灰原愛に溢れまくった「名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件-史上最悪の二日間-」

この記事は

「名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件-史上最悪の二日間-」の感想記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。

はじめに

原作連載20周年記念。
久々の2時間スペシャルは、初めての完全オリジナル。
「鍵泥棒のメソッド」の内田監督が脚本を書き下したということで、話題になっていましたが漸く放送されました。
今回はこのアニメの感想です。

感想

去年だったかな?
「鍵泥棒のメソッド」を視聴したのですが、見ておいてよかったですよ。
同作の続編的な内容にもなっているという触れ込みでしたが、これ程とは。
「鍵泥棒」の面白さの1つは間違いなく脚本にあって、中でも中核となっていたのが「コンドウの正体」でした。
全ての意味合いが逆転するこのどんでん返しが、観客に驚きを齎し、実際僕も大いに驚いたのですが、今回このネタを大暴露。
まあ、一度明かしているネタなので隠す事も無いですけれど、全然別の「コナン」という作品でばらしてくるとは。
内田監督の今作の脚本に対する本気度が見えました。

ただ、「コンドウの正体」レベルの大ネタが今作に仕掛けられていたかと言えば、残念な事に無かったですね。
真犯人の種明しも中盤で割とあっさりとばらし、その後も大きな山場も見当たらず。
結局一番の見所は序盤のクライマックスと言えそうなカーアクションでしょうか。
博士の愛車であるビートルがトラックに押しつぶされ、灰原が崖下に放り出されてしまうシーン。
ここが唯一のアクションの見所。

個人的な感想となりますが、ミステリとしてもアクションとしても物足りなさの残る2時間スペシャルでした。
コンドウが言うように、真犯人が小物過ぎましたね。

灰原を好き過ぎるシナリオだった

今回はミステリでも無ければ、アクションでも無い。
徹底したラブストーリーだったんだなと。
しかも、灰原が主役になっていました。

ただ、灰原をラブストーリーの主役に持ってくるのって普通には出来ないと思うのです。
原作でならいざ知らず、オリジナルシナリオでメインヒロインである蘭を押しのけて灰原を前面に押し出すと色々と面倒な気がします。

そこで、スケープゴート的な役割として選ばれたのがコンドウ達だったのかなと。
「鍵泥棒」で出会ったコンドウと香苗は、今作では結婚しているという設定。
「コナン」からしてみれば、ただのゲストキャラである2人が恋愛面でどのような物語を進展させていても何の問題も無い訳です。
だから、「コナン」とは関係の無い2人をラブストーリーの矢面に立たせる事で、灰原を自由に動かせるという狙いがあったんじゃないかなと。

ただ、これだけだとまだ不十分です。
あくまでも「コナンが事件の謎解きをする物語」という「名探偵コナン」としての大前提がある訳で、この枷があると灰原を謎解きの中心に持ってくるのは難しい訳です。
そこで、コナンを謎解きの中心から外す必要性が出てきます。
コナンの立ち位置をこのように変えたエピソードは、過去にもありました。
原作で思い当るのは「青の古城探索事件」ですね。

早々にコナンを犯人に襲わせ、事件の表舞台からフェードアウトさせることで、光彦を謎解きの主役に持ってきていました。
勿論美味しい所はコナンが持って行きましたが、構造的には、今作もこれと全く同じと言えそうです。

コナンを記憶喪失、誘拐という2つの手法で退場させて、灰原を表舞台に引っ張り出した。
彼女が自然と謎解きの主人公に押し上げられていました。
更にコンドウにも作品の主人公然とした動きをさせる。
そうすることで、彼に主眼を置けば、事件を解決し愛する者を救い出したラブストーリーとして成立し、ラブストーリーという点で灰原は影に隠れる。

勿論主人公のコナンを退場させたままにするのはマズイので、きっちりとフォローを入れる。
記憶喪失は芝居で、実際の謎解きもコナンが担当。
(そういう意味では、謎解き面に於いてもコンドウはスケープゴートとなっていた。)

こうして幾重にも亘った工夫をすることで、灰原に自然な形でラブストーリーの主役を担わせていたと思われるのですが、まだありましたね。
真犯人同様内田監督もよほど心配性なのかもですね。
蘭にラブコメをさせることです。

そもそもコナンが”新一の携帯”を非常用にバスタオルに忍ばせたのが不自然です。
そこはコナンの携帯で十分であり、何故新一の携帯でなければならなかったのかと言えば、蘭を引っ張り出す為ですよね。

コナンの携帯から犯人が連絡を取ると、蘭は「保護者」になりますが、新一からだと「好きな人を待ち続ける少女」になります。
あくまでも「灰原のラブストーリーの目晦まし」として蘭を使いたいのならば、新一の携帯から連絡を入れる必要性が出てくる。
だから、なのかなと。

作品の主人公(コナン)に推理面で面目を立て、メインヒロイン(蘭)に恋愛面でアクションを起こさせる。
「名探偵コナン」としての基本となるメソッドをきっちりと仕込んだ上で、自然と灰原をラブストーリーの主人公に抜擢していたのかなと。

「子供は恋愛対象にはならないわ」。
このような台詞を言わせて、最後の最後で少し頬を染めさせる。
隠そうという意志はそもそも無かったと思うのですが、内田監督の灰原愛(「哀」ではなく)に溢れたシナリオでありました。

終わりに

劇場版で肥えているのだと思います。
物足りなさは確かに感じましたけれど、灰原に着目すると多くの工夫が施されていたのではないかと思い当りました。
ここまでして灰原を主役にしたいのかという驚きと、監督の彼女に対する愛情が見えたような作品でした。

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