この記事は
映画「フラグタイム」の感想です。
ネタバレあります。
はじめに
「あさがおと加瀬さん。」のメインスタッフの一部が再集結して再び百合アニメに挑む。
という売り文句のさと先生原作の百合漫画が劇場アニメーション化。
1時間という短い尺の中で、綺麗に収まっていました。
感想です。
恋愛に必然性なんて不要なのですけれど、ついついそういう視点で見てしまいました。
果たして百合(女性同士の恋愛)である意味はあるんだろうか…と。
個人的には、これは異性よりも同性の方が共感できそうだなと感じたのです。
3分間だけ時間を止めることの出来る森谷美鈴。
彼女は、他人と距離を縮めるのが苦手な女の子。
その日も何故かしきりに話しかけてくる小林さんから逃げたくて、時間を止めてしまう。
教室から中庭(?)へと出て、息を整えているとベンチで本を読んでいる村上遥が目に留まって…。
森谷さんは、村上さんの側へと近寄ると、不意にスカートをめくって中を覗き込む。
誰にも咎められないからこその大胆な行動。
が、静寂は唐突に終わりを迎えます。
止まってるはずの村上さんが口を開いたのです。
「下着を覗くなんて、とんだ変態さんだね」
3分間だけ時間を止める能力。
貴方は何をしますかと冒頭問いかけられますが、僕としてはそんな中途半端な能力はいらないかな。
何もできないじゃん。3分ぽっちじゃ。
カップラーメンも作れないし、キューピー3分クッキングも見終われない。
ターボくんが発明した「タイムストップウォッチ」があれば、則巻千兵衛博士のように犯罪行為に手を染めるのも吝かではありませんが。
物語的にも3分というのは短すぎて、使いどころが難しいのではないかと思っていたのです。
ただ、時間自体はどうでも良いのね。
時間を「止めること」にしっかりと意図が込められていたのね。
森谷さんと村上さんは、分かりやすいくらいに正反対の人物として描かれています。
どうも百合漫画では、そういう系統のキャラ付けが多い気がしますが、多分に漏れず本作もそうでした。
人間関係にちょっとした不信感を持っている森谷さんは、コミュニケーションを徹底的に避けている。
対して村上さんは、どんな相手にも合わせて、誰とでもコミュニケーションを取るように心がけている。
時間を止める能力は、そんな「正反対の」2人が実は「同じ」であったことを浮き彫りにする装置として機能していたのですね。
他者から逃げるために使っていた森谷さんと。
八方美人な自分から逃れるために使っていた村上さん。
この使い方は想定していなかったので、なるほどなぁと思いました。
クライマックスに向けて村上さんの印象が180度ガラッと反転する仕組みも活きるし、なによりも非常に分かりやすく2人の関係性の変化を表現できている。
僕としては「使えない」と断じた能力を物語に十全に活かしきっていらっしゃったので、本当に素晴らしいと感じました。
こうした「相反すると思われた2人が実は同じだった」という心情を恋愛(友情に近いニュアンスな気もしますが)に組み込むには、異性よりも同性である方が効果的であると思うのです。
理由としては、男と女では、違って当たり前だから…かな。
現実的に男と女を比較すれば、重なる部分も多く、時代的にも「男だから」とか「女だから」という考えは錯誤も甚だしいとは思います。
とはいえ、記号的な分かりやすさに落とし込めば、男と女は、それだけで正反対の生き物として描かれがちです。
逆を言えば、同性であれば、それだけで同質の生き物とされがちであると。
このような思考は、漫画やアニメのキャラクター記号論(と呼べば良いのだろうか…)に馴染みが深い程に理解いただけると思うし、先入観的に持ってしまう部分であるんじゃないでしょうかね。
僕は多分そうなのです。
それ故に、以上のような考え方の下地の上に「(同性だけれど)2人は正反対のキャラです」と示されると、言葉以上に深く「そうなんだ」と思い込んでしまうのですよ。
序盤の村上さんのセリフも大きかったなぁ。
いつも通り小林さんから逃げるためだけに時間を止めた森谷さんに対して「そんなことで止めちゃうんだ」って投げかけるんですよ。
森谷さんにしてみれば、能力を使ってでも逃げ出したいシチュエーションも村上さんから見れば「たかが」「その程度で」のレベル。
対人コミュニケーションに対する両者の考えを端的に表現した一言で、「真逆なんだな」と強く意識付けされたセリフでした。
最終的に2人は似てましたというのは、異性よりも納得感が高いんです。
とまぁ。
そんな感じで、異性よりは同性で展開された方がしっくりくる心情描写だったと思ったのです。
終わりに
映画としては地味な系統の作品なので、多少物足りなさを感じます。
ただOVAだとなかなか見る機会が無いのも事実。
であれば、低料金で鑑賞できる映画という手法は有難いのかもしれません。
地味…と言いつつ、しかし、こういった演出嫌いじゃないです。
BGMは最低限にして、静かに淡々と2人の少女を描いてくれているので、より心情描写に集中して見れるんですよね。
作風にフィットした演出、とっても好きです。