「ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」 感想

この記事は

「映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」の感想記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。

はじめに

仕事で疲れた老体に鞭打って、ド深夜の回で鑑賞して参りました。
くったくたで眠気とか凄かったんですが、全く眠ることなく、睡魔なんて吹っ飛んでしまいました。
「お約束」の詰まったお話ではあるんですが、「映画ドラえもん」らしい映画でありました。

「映画の撮影」

「映画ドラえもん」の特徴と言えば平穏な日常から非日常へと自然と移行する点です。
ドラえもんの存在自体が非日常なんですが、そこは良いんです。
ドラのひみつ道具による「安全な冒険」(日常)の中に何らかの異物が入り込んで、それによって非日常へと案内されてしまう事が多い。
今回で言えば、ひみつ道具のバーガー監督の作り出すバーチャル映像が「安全な冒険」世界であり、アロンが「異物」として非日常への案内人となっていました。

でも、ただ単純にアロンがドラの作り出した安全な日常に入っていっても、やっぱり違和感は残ります。
ようは構えちゃうわけですよ。
スネ夫の「危険だから関わりたくない。」という尤もな主張が勝ってしまい、ドラ達を非日常=宇宙海賊との戦いに投じさせるには、相応のドラマが必要になってきてしまいます。

のび太が優しさから「アロン達を助けたい」と訴えた所で、他の皆を頷かせるには動機が弱いんです。
もっと皆を「危険な戦い」に向かおうと思わせる動機づけが必要になります。
しかし、これをやってしまうと時間配分的にもおかしくなるので、ショートカットが必要になると。
そこで、「映画の撮影」を徹底的に利用していたんじゃないでしょうかね。
最初から最後まで「映画の撮影」で纏められていたと感じます。

非日常への転換の自然さと敵の設定

ドラ達を非日常…つまりは、宇宙海賊達と戦わせる流れにも「映画の撮影」が利用されていました。
ここでのポイントは何と言っても「ドラ達が映画の撮影だと途中まで勘違いしている」点にあったと思うんです。

ドラ達は宇宙海賊達を目の前にしても、バーガー監督が作った「演者」だと思い込んでしまう。
「映画の役者」だから、攻撃されても痛くないし危険が無いから、勇猛果敢に前線に出ていける。
それが、あまりにも融通の利かない(ヒーローお得意の”名乗り”を最後までやらせてくれない)上に、敵の光線銃に当たるとちゃんと痛い点などから「おかしいな?」と疑い始め、漸く本物の出来事であると知るという流れ。

安全な映画撮影が一変、死の危険漂う本物の戦いの最前線に立ってしまっていたという事実が露見するんですよね。

この時点で既に巻き込まれている上に、地球とは遥か彼方に来てしまっている。
簡単には日常に戻れない状況を作った上で、「これは映画の撮影ではありませんよ」というネタバラシが入ると。

更にはポックル星の状況を知って、アロンの想いを知って。
「ココまで来て知らないふりは出来ない」とさせているから、のび太の「助けたい」という声がジャイアン達を本気にさせられるし、見ていて納得出来るんです。

また、「ドラ達が映画の撮影だと途中まで勘違いしている」点は、敵の設定にも関わっていたと思います。

安全な映画撮影が一変、死の危険漂う本物の戦いの最前線に立ってしまっていた…。

この”落差”を最大限活かすには、敵が凶悪であればあるほど良いんです。
その点申し分ない敵が用意されていたのかなと。

味方でさえミスをすれば簡単に処分してしまう様な残虐性。
幹部はマジで強く、惑星を破壊しようと企てるなどやってる事もとっても悪くて、スケールがデカい。

「ヒーロー映画の撮影だと思ってたら、本物のヒーローとして戦う事になってしまった」という今作の重要なポイントを劇的に演出する存在として、また、「ヒーローが悪を倒した時のカタルシス」を十分に得られる相手として申し分ない敵が出て来てくれていた事が良かったですね。

ギャグとオチ

ギャグとオチも「映画の撮影」が利用されていました。

ギャグは「ヒーローもののお約束」が多用されていましたね。
先程書いた「口上中に攻撃されてしまう」点もそう。

変身の最中だったリ、名乗りの最中だったリ。
ヒーローものでは、ヒーローの見せ場に於いて必ず敵が律儀にも最後まで待ってくれるわけです。
でもこれは当然「映画の中だけの悪役」に課せられたルールです。
実際の敵は、そんなもの待ってくれません。
ドラ達は、ちゃんと待ってくれるものと思っていたからこそ堂々と名乗って途中で攻撃されてしまうというギャグが成立していると。

もう1つは発進シークエンス。
ヒーローが基地から飛び出すシーンは、当然見せ場の1つであり、格好良く見せる場面です。
ドラちゃんもそこを理解してるからこそ、わざわざ場を盛り上げようとひみつ道具を出してまでいた。
当然皆がビシッと決める中、のび太だけが格好悪い発進というギャグが仕込まれていました。

これもヒーローもののお約束を利用したギャグですし、ここで使われたバーガー監督の能力がオチへの伏線となっていて巧いな〜と。

終わりに

ドラ達を非日常へと誘い込む術として、敵の設定として、ギャグやオチにまで。
バーガー監督を上手に使って、「映画の撮影」という1点で綺麗に纏め上げられていた映画でした。
これに「ドラ映画」のお約束の1つである「のび太の優しさ」をブレンドしていて、実に「らしい」作品に仕上がっていたのかなって。

結局明言されて無かった気がしますけれど、のび太の強調された特技って「優しさ」だったんでしょうね。
「優しさは特技とは言わないだろ」というツッコミは、しずかの「風呂好き」を特技認定している事で、ちゃんと出来ない様になってましたし。

アロンを、ポックル星を想う気持ちが誰よりも強かったから、その想いが強調され大きな力となってイカーロスを倒せたと。

「ドラえもんの映画」としても「ヒーロー映画」としても、しっかりと纏まった良い作品だったと思います。
ギャグも多めだし、ラストではしっかりとハラハラ出来ますし。
うん。面白かったです。

来年は予告から察するに「日本誕生」のリメイクっぽいですね。
人気の高い作品ですが、どう変えられるのか。
結構気になりますね。

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