はじめに
ネタバレ全開で書きます。
- 作者: 平坂読,ブリキ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
- 発売日: 2014/06/05
- メディア: 文庫
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実に綺麗な「最終巻」だったと思います。
敢えて「最終巻」という言葉を使いますけれど、本当に綺麗な着地を見せられて、正直あとがき(例に漏れず本編の前にあとがきを読んだクチ)を読んだ時は「終わっちゃうんだ…」という寂然とした気持ちに支配されていたのですけれど。
最後まで読み終わった今は胸いっぱいと言いますか。
思い描けてなかった。
けれど、これ以上無いゴールを見せられて、すぅーっと体の中から空虚な悲しみが抜けていきました。
まさか「はがない」で感動して、泣かされるとは思っても居なかったので。
友情
誰が何と云おうと今作のメインヒロインは夜空と星奈。2人なんです。
あとがきで平坂先生は「夜空だ」とキッパリと言われてますけれど、僕の中ではこの2人。
恋愛劇に置き換えれば、夜空が主役で星奈は相手役。
男女がカップルになるまでを描く恋愛ドラマに於いては、どちらも主演。そんな感じ。
で、2人の場合は、恋愛では無く友情だった。
前半で見事なまでに2人らしい「信頼」を見せつけられました。
実に夜空と星奈らしく、本当に信頼という言葉で片付けていいものなのか判断に迷う部分も多々ありますけれど、これまでの隣人部でのあれやこれやで結び付いて(絡まり合った)絆が有ったんだと実感させられたんです。
本来ならこれだけで「2人は友達になれてるな」と見做せるので、わざわざ明言する必要性が無いとも言える。
けれど、そこは残念な2人。
今までも拒み続けていたように素直になれないのだから、はっきりと彼女達自身の口で「友達である」事を確認させないとですよね。
僕もそうじゃないとここまでスッキリとした気持ちにはなれてなかったかもしれません。
巻の後半はここに重きが置かれていたかな。
星奈の追い込まれ方が鮮やかでしたよね。
繰り返すようですけれど、これまた「らしい」感じで、星奈だからこその展開というか。
途中までは完全に星奈が被害者でした。
どう見ても最初に絡んできた4人組の方が悪い。
まあ、悪いと言いましても、実に人間らしいというか。
この程度の事なら現実でも「ありふれた」と形容しても差し支えの無い出来事かな。
嫉妬と友情…しかし少々間違った友情の表現…で「正義」を大上段に構えた糾弾をされる星奈は同情しかありませんでした。
ここまでは本当に被害者だったのですが、対応の残念さが実に星奈。
ナチュラルに相手の感情を逆なでして、火に油を注いでしまう。
ここまでは仕方ないで済ませられますが、その直後の罵声の中身がやっぱり言い過ぎ。
それ程頭にキタというのを差し引いても…大事な友達へのプレゼントを「有象無象が”置いていったモノ”」と同列に語られたのにムカついたとしても…星奈が被害者だったからとしても…。
言い過ぎだし、この部分だけを切り折れば星奈は加害者に回っている。
バスケでの出来事もそうだけれど、「何故彼女に友達が出来ないのか」が改めて浮き彫りにされた点というか。
これまでは「男子からの人気はあった」のに、ここに来てそれすら失ってしまい…。
星奈にとってはどうでもいい事だけれど、周りから客観的に見てると、完全に孤立してしまった状態に見えたんです。
“下僕”ですらいなくなって、星奈の味方が1人も居なくなった状態に見えた。
だから、夜空の一喝には本当に感動したんです。
星奈の味方に付くという事は、同じく全員を敵に回す行為に等しい。
孤独に自らなりにいく行為。
小鷹の「大切な人の為に、敢えて傷つきに行く事」の価値観を小さくするような…。
それ程インパクトのある夜空の自傷行為。
こんなん見せられて、「Be my freind」で締められたら、そりゃ泣きますって。
友達になるなんて、自然と…大袈裟に言えば儀式とかイベントとか必要としない、誰もが簡単にしてる行為。
それをここまでドラマティックにするなんて。
こんだけの大活劇にして盛り上げないと友達になれないなんて、夜空と星奈はどこまで残念なのか。
人類史上例を見ない程壮大な「友達になるまでのドラマ」に感涙しました。
そもそもタイトルからしておかしいんですよね。
「僕は友達が少ない」。
主人公であり、語り部である小鷹の事を指していると考えると、少々おかしい。
狙ったかのように今巻で小鷹の一人称について触れられていましたけれど、小鷹は自分を「俺」と呼んでいる。
理科に言われて「僕」にするように頑張ってましたけれど、基本は「俺」で統一していた。
少なくともこの作品は「小鷹が友達を作る為の物語」では無かったのでしょうし、多分こんな事多くの読者がとっくに認識してる事。
「最終巻」に夜空と星奈が友達になるまでをメインに据えて来たのも納得出来るんです。
ただ、本当の「最終巻」は次巻。
エピローグだけで綴られるという次巻は理科視点で纏められるんじゃないかと推測してます。
「真の語り部」である理科が作品全体を纏めてくれるんじゃないかな。
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主人公は小鷹だけれど、彼はメインの「友達作り」に於いては本人も自覚してましたけれど「夜空の友達作りの動機」にしかなってない。
確かに彼が部を辞めても問題無いと。
となると、部員を繋ぎ止めていた恋愛のケリのさせ方だけで小鷹の物語を見てみます。
個人的には星奈とくっついて欲しかった。10巻読む前までは。
読み終わった後は、星奈は夜空と見事に「ゴールイン」出来たので、他の娘でも良いんじゃないかなという気分に変わり。
故に、幸村が見事に籠絡させてみせたのですが、この結果にすんなりと納得しちゃったんです。
だって幸村も十分に魅力的でかわい…。
じゃなかった。(いや、勿論可愛いというのは僕の素直な意見ではありますが)
本編で語られていたように、最初から最後まで揺らぐことなく小鷹だけを見つめていたから…でしょうか。
その真っ直ぐさを見せられると、幸村しか無いと思わせられるには十二分な説得力がありました。
ただ、理科の気持ちだけが未解決。
途中まではどう見ても理科しか考えられないという感じでしたし、幸村も見抜いていた。
小鷹の告白を聞くまでも無く、少なくとも人狼ゲームをやっていた頃には、自分の最大のライバルは理科だと標準を定めていましたから。
で、この辺を「説明台詞にせずに、自然と読者に伝える」には、理科自身のモノローグが最適だと思うんです。
但しこの作品は所謂「神の視点」を採用せずに、一人称視点(基本小鷹視点)を採っている。
タイトルの謎解きという観点から見ても、恋愛劇の顛末という観点から見ても、最後の最後は理科の視点で締めくくるのが自然なんじゃないかな?と。
小鷹視点に於ける作品の「最終巻」としても、綺麗に纏まりますしね。
終わりに
1冊まるごとエピローグって、凄く贅沢な構成。
エピローグって正直無くても作品としては成り立つんですよね。
1ページ。1コマ。1行。
それで済ませている作品だってごまんとある。
でも、キャラに愛着が湧いていればいるほど「物語の結末後の彼ら」は気になるもの。
それを読めるのもエピローグの魅力であって、今作は文庫1冊分という分量が確約している。
物語として非常に綺麗な落とし所を見せて頂けたと感じています。
その上で、「キャラとの別れ」にこれ以上無い描写を見せて貰えるなんて…。
終わってしまう寂寥感が無い訳ではありません。
けれど、それ以上に「最上の締め」を描いてくれる平坂先生の優しさ(適切な言葉が見つからないんですが、読者に対する優しさという事で)に最敬礼といった気分ですね。
ところで、挿絵が1枚もありませんでした。
ファンの間ではブリキ先生の体調が懸念されている様で、実際にこのような形を見せられると不安も募りますね。
実際の所は不明ですが、もし体調に不良をきたしているのでしたら恢復して頂きたいものです。