この記事は
作品のジャンル分けに関する記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。
はじめに
「鋼の錬金術師」。面白い作品でした。
さてと、この作品は「ダークファンタジー」というジャンルでスクエニは紹介しており、僕の印象としてもこれと大きな隔離はありません。
まさしくファンタジーの王道。
それでいてダークな部分がしっかりと織り込まれた、まさにピッタリなキャッチコピーであり、ジャンル分けであると思います。
で、そもそも「ファンタジー」とはなんぞなというお話。
「サイエンス・フィクション」とは違うのか?
戦闘シーンに着目して「バトル」にはならないのか?
ジャンル分けについて「鋼の錬金術師」をテーマに考えてみます。
ファンタジーの定義
先ずは、これについて。
毎度お馴染み信用しすぎると痛い目を見るwikipediaさんから。
ファンタジーの定義は曖昧だが、弁別的な特質として、作品内に魔法などの空想的な要素が(現実的には有り得なくとも)内部的には矛盾なく一貫性を持った設定として導入されており、そこでは神話や伝承などから得られた着想が一貫した主題となっていることが挙げられる。
(中略)
サイエンス・フィクション(SF)との対比で言うと、SFでは世界設定や物語の展開において自然科学の法則が重要な役割を果たすのに対し、ファンタジーでは空想や象徴、魔術が重要な役割を果たす。
ただし、SF作品においても、現実世界には存在しない科学法則を仮定し、それに基づいた世界や社会を描く試みがその歴史の初期から存在すること、逆にファンタジー作品においても錬金術や魔法などに体系的な説明が用意されている場合があること、など、両者の線引きを困難にするようなケースがある。
そもそもファンタジーとSFを明確に分類する事は困難であるという事が読み取れます。
なので所詮は言ったもん勝ちな面が強いのでしょうけれど、個人的な感覚で言えば「ハガレン」はファンタジーであり、SFでは無いのです。
上記引用元の
SFでは世界設定や物語の展開において自然科学の法則が重要な役割を果たすのに対し、ファンタジーでは空想や象徴、魔術が重要な役割を果たす。
という部分が大きい。
僕自身、この2つのジャンルはこういうモノと定義していて、今作は後者に近い。
線引きの難しいファンタジーとSF。
「魔法科高校の劣等生」や「とある魔術の禁書目録」を例に取ってもう少し子細に考えます。
両作品ともアニメでしか見ていませんので、解釈がずれているかもしれませんが、あしからず。
「魔法科高校の劣等生」はSF
魔法とタイトルについているので、一見するとファンタジーなのかなと思ってしまう本作。
しかし、中身を見てSFだなと感じました。
「魔法」と言いつつ物理現象が根底にあって、「自然・物理現象を人間が強制的かつ意図的に発生させる事」を「魔法」と呼称しているに過ぎないからです。
(ここら辺の解釈が薄っぺらいor間違っているかもしれません。)
毎回「どうやって不可思議な現象を起こしたのか」が「理論的・体系的に説明」されてるんですよね。
「ハガレン」の等価交換の原理のような「物質の構成や形を変えて別の物に作り変える事」などは出来ず(当然「無から有を作り出す事」も出来ない)、「科学がどう進歩しても出来そうに無い事」は取り入れていません。
wikipediaのSFの項にある
ロバート・A・ハインラインは、「読むことのできる大半のサイエンス・フィクションの手軽で簡潔な定義は、過去や現在の現実社会や、科学的手法の性質と重要性の十分な知識に基づいた、可能な未来の出来事に関する現実的な推測」と述べた
という分類法がとっても共感できたのですが、まさにこの理屈。
今作で言うところの「魔法」である超能力のような現象を人間が起こせるという部分こそフィクションであるが(超能力がフィクションであると断言は出来ないが、現実に存在が認められていない以上はフィクションであるとします)、現象の根底には科学的な事象で固められている。
故に「魔法科高校の劣等生」はSFに仕分けられるのかなと。
「とある魔術の禁書目録」はSFファンタジー
線引きが難しいSFとファンタジー。
両方の要素を満たしているのが、「禁書」ですね。
これは作品内ではしっかりと分けられているので、ここでも分けて見てみます。(魔術サイドの人間が科学サイドのトップに居る時点で、魔術と科学は根底で同じかもですが)
ファンタジー要素を満たしているのが、魔術サイドですね。
ここでいう魔術は、ファンタジーに良くある魔法・魔術と同義。
非科学的な手段で超常現象を発生させる技術・理論の総称
です。
対して、科学サイドでSF要素を満たしている。
今作でも超能力がそれを担当しているのですが、「通常の人間には備わっていない、科学的に解明がされていない能力」ではなく、「科学的に脳を開発する事で、後発的に得られる力」となっていて、SF要素で固められています。
人間の脳には解明されていない部分も多く、また、本物かどうかは置いておいて現実に超能力者と呼ばれる人間も存在する。
「超能力を使えるようにする器官が人間の脳には存在するかもしれない」という憶測は現代に於いて否定する事は難しく(?)、この部分にフィクション要素を混ぜ込む事でSFとして昇華しています。
近い将来に於いて、超能力が科学的に裏打ちがされ、それを開発する機械が発明されるようになる。
このような夢物語は、しかし、完全に否定は出来ないんですよね。
「出来るかもしれない」という余地を残している時点でファンタジーでは無くSFと呼べるんじゃないかな。
1つの作品内で、SFとファンタジーを内在させている例。
「鋼の錬金術師」はファンタジー
錬金術は現実の歴史を紐解いてみても分かる様に、実在する技術であるが、今作の錬金術のような魔法のような側面は当然持ち合わせていない。
現実に則った錬金術を扱っていれば、それはSFの定義に含有されるべきであるが、ファンタジー色が濃くなるとそこから外しても良いのかなと思う。
上述したが、「ハガレン」に於けるそれは、等価交換を礎とし、理解・分解・再構築を持って魔法のような現象を起こす事を指している。
万能という訳では無いが、現実でどう頑張っても再現できない現象なんですよね。
再現出来ちゃったら、それは「ドラえもん」の世界になります。
SFとファンタジーの区分けをする事には何ら意味がありません。
ジャンルを定めた所で、作品の面白さに変化が生まれる訳ではありませんし、評価が変わる事も無いから。
また、この2つのジャンルは区分けが難しく、どう考えようと読者の自由に委ねられている部分でもあります。
これを念頭に置いて、それでもジャンル分けしてみると、「ハガレン」はSFでは無くてファンタジーと呼ぶ方がしっくりくるのかなと。
ただ一点「可能な未来の出来事に関する現実的な推測」という観点で読み解くと、こういう結論に至りました。
バトル漫画か否か
では次に、バトル漫画では無いのかという話。
作品のジャンルは何も1つの言葉で表す必要性はありません。
「とある魔術の禁書目録」を調べれば、SF、ファンタジーの他にバトルというジャンル分けも含まれていて、ならば「ハガレン」だってこのジャンルに当て嵌めても問題は無い訳で。
ファンによってはバトル漫画と捉えてる方も少なくは無い筈ですし、それについて僕自身否定できる言葉を持ち合わせていません。
否定する意味も無いですしね。
ただ、個人的な感覚ではバトル漫画では無いかなとは思ってます。
その理由は、主人公の1人であるエドの戦績ですね。
振り返ってみます。
エドの戦歴を振り返る
▼ROUND.01 コーネロ
原作第1話を飾った記念すべきファーストエピソード。
エド最初の相手は、リオーレでペテンを働いていたレト教の教主コーネロ。
国家錬金術師としてのエドの実力を魅せる為、当然のように圧勝。
結果:勝ち!!力でも頭脳でも圧倒。
▼ROUND.02 青の団
過激派メンバー釈放の為、列車ジャックをした東部過激派「青の団」。
その列車にたまたま乗り合わせていたエルリック兄弟は、あっさりと一団を捕縛。
リーダーっぽい眼帯男のバルドは、駅に着いて早々マスタングにまでやられていました。哀れなりw
結果:兄弟の頭脳プレー全開で圧勝。
▼ROUND.03 スカー
東部で暴れまわっていたスカーとイーストシティを舞台に初対決。
スカーの分解の錬金術と高度な体術を組み合わせた戦術に苦戦。
死を受け入れるところまで追い込まれてしまう。
右手の機械鎧まで破壊されてしまいました。
結果:惨敗。アルの叱咤とマスタングらの救援が無かったら、ここで終わっていた可能性大。
▼ROUND.04 ナンバー48(スライサー兄弟)
セントラルの元第五研究所の番人であるスライサー兄弟。
アル同様鎧に魂を定着させており、しかも、頭と胴それぞれに魂が宿っているという秘密もあり苦戦。
スカー戦から学んだ分解の錬金術らを駆使し、辛くも撃退。
ただ、決着後に現れたエンヴィーに、あっさりとやられてしまいイマイチ恰好つかず。
結果:勝ち。負けてもただでは転ばないエドらしい一面を見せた戦いでした。
▼ROUND.05 ドルチェット
アルがグリード(初代)率いるデビルズネストに拉致されてしまう。
アジトに乗り込んだエドは、そこで向かって来たドルチェットを一蹴。
ドルチェットは、刀を使った犬みたいなキメラです。(みたいなというか、犬型キメラですが)
結果:圧勝。超あっさり決着したギャグのようなバトルシーンでした。
▼ROUND.06 グリード(初代)
遂にホムンクルスと初対決!!
能力「最強の盾」に苦戦するも、錬金術師らしく、その仕組みを即座に把握し反撃。
頭の回転の速さを物語るような戦いでしたが、ブラッドレイ率いる中央軍が割って入った為、引き分け〜。
結果:押し気味でしたが引き分けという結果に。
▼ROUND.07 ランファン
ラッシュバレーで出会ったシン国の皇子リン。
彼の護衛であるランファン、フーとの戦い。
機械鎧である事の利点(って言えるのかは激しく疑問ですが)を利用して罠を張り、見事ランファンを捕える。
結果:勝ち。まあ、命を賭けた真剣勝負とはちょっと違うけれど、勝ちは勝ち。
▼ROUND.08 スカー
セントラルでの2度目の対戦。
スカーを餌にホムンクルスを引っ張り出そうとエドが画策。作戦通りスカーとの戦いに。
リザの援護などもあり、捕える寸前までいくも、メイに煙に巻かれて逃げられてしまう。
戦い的には、まあ、引き分けって感じでしょうか。
結果:引き分け。基本多対一でしたし、サシではやっぱりまだまだ敵わないかな。
▼ROUND.09 グラトニー&エンヴィー
捕えていたグラトニーが暴走。エンヴィーと合流し、エルリック兄弟&リンと戦う事に。
ホムンクルス軍団が兄弟を殺せない事をいい事に攻めたてるもグラトニーに飲みこまれてしまい有耶無耶に。
グラトニーの胎内でも、更にエンヴィーと対戦。こちらも途中で休戦。
結果:引き分け?
▼ROUND.10 お父様
セントラル地下で初めてお父様と遭遇する兄弟。
立ち向かうも錬金術が無効化されてしまう。
特に闘ったという感じではありませんでしたが、拠り所としていた錬金術を無効化されてしまった時点で負けかなと。
結果:負け。微妙なところですけれどね。
▼ROUND.11 グリード(リン)
お父様によって、グリードを体内に入れられてしまったリン。
死ぬこと無く”グリード化”。
リンがいなくなってしまった事を信じきれないエドは、油断もあったのかもしれません。
捕えられてしまいました。
結果:負け。勝負としては、捕らわれたので負けかなと。
▼ROUND.12 バッカニア
ブリッグズに渡ったエルリック兄弟。そこで北方司令部のバッカニア大尉らに囲まれてしまう。
寒冷地用機械鎧「クロコダイル」に錬金術が効かずに大苦戦。
明確に決着こそ着かなかったものの、押されたまま終わってしまいました。
結果:負け。機械鎧が寒さに耐えられなかったのも敗因でしたね。
▼ROUND.13 ザンパノ&ジェルソ
不意打ちというか騙し討ちというか。
エドの悪い顔(笑)が覗いた戦いでした。
戦いというか、一方的に混乱する2人をアルと一緒にどついたというか。
結果:勝ち。こういう少し卑怯な面もエドの魅力。
▼ROUND.14 スカ―
上記の戦いの流れで、ザンパノらが戦っていたスカーも一緒に捕縛。
戦いというより勝負に勝った感じ。
結果:それでも勝ちと言えるんじゃないかな。
▼ROUND.15 ハインケル&ダリウス
もうこの辺はギャグみたいなものですよね。ザンパノ&ジェルソ戦と同じで。
湿気たダイヤモンドから錬成したアンモニアを持って、人間より嗅覚の鋭いキメラ2人を秒殺しました。
殺してないけれどw
結果:勝ち。ある種頭脳の勝利ですかね。
▼ROUND.16 キンブリー
賢者の石を持つキンブリー。
イシュヴァール戦役で武勲を上げ、類稀なる戦闘力を有している上に、石まで使ってくる。
エドを本気で殺しに来た相手の中では、スカーに並ぶ実力者です。
その上、スカー戦には必ずいた仲間が全く居ない状況。
エドが勝てる見込みは最初から無かったのかもです。重傷を負わされてしまいました。
結果:完敗。ハインケルらが寝返ってなかったら確実に死んでましたね。
▼ROUND.17 プライド
プライドとのファーストバトルは、なんとも微妙な感じ。
良い所はアルとホーエンハイムが全て持って行きましたからねw
という事で、2戦目も纏めて総評。
お父様との最終決戦でプライドと激突したエド。
自らを賢者の石に錬成するという離れ業をやってのけたエドが、ホムンクルス最強のプライドを撃破。
結果:勝利!!相手が弱っていたとはいえ、ここは主人公の面目躍如。
▼ROUND.18 ホムンクルスもどき
一つ目の奇声を上げる憎いあんちくしょう。
わらわらと集団で湧いて出て来る奴ら。1人1人はエドらの敵では無かったものの、次から次へと出て来る為に苦戦。
最後はマスタングが簡単に全滅させました。
結果:勝ちと言って良いと思う。
▼ROUND.19 お父様
最終形態になったお父様。
このバトルは、まさしく一大巨編のバトル漫画然とした熱いモノでした。
全員で死力を尽くしてじわじわとダメージを与え、最後にエドが止めを刺す。
最終的に真理の扉の果てへと吸い込まれていく辺り、実にこの作品らしい決着でした。
結果:大勝利。
▼まとめ
19戦11勝5敗3分
「鋼の錬金術師」はバトル漫画では無い
こうして纏めてみると、数字の上では大きく勝ち越しています。
でも、強敵と戦って勝利を収めたと言える戦いが少ないのですよね。
スライサー兄弟、プライド、お父様くらいでしょうか。
きちっと戦って、勝ったと思えるのは。
あとは明らかに格下の相手からもぎ取った勝利が多いのも特徴ですね。
また、印象に強い負け方もしている。
要所要所で強敵とぶつかるも、ほぼ負けるか良くて分けるか。
以上、内容面にまでツッコんで振り返ってみると五分五分のイメージが強い。
寧ろ、エドは勝ってる場面の印象よりも負けている場面の印象の方が鮮明に残っています。
こういう「勝っているイメージが少ない」=「強いという印象が薄い」というのもありますが、物語面から捉えると「バトルが作品の主眼では無い」からなんですよね。
エルリック兄弟の行動原理は「母を錬金術で生き返らせる事」・「失った肉体を取り戻す事」でした。
人体錬成を行うために必要な情報と真理、賢者の石を求めて軍に入り、旅を続けた。
その旅の過程でホムンクルスとの戦いに身を投じていくわけであり、「敵を倒す事」が主目的では無く「真理を得る為に敵を倒していた」。
母を殺したのはホムンクルスでした…とか。
ホムンクルスを倒して世界の平和や国を取り戻す…とか。
こんな因縁や動機がエルリック兄弟にあったりしたら、バトル漫画と見做していたのですけれどね。
そうでは無かった。
バトル漫画っていうと「強くなる為」とか「世界を守る為」とか、ヒーロー然とした動機が真ん中にある事が”多い”。
そして、敵とのバトル描写に重きが置かれている。
「ハガレン」はそうでは無くて、どちらかといえば謎解きに主眼が置かれていた。
「どうすれば体を取り戻せるのか?」という謎解き。
謎の答えを知っていそうな連中が敵という形で現れ、それと接する事(必ずしも倒す必要は無く、負けてもヒントを得ていた)でヒントを得て、更に旅を続けて…という繰り返しからなる本作はバトル漫画では無かったと個人的には思っています。
まとめ
ジャンル分けって難しいし、する意味も無いかもしれない。
しかし、「自分なりの定義を持つ事」は必要だと思います。
ネット上で良く見かけるのが「オススメの漫画を教えてください」という質問。
具体的に作品名が挙げられている場合は、比較的似た作品を教え合ったりも容易なのですけれど、ジャンルだけで聞かれると答えに悩む事もあります。
ネットで答えた事は無いんですけれど、プライベートではたまにあるんですよね。
友人から「面白い〇〇漫画無い?」って聞かれる事。(〇〇にジャンルが入ります)
で、ジャンルから「同じジャンルだと思っている作品」を挙げても「これ違くない」と一蹴されちゃう事もある訳です。
僕の中で例えばバトル漫画としていた作品も、友人によれば「冒険活劇」に区分されるとか。
「スポーツ漫画」として薦めても「バトル漫画」と捉えられちゃうとか。
他には、ミステリとサスペンスの違いとか大きいですよね。
僕の中ではこの2つは明確に分けられているんですが、世間一般ではごっちゃになっている印象が強い。
個人的にミステリを所望して、宣伝を信用して購入して読んでみたら(個人的に)サスペンスでしたガッカリ…なんて経験も多いんです。
勿論、その上で面白かったと感じれる事もいっぱいあるんですけれどね。
「外天楼」がまさにそんな漫画でした。(ミステリじゃ無かったけれど、面白いと感じた作品)
ともあれ、「オススメの漫画」を他人に聞きたい場合は、自分の中でジャンルの定義付けをしっかりしておくと便利な気がするんです。
こういった「ジャンルの捉え方の違い」は、ブログなどの感想等を読んでみれば分かる事もあります。
「秀逸なミステリでした」と感想文中に書かれていても、読み進めて行けば「これは僕の考えるミステリでは無いな」と気付けたり。
ジャンルの捉え方の違いが作品の面白さの本質にこそ影響は無いけれど、求めているジャンルで無かったらがっかりする事もある。
そんな経験を少なくする為に。
自分が”今”求めている新しい作品に出会いたかったら、ジャンルの定義を持っている事って割と重要なのではないかなと。