この記事は
「千歳くんはラムネ瓶のなか」第4巻の感想です。
ネタバレあります。
はじめに
作家と担当編集者の関係って、作品をより良くするための共同作業者であり、切磋琢磨する存在であるべきなのでしょうね。
担当は作家に対して、決して耳障りの良い話ばかりはせずに、時には意見を戦わせて、場合によっては従わせる。
作家は、時に我を通し、時に意見に傾聴し、推敲を重ねていく。
その末に出来上がったものが、僕らのもとに届けられると。
あとがきによれば、4巻はそういった作家と担当の関係性によって生まれたらしいです。
担当チェック前の原稿を読めない以上、読者としては過去と現在を比較しての論評は無理ですが、僕としてはとてつもない満足感を得られました。
少なくとも感情移入ができたのです。
裕夢先生も出来に満足されているような感じですので、担当の岩淺さんとの関係は良好だと見て良いのでしょうね。
だとすれば、岩淺さんはやっぱり優秀な編集者さんなのでしょう。
ち〇こもげろと呪いの言葉を吐かれる程度には作家さんと戦って、良い作品作りのサポートをされているのかなと。
今後は、裕夢先生にも「もげろ」と言われる程度には熱い議論を重ねて、熱い作品を届けていただきたいものです。
何の話だ、これ…。
ネタバレ防止用の「前振り」はこれくらいにしまして、本編感想です。
感情移入できた理由についてを中心に書きます。
感想
僕は小説をどのように読んでいるのかというと、語り部に寄り添って読み進めることが多いです。
特に一人称の小説であれば顕著で、最も感情の機微を追える語り部に感情移入しやすい傾向があります。
逆に言えば、語り部に感情移入できないと、物語への没入感も味わえず、作品を楽しめないのです。
今作の語り部は、主人公である朔です。言うまでもありませんね。
「イケメンの陽キャでスクールカースト最上位のリア充」という自分とは正反対の要素でできている彼に、「あぁわかるなぁ」と寄り添うことは正直出来ないのですが、「ラノベの主人公」としての好感度は高く、彼目線の物語を楽しんできました。
なんていうのかな。
端的に言えば、3巻までの朔の活躍を楽しむ僕は、朔をあがめる健太みたいなものと思っていただければ、ほぼ間違いありません。
ちょっと違うか。
健太よろしく僕自身が朔に助けられたわけでも無いし、憧れているわけでも無いので、無暗に神格化はしていない為、「ヒーローの活躍を応援するモブ」と例えた方がしっくり来るかな。
とはいえ、作中キャラになぞらえれば、健太ポジかなと。
1本芯の通った正義感・倫理感を持ち、決して奢らず、年齢通りの弱さも持った等身大の高校生であるヒーローの冒険を楽しむ。
彼の中身は、どこまでも親しみの持てる、理解の出来る主人公像でした。
だからこそ、彼の心情や行動に理解が追い付いていたのです。
そういった寄り添い方で、楽しんできたのです。
こういった寄り添い方で感情移入をしてきて、では、今回焦点となった彼の過去に触れた時、僕は今まで通りに感情移入できたのか。
「出来なかった」とは言えないかな。
酷く理不尽で、とても「よくある話」で、十分に同情できるエピソードでしたからね。
妬みが絡んだ部活動作品あるあるですから。
忘れたい過去が再び眼前に立ちふさがり、傷つき悩み、その上で乗り越えていく。
そうして、ヒロインがまた1人彼に堕ちていく。
まさに王道。
まごうことなく王道青春活劇。
楽めただろうけれど、ちょっと納得いかない部分もあったように思う。
それは果たして、僕が見てきたヒーロー朔として正しい在り方なのであろうか。
そんな、普通の、正道の、どこにでもいる”強いだけの”ヒーローで良いのだろうか。
僕自身答えの出ないひっかかり。
もしかしたら、ひっかかることすら気づかなかったかもしれない、些細な違和感。
そうじゃないだろうと引っ叩いてくれたのが、陽というヒロインでした。
「私は誰よりもあんたに一番腹が立つ‼」
陽の激昂を読んで、ぽかんとしたのは、作中の朔よりも僕の方だったかもしれません。
何故?どうして?
本気で打ち込んで、全てを捧げていたからこそ、脆さがあるんじゃないのかなと。
むしろ、簡単に見えるくらいにあっさりと心が折れたからこそ、彼は野球に本気だったと言えるのではないか。
あの状況で、同情こそすれ、叱咤は出来ないよ。
監督に土下座しろ?
それでダメなら、教育委員会にチクれ?
本気じゃなかったチームメイトを本気にさせろ?
無茶言うなし。
一介の高校生の行動力を大きく超えている。
陽の言葉が呑み込めない中、しかし、朔は陽の怒りを受け入れたんですよね。
簡単に挫けることなんて許さない、普通人には出来ないことをやって見せろ。
お前はヒーローだろ!!
陽の過剰なヒーロー像を受け入れたようなものです。
あまりにも。あまりにも無茶苦茶な要求。
けれど、理不尽に頭を下げてでも、好きを全うしろという痛烈なメッセージを求めていたほど、彼は本気だったという証左にもなっている。
同時に他人に糾弾されるまで動けなかったという朔の弱さにもなっている。
普通の高校生らしい弱さを持って、しかしながら、芯のところでは、決してマネできようもない「本気すぎる夢」を持ち合わせている。
1巻で引きこもりのクラスメイトを引っ張り出すという偉業を達成し、3巻で年相応の恋と青春に悩む。
積み重ねたヒーローとしての強さと一介の高校生としての弱さ。
陽の怒りが、朔の強さと弱さを描き出し、そうして4巻でも彼の物語に寄り添えた。
朔のドラマと対比した陽のドラマ。
1人の女の子(ヒロイン)としての魅力を十全に描き出すとともに、主人公・朔への感情移入度を一層高めてくれていました。
終わりに
ちょっと何言ってるか分からない感じの文章になってしまいましたが、いつものことです。
簡単に言えば「面白かった」ということです。
それにしても、1巻から陽が気になってましたが、これ陽ルート確定なんじゃないのってくらいの勢いを見せてくださいましたね。
いいよいいよ。
元気娘かわいいよ。
このまま突っ走って朔を奪っちゃえ。