この記事は
「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか‐オリオンの矢‐」の感想です。
ネタバレあります。
はじめに
楽しみにしていた「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか‐オリオンの矢‐」を見てきました。
特典の小説目当てで2週連続鑑賞予定の今作。
肝心の本編はどうだったのか。
個人的な感想を書いていきます。
新しいテーマなんだけれど
神様の「死」は、これまではあくまでも「地上での活動の終了」を意味していました。
一般的な人間同様の体を持つ地上の神々は、寿命が尽きることはなくとも、致命傷を受ければ普通に肉体が死にます。
すると、地上での活動が不可能となり、天界へと召還されます。
天界へ戻った後は、地上に降りる前と同様の生活を送ることになっています。
また、悪さをしたり、禁止になってる力(アルカナム)を使用したりすると、天界へ強制送還されちゃったりしますが、このケースでも、その後は天界でごく普通に神の仕事に従事する事になります。
一度天界へ戻されると、二度と地上には戻って来られない取り決めがある為、地上の人々からすれば送還=死と捉えられるのかもしれません。
だから、今回の映画では初めてのケースになるんでしょうね。
アンタレスというモンスターに食われてしまったアルテミス。
本来であれば魂(本体)が身体から抜け出て、天界へと戻っていくのでしょうけれど、アンタレスの中に「封印」されてしまったのでしょう。
肉体は滅び、魂は取り込まれてしまった。
神故に魂は死なず、しかし、アンタレスと分離することは敵わない状態。
彼女が救われるには、アンタレスを斃し、文字通りの「死」(魂の消滅)を取る他無かった。
モンスターが神を取り込み、アルカナムを使えるようになった。
しかも、アルテミスは強力な攻撃型のアルカナムを使用できると来ている。
うんうん。
原作で使って欲しいような特大のネタですよね。
今までにない切り口で魅せる脅威です。
しかも、「神殺し」というテーマを持たせて、悲恋を描ける。
映画向きの壮大な物語になりそうな素材が揃っています。
それだけに非常に勿体ない出来でした。
圧倒的なまでの描写不足。
全ての面に於いて、痒いところに手が届いてない状態であった為に、全体的に中途半端な印象が拭えない作品になっていました。
アルテミスの恋愛描写が浅かった
映画の尺というのは、どのようにして決まるのでしょうか。
少なくとも脚本家にはどうしようもない領域であることは間違いありません。
それは、原作者であろうと同様なはずです。
(通常は原作者にそこまでの力は持たされないです。)
大森先生自らが脚本を書き下した本作。
原作を読んでいるからこそ敢えて断言したいですが、本来の脚本は、完成品の映画の何倍もの量があったんではないでしょうか。
完成稿が上がって、絵コンテを切る際に、予定の上映時間を大幅にオーバーしてしまうことが判明。
監督権限か、はたまた大森先生に相談の上か。
何れにせよ、枠内に収まるように全体を再構成した。
その為にストーリーの表層をなぞるだけの脚本にならざるを得なくなった。
こんなバックストーリーを穿っちゃう位には、メッチャ悪く言えば「ダイジェスト感満載の映画」だったんです。
この映画は、大凡の予想通りある女神の悲劇が中心になっています。
アルテミスの死とベル君の心の傷を深く印象付けられるかどうかが重要になってくる訳です。
ならば、
・ベル君が選ばれた理由
・ベル君とアルテミスの「恋愛」描写
更に言えば、
・アルテミスとヘスティアの友情
をしっかりと丹念に描く必要がある訳です。
ベル、アルテミス、ヘスティア。
3人がそれぞれを想う気持ちを克明にすればするほど、幼女神の慟哭とラストの悲劇、ベル君の明日への誓いが感動を喚起するんです。
逆に言えば、ここさえちゃんとしてさえいれば、バトル描写含め他があっさりとしていても大きな問題には成り難いんですよね。
では、実際どうだったのか。
・ベル君が選ばれた理由
⇒割愛
・ベル君とアルテミスの「恋愛」描写
⇒ダンスシーンを含め、必要最低限。かなり少ない
・アルテミスとヘスティアの友情
⇒アルテミスがヘスティアにベルを好きかどうか聞いたシーンくらい
うん。
大事な部分を流し過ぎてしまったのかなと。
クライマックスでヘスティアがアルテミスとの冒険を回想してるところで、上記の「ベル君のこと好きかどうかでわちゃわちゃしてるシーン」しか”出せない”時点で、結構しんどいよね。
アルテミスの残滓が本来の彼女とは異なり、砕けていて、恋愛に対して積極的だったのは、きっと本来の彼女の本質がそうだったからなのだと思う。
性格上なのか処女神としての務め上なのか。
アンチ恋愛主義なのは彼女の本音の1つには違いないのだろうけれど、その裏で恋愛への興味関心も秘めていたんじゃないかな。
本人に全く存在しない要素が残滓として残る訳無いもの。
そういった本音の底の本音が、恋愛を体験したいという衝動を持っており、つまりは、オリオンの矢を抜けるかといった試練は、彼女が好きになりそうな男性を探す行為に等しかったんじゃないでしょうか。
第一印象でベル君を気に入ったから。
これが「ベル君が選ばれた理由」だったんじゃないかと推測しています。
初対面から恋愛対象として見ていたからこそのヘスティアへの問い掛けであり、ダンスであって…。
恐らく「恋愛」というキーワードだけで彼女の行動は全て説明出来るんですよ。
そういった理解の元振り返ってみれば、描写不足だったと一概には言えないのですけれど、やっぱりもっと欲しかったよね。
推測を超えた確信が欲しい所だし、そうじゃないと感情移入が不十分になるもの。
物語の「本筋」の面で深堀がなされていなかった為に、余計にアンタレスとの決戦もあっさり目に映ってしまった気がします。
原作ではもっともっと苦戦を強いられ、逆境の中でベル君が逆転するという熱い展開になっていたのでしょうけれど、特段大きな苦戦も無く斃してましたからね。
ただ、「アルテミスの恋愛」を主眼に置くのであれば、アンタレス戦の重要度は低いので、あっさり目描写で問題無くて、これで「正解」なのでしょうけれど。
結局は主題の描写が不足していたが為に起こった「中途半端な印象」だったと思いました。
終わりに
せめて上映時間が100分あれば…。
描きたい事、やりたい事は見えてるだけに、ああ惜しいぃぃぃって感じの映画。
このちょっとしたフラストレーションは2期で発散したいな。
2クールでの放送を希望しつつ、感想を終わります。