この記事は
「週刊少年ジャンプ」とミステリ漫画に関する記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。
はじめに
「週刊少年ジャンプ」。
雑誌不況が叫ばれる昨今に於いても、300万部を発行し続ける日本を代表する少年漫画誌です。
バトル漫画を得意とし、それだけではなく、ギャグもコメディもスポーツ、恋愛、ホラーでさえも。
どんなジャンルでも輝かしい実績を残し続けている漫画誌です。
もはや向かう所敵無しになりつつありますが、そんな事もありません。
やはりどんなものにも得手不得手はあるもの。
「ジャンプ」にも苦手なものがあります。
ミステリ漫画ですね。
今回は、WJとミステリ漫画について。
ミステリ漫画の歴史
漫画オリジナルのミステリ漫画の歴史は、御存知のように非常に新しいものです。
昔は、やはり推理小説を原作としたコミカライズが主流であり、オリジナルであっても本格風味の薄いモノがぽつぽつとある程度だったようです。
例えば「ハロー張りネズミ」。
「島耕作」シリーズなどでお馴染みの弘兼先生による作品で、僕も1巻だけ読んだことがあります。
基本的に「推理要素」は薄いものの、中にはガッツリ本格風味のミステリを扱ったエピソードもありました。
ただ、少年漫画にはやはり馴染の薄いジャンルでした。
そんな中少年漫画の中に「オリジナルのミステリ漫画」を確立させたのが「金田一少年の事件簿」。
似たような事を過去に何度も書いている気がしますが、まあ、事実なので(汗
これが1992年の事。
この数年後、連載誌である「週刊少年マガジン」は、「金田一」・「GTO」の2枚看板の勢いで「ジャンプ」の最高発行部数を塗り替えました。
当時は、夕方のニュース番組にまで取り上げられるほどの大ニュースだったんですよね。
さて。
1本ヒット作が出ると、二匹目のドジョウを狙うのは、どの業界でも当たり前の事ですね。
ここから怒涛の如くミステリ漫画が量産されます。
「本格推理」のみでは無く、ミステリ要素の濃い作品も含めて、年代順に少年誌で連載されたミステリ漫画を5年分程書き連ねていきます。
□1994年
「名探偵コナン」(「週刊少年サンデー」)
「少年探偵彼方 ぼくらの推理ノート 」(「月刊少年ギャグ王」)
□1995年
「人形草紙あやつり左近」(「週刊少年ジャンプ」)
□1996年
「サイコメトラーEIJI」(「週刊少年マガジン」)
「秘密警察ホームズ」(「月刊コロコロコミック」)
「心理捜査官 草薙葵」(「週刊少年ジャンプ」)
□1997年
「Q.E.D.-証明終了-」(「マガジンGREAT」)
「探偵ボーズ21休さん」(「週刊少年チャンピオン」)
□1998年
「少年探偵Q」(「週刊少年ジャンプ」)
「僕は少年探偵ダン♪♪」(「週刊少年ジャンプ」)
「金田一」以前はあっても数える程だったのに、分かりやすいくらい「金田一」後にはドッと増えました。
この中でヒットしたのは「コナン」と「Q.E.D.」、「EIJI」くらいでしょうか。
(「EIJI」の原作者・安童夕馬氏は「金田一」原案・原作の天樹先生と同一人物なので、これは後追いとは言えないかも)
特に「コナン」は言わずもがなですね。
「金田一」と「コナン」でコミックス年間売り上げのトップ争いをしていた年もありました。
まあ、早い話ヒット率がとっても低いのがこのジャンル。
理由は簡単。作るのが難しいから。
話(トリックなど)を考えるのが大変でしょうからね。
あとは、人を選んでしまうのも難点と言えるかもです。
どうしても台詞量が多くなってしまう傾向がありますし、それで敬遠しちゃうって事はあるでしょうね。
で、上の5年間の中にも「ジャンプ」のミステリは4つもありました。
ですが、どれも短命でした。残念な事に。
ジャンプのミステリへの挑戦
「WJ」最初にして最大のヒット作と言えるのが「人形草子(からくりぞうし)あやつり左近」ではないでしょうか。
作画は小畑健先生。原作は「力人伝説」で小畑先生と組んだ事もある宮崎まさる先生(「写楽麿」名義)。
約半年、全4巻という形であり事実上の打ち切り作品ではありましたが、連載終了後の99年にアニメ化。
ドラマCDやノベライズ等派生作品も多く作られ、打ち切られた割には、結構恵まれたメディア展開がされてました。
ただ、アニメはWOWOWだったのは個人的に残念でした。
契約してなかったから、見れなかったから。見たかったのに。
内容は、しっかりとミステリをしていました。
やはり少年向けという事もあり、難易度的には易しい部類でしたけれども。
小畑先生の画力で「おどろおどろしい雰囲気」を作られていたり、雰囲気も抜群でしたね。
この「左近」終了後、次にジャンプが放ったのが「草薙葵」。
こっちは作品そのものより、”場外乱闘”の方が有名になっちゃいました(汗
それはさておき、内容はというと。
プロファイリングを駆使する主人公が猟奇殺人に挑むというもの。
読者が推理を楽しむというより、作中の主人公の推理を純粋に楽しむような作り…という感じだったかな。
この漫画の少し前に「週マガ」で始まった「EIJI」に近い作風だったかもしれません。
あっちもヒロイン(?)の志摩がプロファイリングを駆使する捜査手法を率先してましたし、猟奇殺人を扱ってましたしね。
「EIJI」に比べても、こっちも悪く無かったと思うのですけれどね。
風呂場で傘刺した状態で殺されていたお天気お姉さんの絵は、トラウマものでしたw
「WJ」読者には受け入れられなかったのか。全3巻で終わってしまいました。
2作連続で”失敗”(という言葉は使いたくないけれど、結果的にはそうだったので…)した「WJ」。
三作目には「少年探偵Q」を起用。
当時誌上を賑わせていた「和月組」から、連載2作目の挑戦となるしんがぎん先生が作画を担当していました。
ああ、ちょっと脇道に逸れますが、「和月組」の活躍は凄かったですね。
「るろうに剣心」の和月師匠を筆頭にして、「ONE PIECE」の尾田先生、「シャーマンキング」の武井先生、「Mr.FULLSWING」の鈴木先生等々。
90年代末期から2000年代序盤くらいまで、続々とデビューを飾ってました。
だから‥という訳では無いですが、この漫画には期待していたんです。
というのも、所謂「少年漫画のミステリ」のメソッドを初めて取り入れた作品でもあったからです。
過去2作の主人公は、どちらも青年でありました。
これがダメだったのかもしれませんし、編集部としてもそう分析したのかも?
読者が憧れる存在として主人公を設定するのではなく、読者に身近な設定にして親近感を与えるようしたのかもしれません。
なんにせよ、「少年探偵Q」では、学生を主人公に据えました。
小学生と少々…というかかなり幼くし過ぎてしまって、それはやり過ぎ感もありましたがw
(僕は少年誌におけるミステリ漫画の主人公は、高校生くらいが丁度良い年齢だと思います。「コナン」が許されているのは、「頭脳は高校生」だからだかな。)
ま、それは兎も角。
主人公の設定をジャンプメイン読者である小中学生に馴染み深い存在に近づけ、絵柄も作風も明るめにして。
当時は「コナン」寄りにチャレンジした作品のようにも思えました。
ただ残念無念。
今度は…というと変ですけれど、原作が少々残念でしたね。
過去2作の方が「ミステリ」としては上だった気がします。
どうも制作状況が宜しくなかったようですね。
原作者が協力的で無かったのか…。よく分かりませんが、がぎん先生すら先の展開(事件の真相)を知らされず描いていたようです。
そりゃ…破綻もしますよね(汗
そんな訳で全2巻という、最も短期で突き抜けました。
もう、3作で諦めちゃったのでしょうね。
「WJ」って3本打ち切られた作家は”左遷”されるという都市伝説もありますし、3作失敗した「ミステリ漫画」も同様に締め出されちゃったのかもしれませんw
思いっきりギャグに振った「僕は少年探偵ダン♪♪」の登場となります。
作者はガモウひろし先生。
ガモウ先生の特徴は、ドミノ倒しのような計算された展開です。
「ラッキーマン」の時もそうでした。
一つのラッキーが、あれよとあれよと色々なものに作用していって、最終的に敵宇宙人に当たって勝利するという展開が初期の定番展開でした。
この作品もそれが遺憾なく発揮されていましたが、全2巻19回で完結しちゃいました。
これは、まあ僕の中では推理漫画というより「酢入り漫画」でしたね。
「ジャンプはミステリ漫画を諦めた」と思ってしまったのが本音です。
「金田一」から始まったブームに乗った「WJ」ですが、放った弾4発とも不発に終わってしまった。
これで完全に諦めたものと思いました。
ジャンプらしさを追加したミステリ
「僕は少年探偵ダン♪♪」終了の99年から6年。
「魔人探偵脳噛ネウロ」が連載されます。作者は松井先生。
大ヒットとは呼べないかもですが、TVアニメ、ドラマCD、ノベライズ、ゲームとメディアミックスを展開させつつ、4年超の長期連載を果たしました。
これだけでも成功と言えると思うのですが、物語的にもきっちりと完結させてある為、より「綺麗に終わった」という印象の強い作品でした。
ミステリを諦めたジャンプで、懲りもせずミステリかと思いきや、本作は「ミステリの皮を被った作品」でしたね。
「読者に推理させない」という意味では、究極形かもしれません。
(トリックなど事件解明に繋がる)伏線などお構いなし。
ネウロが、摩訶不思議な道具を駆使して捜査して、一方的に事件を解決していく様を楽しむ作品でした。
中盤以降は、この要素をしっかりと守りつつも、異能力を有する犯罪者達との死闘を描いたジャンプ的な展開となり、まさに「ジャンプだからこそ出来たミステリ漫画」と言ってもいいのかもしれません。
サスペンス。ギャグ。スリラー。アクション。アドベンチャー。そして軽くミステリ。
様々な要素が渾然一体となり、それでもきちんと一つの作品に纏まっていた。
そんな漫画だったかな。
やはり、ジャンプの読者にはミステリは合わないという事が編集部も承知なのだと思います。
「左近」で本格派に、「草薙葵」で猟奇ミステリを、「少年探偵Q」で少年漫画風ミステリ(漫画版ジュブナイル)、「ダン♪♪」でギャグミステリと。
4本で学んだ結果出した答え。
ならばという事で、ジャンプ風味を思いっきり入れたのが「ネウロ」だったのかもしれません。
バトルしつつ、しっかりと根底にはミステリ要素は確かにありましたから。
「DEATH NOTE」
ジャンプとミステリを語る上で、無視しちゃいけないのは「DEATH NOTE」ですね。
でも、僕はこの作品「ミステリ漫画」とは思っていません。
「サスペンス」かな。敢えてジャンル分けするならば。
ただ、僕の言うミステリは狭義の意味として使っている為、一般的には、これもミステリに含めるべきかと思い、少し触れます。
原作者の大場つぐみさんは、ガモウ先生が有力視されています。
というか、ほぼ間違いないでしょうね。
「バクマン。」のコミックスに載ってたネームの絵は、どう見ても氏のタッチでしたし。
作風もそう思って見返すとガモウ先生の過去作と類似する部分がある。
「ラッキーマン」や「ダン♪♪」のように、やはり計算されたドミノ倒しを見ているような錯覚に陥る訳です。
まあ、それはさておきまして、この作品も過去の経験が活かされているように思います。
「ネウロ」の項でも触れた様に、本格派ミステリとは違い、サスペンス色を全面に出していました。
ジャンプだと「暗闇をぶっとばせ!」に近い物を感じるかな…。
あの漫画は、なんていうか、知的な部分が一切無かった肉体労働系だったので、趣は随分と違いますが。
ただ、殺人犯との攻防という意味では、近い物があると思いますね。
名探偵VS犯罪者という図式はそのままに、犯罪者を主人公にして、更に漫画的なルールを盛り込む。
そのルールの中での駆け引きを描いており、それこそ社会現象と呼べるほどの過熱ぶりを見せていました。
毎週毎週「ジャンプ」は「デスノ」で盛り上がっていた。
そういう時期でありました。
てなわけで、現実に則ったミステリではなく、漫画的なフィクションを一杯盛り込んだ「ミステリ」としてジャンプで成功を納めた記念碑的な作品であったように思われます。
この成功があったからこそ、「ネウロ」もやりやすくなった可能性はあるんじゃないかな。
雑誌の救世主になり得るジャンル
さてさて。
「DEATH NOTE」の加熱ぶりに少しだけ触れましたが。
当時は本当にネットで盛り上がっておりました。
それこそ毎日のように「ネタバレはまだか」、「早売りはまだか」という騒ぎ。
こぞって、ジャンプの発売日を今や遅しと待っていた時期だったんですよね。
こういうのを垣間見てしまうと、ミステリの力って凄いモノだと思うのです。
ミステリ程、ネタバレを知りたくないと思ってしまうジャンルだから…ですね。
ネタバレを知りたくないなら、雑誌で連載を追うのが一番です。
加えて「デスノ」の場合は、毎週のヒキが強かった。
次回が気になるような展開で引くのは連載漫画の宿命であり、皆やっている事ですが、ミステリに付き纏う「ネタバレへの恐怖」も手伝って、より「早く続きが見たい」という気分にさせられていたのかなと。
「デスノ」連載時期(2004〜2006)のジャンプの発行部数を見ると普通に右肩下がりであり、雑誌の売上に貢献できているとは証明できませんけれど…。
それでも、雑誌離れに歯止めを掛けられる事にはなるんじゃないかなと思うのです。
発行部数は、⇒のエントリで確認できます ⇒⇒ 「発行部数から見る「ONE PIECE」とジャンプの関係」
「金田一」が良い例ですかね。
全盛期の「金田一」が「マガジン」の売上を支えていた理由として、一つに「真相当てクイズ」があったと思っています。
これは、「週マガ」誌上で行われていた(今でも時折やってるようですね)もので、問題編終了時に「犯人・トリック・特定の理由」等が設問され、それに全て正解すると豪華賞品が貰えるというもの。
当然これは毎週きちんと「週マガ」での連載を追っていないと参加できない企画です。
立ち読みなどでも参加できない事も無いでしょうけれど、選択式では無く記述式の答案である為、なかなかに難しい。
やはり「週マガ」を毎週ちゃんと購入して、じっくり取り組むべき企画だったように思われます。
だから、コミックス派には絶対に参加出来ない「週マガ読者限定の特典」と言っても過言では無いのです。
で、この「真相当てクイズ」、一番多い時で48000通もの応募があったそうです。(93年「悲恋湖伝説殺人事件」)
「金田一」がドラマ化で本格的にブレイクしたのが95年の事。
その2年前、まだまだ「無名」と言っても良い位の時期に叩きだした記録。
当時のマガジン読者は、夢中になって謎解きに興じていたのでしょうね。
以降平均で1万通程度の応募は毎回あったようで、この企画は、雑誌を読ませるのに一役買っていたと考えられる訳です。
やはり「ミステリ」には、人を惹き付ける魔力があるんじゃないかな。
まとめ
「ONE PIECE」等の頑張りによって、このご時世の中、少しとはいえ部数を盛り返している「ジャンプ」。
しかし、この先回復し続けるかというと難しいでしょう。
「WJ」に限った話ではありませんが、毎週雑誌で読みたくなるようなミステリ作品を打ち出し続ければ、雑誌離れも軽減できるのかなと。
ただ、「DEATH NOTE」のようなタイプは、長期間連載には不向きだと思いますけれど。
「デスノ」でさえ、12巻は長すぎたと感じていました。
「マガジン」で言えば、「BLOODY MONDAY」も。(これも樹林氏原作ですね。そういえばw)
「ブラマン」は特に長すぎた。
人間、緊張感は長く続かないから、あまりにも長いと読んでいて疲れちゃうんですよね。
緊張感を保ったまま、ドキドキハラハラさせたいなら、短いスパンでスパッと終われる作品が良いと、個人的には思う訳です。
こういった制約というか難しい面というか…なんでもかんでも良いという訳では無いですが、短い間隔で次々と「先の気になるミステリ」を量産できれば面白い事になりそうです。
唯一と言っていいかもしれない苦手なジャンルを、「ジャンプ」らしさを盛り込む事で克服しつつある「週刊少年ジャンプ」。
このジャンルが、雑誌の未来を切り開く救世主になるのかもしれないな〜と。
「ジャンプにしか出来ないジャンプらしいミステリ漫画」も、一人のミステリ好きとしてはまた読んでみたいですしね。