ミステリな冒頭に惹かれた
僕は数年前から「ジャンプ」は電子版を定期購読している…というのは何度か書いてきました。
通常の「週刊少年ジャンプ」だけではなく、増刊号も配信されるのがお得ポイントだったりします。
とはいえ、基本的に増刊号は読まない僕。
電子版の恩恵を自分から無駄にしてたわけです。
そんな折、てか、昨日。
寝る前に「ジャンプBOOKストア!」にアクセスして、初めて増刊号を開いてみました。
「約束のネバーランド」が表紙を飾っている「ジャンプGIGA」vol.3です。
ぺらぺらとスクロールして、ふと目に留まったのが「幽霊と水平思考」でした。
原作に奥野秀和さん。(デビュー2作目。今回は初の原作担当)
作画に村雲巧さん。(デビュー作?)
フレッシュな陣容で作られた漫画です。
高所の見当たらない場所に横たわる少女の転落遺体。
見開きでミステリ的シチュエーションをでーんと魅せられて、興味が引かれたのです。
面白かったので、ちょっとだけ感想を書いてみます。
殆どネタバレしてますので、ご留意ください。
突然ですが、問題です。
2017年12月29日。
台風の直撃を受けた渋谷のとある公園。
辺り一帯何も無い平地で発見された少女の遺体。
転落死と結論付けられたものの、一体どこから彼女は落ちたというのか?
新年のカウントダウンを間近にした夜、少女の幽霊と閻魔様の使者を名乗るキツネ面を被った人物の奇妙な会話が始まる。
こんな感じで始まる今作。
不可解なシチュエーションが提示される訳です。
「少女は一体どこから墜落して、亡くなってしまったのか?」
このお題を幽霊となった少女とキツネ(面の人)さんが解いていくというお話。
ミステリ好きの僕は、ぞくぞくしました。
まだ幼い少女の死というキツイ状況から始まるのですが、どんな謎が隠されているのかが気になって仕方なかったのです。
さて、この謎解きに「水平思考ゲーム」というのが用いられます。
ご存知ですか、このゲーム。
僕は知りませんでした。
呼び方は様々なようですが、結構昔から存在し、数年前に2ちゃんねるなどで流行ったみたいですね。
ルールは至ってシンプル。
10問の設問に、YES/NOのみで回答し、真相に辿りつけばOK。
今作では、キツネさんが質問をして、少女が答えていきます。
シンプルですが、その分奥が深いゲームですね。
10問しか質問できなくて、YESかNOで答えられるものではないといけない。
「大事なのは発想力と前提に囚われない機転」とはよく言ったものです。
闇雲に質問を投げてはいけません。
頭を捻らないとですよね。
キツネさんも手こずります。
そこでキツネさん。
タブレットを取り出して彼女が亡くなった時の状況を調べます。
色々と状況が判明しました。
台風の影響で、公園の柵が壊れていたりね。
さて、では問題です。
この漫画の結末はどうなっているのでしょうか?
ヒントは、「少女がどうやって転落死したのか」をテーマとした漫画ではありません。以上。
ネタバレ気味の解答です
そうなんですよね。
最後まで読んで判明する仕組みなのですが、少女の転落死の謎を巡るお話じゃないんですよ。
寧ろそこを「謎」として「ミステリ漫画として楽しむ」ことを主旨としていません。
だって、少女の死の真相に読者がキツネさんよりも先に解くことは出来ないのだから。
予め転落死の謎に纏わる伏線が張ってあり、読者がそれをヒントに真相に辿りつくという構造ならば可能ですが、今作は前提からそれを否定しています。
あくまでもキツネさんが少女に質問する内容と答えがヒントになっているからです。
キツネさんの推理(?)を同時進行で眺めるということしか読者には出来ず、先に答えに辿りつくまでの材料が提示されません。
だから、この漫画はミステリじゃないんです。
この漫画は、「少女とキツネさんが出会ったのが何時なのか」が大事なのです。
読者は自然と漫画内の日時を「2017年12月31日」だと思いこまされます。
でも、それだと辻褄が合わないんですよ。
事件か事故かも不明な少女の怪死。
問題編(?)1つ目の画像で「日本警察も匙を投げた」となってますが、たったの2日で警察が解決を諦めるでしょうか?
あり得ませんよね。
2つ目の画像。
水平思考ゲームが流行ったのを昔だと懐かしむキツネさんとそれを見てそんな昔じゃないよと言う少女。
意見が食い違っているのは何故なのか。
3つ目の画像では「しっかりと柵がある現在」が描かれ、5つ目では「事件当日壊れた柵」が描かれている。
煩わしい事務処理さえ挟まなければ半日もあれば十分柵を直す事は可能でしょう。
けれど、「事件に関係あるかもしれない、事件現場の柵」を直す事を事件発生から2日以内に警察は許可するでしょうか?
4つ目の画像。
薄っい近未来的タブレットは、文字通り生きていた頃の少女から見て「近未来」のものなのではないか…。
事細かに物語のクライマックスに繋がる伏線が仕込まれていて、読み返して感嘆してしまいました。
初読でこの結末を想像出来たら凄いと思う。
見事なトリックでした。
まとめ
絵が上手かった。
すっきりシャープな線に、構図も工夫が十分施されていて見易い。
作品の雰囲気にもマッチしています。
読み始めるのに、なんの抵抗もなくスルッと入れました。
そうやって作品世界に入って、ラストのオチに良い意味でひっくり返りました。
まさかこんな感動的なオチが待っていようとは。
しっかりと伏線も張ってあって、驚きの展開を「超展開」にせずに自然と組み込まれています。
完全完璧に完結してる物語なので、今作を連載作にはどうやっても出来ません。
ですが、同じコンビで似たような作風のお話を読んでみたいと思いました。
次回は「ジャンプ」本誌で読みたいコンビですね。