。
考え抜かれたロジックの美しさに痺れました。
物語とはいえ、人の感情に対して適切な言葉とは思いませんけれど、素直にそう感じてしまったのです。
終わりに
ともあれ、個人的に今作のメインヒロインの座は悠月になったなぁ。
夕湖あっさり陥落。
こうも深いところまで彼女の心の裡を読まされちゃ、可愛く思えるのは必然ですよ。
理不尽な暴力にも屈せずに、清く美しく育った心根と。
どういった理由かは知りたくもないが、汚く折れ曲がった野郎と。
この対比も彼女の尊さを際立たせるのに一役買っていて、とっても良かった。
女の子が本物の恋に落ちるまでの物語として、楽しく読めました。
3巻も期待してます。