この記事は
「ゲーマーズ! DLC」第3巻の感想です。
ネタバレあります。
はじめに
まさかの短編集第3巻。
霧夜歩の外伝だった前2作とは異なり、文字通りの短編集。
アニメ版BD付属の短編5本と「ドラゴンマガジン」所収の短編3本、最後にとっておきの書き下ろし1本という構成。
僕のような文庫版だけの似非ファンとは異なり、BDもドラマガも追っていた真のファンにはお買い得感が薄いかもしれない。
けれど、それは間違いだ。
書き下ろしの1本は、難産だったようですが、バラバラだったピースを上手く繋ぎ合わせるというとんでもないことをやってのけた傑作となっています。
あとがきの葵先生の言葉を借りるのであれば「よくできました」と絶賛したい内容でした。
まぁ、謎の上から目線的な言い回しは冗談としても、1本の短編としての質も然ることながら、本当に巧いことシリーズの締めとしても機能していて、これだけで本書を買う価値アリだと思うのです。
ほぼほぼ全部語りきった気もしないでもありませんが、感想を書かせてもらいます。
ヒロイン達のIfルート
もしも景太が花憐以外のヒロインと付き合ったら。
分岐シナリオというのは、ゲームを題材とした本作であれば、取り込まざるを得ないのかもしれません。
「ギャルゲー」などでは定番というか必須のシステムであり、ラブコメを扱った本作ならば尚のこと。
という訳で、千秋と、アグリと、心春と、新那と…新那…先輩ルート…だと……。
千秋、アグリ、心春は分かる。
正しくヒロインだ。
3人とも景太を想っていて、「もしも」は十分に可能性としてあった。
けど、新那先輩は…えぇぇぇ!?
なんか一番普通のイチャラブカップルしてて、そこについても驚愕でした。
そんな未来の可能性があったとは…僕の読み方もまだまだのようだ。
さて、それぞれのエピソードについて端的に感想を書きますね。
先ずは千秋。
本編ラストまでの千秋との関係性からすると、このぎこちなさはあり得ないのですけれど、執筆当時の関係性。
もっと言えば、千秋が景太に惚れる前に「付き合い始めた」のであれば、さもありなん。
ぼっちな2人らしい関係性だなと。
アグリ。
どんなルートを辿っても、2人の仲はある意味どの組み合わせよりも親密なものになるのですね。
姉弟というのは、言い得て妙なのだと思う。
近くにいて当たり前、されど、互いに「好きな人」は外にいる。
だって姉弟だから、それが当たり前でしょうという空気感。
されど、事実として2人は肉親でも何でもない他人同士だから、いざとなると嫉妬心がムクムクともたげてくる。
そういう微妙な関係性を端的に示したエピソード。
これは唯一ifでもなんでもない正規ルートなんじゃないかなw
心春。
このいじらしさ。好き。
本当に本心を隠す子だよね。
それも相手を想ってのことだから責められない。
健気で尽くす女の子は庇護欲を掻き立てられます。
コノハの場合、下ネタトークも本心だから「やべぇ子」で纏められちゃうのが玉に瑕なのかもしれないw
「ゲーマーズとラブラブ王子様ゲーム」を含めて、妙に声優ネタ(ゴンさんとか)挟んでくるなと思ったら、そういうことね。
発表時点では、本当に正しく「ヒロイン達とのifルート」だったのでしょう。
そういう趣旨で僕も読んでいて、で、まさか最後の最後でひっくり返されるとは、この時は考えもしませんでした。
ドラマガ短編
爆笑した。
秀逸過ぎる3本でした。
「生徒会と青春リプレイ」は、僕が夢見た「読んでみたいシチュエーション」トップ2の夢の競演。
1つ目は、くりむ会長擁する伝説の碧陽学園生徒会とのコラボ。
ここまで存在を匂わされたら、出て来て欲しいと考えるのが人情。
完全な形では無かったもののこの夢が果たされたわけです。
2つ目は、現実ではあり得ない極限のシチュエーション。
ミステリで言う処の「クローズドサークル」ってやつです。
とある場所で強制的にゲームをやらされるシチュエーションに景太達を置いて欲しかった。
こちらは完全な形で叶いました。
巻き込まれ系シチュエーションコメディとして、笑撃度の高い一本でした。
「星ノ守千秋と恋愛シミュレーション」は、腹がよじれるほど笑わせた上で、しんみりとさせるというお得な一本。
千秋の中での花憐像が苛烈で笑った。
悪意無しでここまでのことされたら、誰でも泣くw
自業自得なのも純粋に笑える理由ですね。
リア充カップルの扱いのぞんざいさも含めて、ゲームパートは終始笑いっぱなしでした。
とはいえ、そこに千秋の悲しい決意が込められていたとは…。
ここは花憐の大きさに救われた次第。
笑いで終わらせてくれる彼女が親友になってくれたのは、千秋にとって大きな救いになってるんじゃないかなと思いました。
「ゲーマーズとゲーマーズ!」
本編と外伝、さらには、BD特典のifルートの全てを纏め上げるという荒業を見事にこなした傑作。
時系列は、本編最終巻の更に後。
景太と花憐が正式に交際を始め、景太と歩が会うことを絶った後。
だから、これが真のエンディングということになるのですが、まさかifルートを全て「千秋が作ったゲームのシナリオ」として処理してくるとは…。
この発想には舌を巻きました。
今作がゲームを題材にしてること。
千秋がゲーム作りを趣味としていること。
(さらに言えば、「星ノ守千秋と恋愛シミュレーション」で彼女の作ったものを同好会で遊んでいるという点を利用して不自然さを消している。)
こういった設定を最大限活用して、自然なシチュエーションを作り上げている。
ここに歩を投下する点は、隙が無いですよね。
確かに景太と歩の関係は、どこか中途半端さを残していた。
2人の関係にも正しくエンディングをということで、外伝の設定も持ち出して、かつ、花憐達らしい「お節介」を用いて、この1作の中で落とし込んでいる。
千秋の想いにもどこか続きを匂わせ、本編のもう1つのエンディングとしても〆ていて、本当に満足感の高いものになっていました。
シリーズを読んで来た一読者としては、感謝しかないですよ。
こういった素晴らしいエンディングを書いてくださって、心から御礼を申し上げたい気分です。
最後に
これで本当に本作は最後のようですが、良い意味で「読み尽くした」気分。
生徒会みたいに数年後に復活してくれても喜んで読みますが、一先ずは終わったなぁという気分に浸れました。
葵せきな様、仙人掌様。
楽しい時間をありがとうございました。