ジャンプが早期打ち切り漫画を"輩出"し続けるのは何故か

この記事は

ジャンプに限らないのですが、早期打ち切り漫画が何故無くならないのかに焦点を当てた考察。
今回は、特に「ジャンプ」について検証。

人間は成長する生き物であるはず

人間は失敗をします。
失敗をしたら、何故そうなったのかを検証し、同じ轍を踏まない様努めます。
次にまた失敗したら、また検証し、糧とし…。
このサイクルを以て、人間は成長するものです。

編集部だって同じですよね。
短期打ち切り漫画を出した。
何故失敗したのか検証する。
検証に必要な材料はいくらでもあります。
一番大きいのは、打ち切りの是非を直接決めている読者アンケートでしょう。

アンケートには、面白い・面白くないを問う項目の他に、何故面白くないのかを問う質問が混ぜられている。
そこに寄せられる読者の率直な意見。
時には目を覆いたくなるようなことが書かれているのかもしれない。
批評を通り越して罵詈雑言が連ねてあるだけかもしれない。

けれど、大切な意見であるはずです。

それを収集し、分析し、同じ失敗をしないようとする。
同じ失敗…つまりは、早期打ち切りになりそうな漫画を新連載として世に出さないように努める。

そのはずです。

が、「ジャンプ」は早期打ち切り漫画を輩出し続けています。

データ

では、どれ程早期打ち切り漫画を出しているのでしょうか。
連載半年25話以下を早期打ち切りと仮定し、ここ5年間の作品をデータとしてまとめました。
尚、掲載年は発行した年ではなく、号数を基準とします。

掲載年作品名作者
2012戦星のバルジ堀越耕平
2012タカマガハラ川井十三
2012烈!!!伊達先パイ近藤信輔
2012HUNGRY JOKER田畠裕基
2012新米婦警キルコさん平方昌宏

2012年は新連載12本中5本が早期打ち切り。
「パジャマな彼女。」(26話)、「恋染紅葉」(31話)とギリギリ圏外の作品もあり、打ち切り率は非常に高くなっています。

掲載年作品名作者
2013恋するエジソン渡邉築
2013無刀ブラック野々上大二郎
2013スモーキーB.B.河田悠冶&小宮山健太
2013クロクロク中村充志
2013ひめドル!!今日和老
2013HACHI -東京23宮-西義之
2013恋のキューピッド 焼野原塵長谷川智広

10本の新連載中該当は7作品。
早期打ち切り率7割です。

掲載年作品名作者
2014アイアンナイト屋宜知宏
2014i・ショウジョ高山としのり
2014ステルス交境曲天野洋一&成田良悟
2014TOKYO WONDER BOYS伊達恒大&下山健人
2014三ツ首コンドル石山諒
2014ヨアケモノ芝田優作
2014ジュウドウズ近藤信輔
2014ハイファイクラスタ後藤逸平
2014Sporting Salt久保田ゆうと
2014卓上のアゲハ古屋樹
2014E-ROBOT山本亮平

2014年は、前年にも増して新連載を投下。
14本を投入したものの、11本が敢え無く散りました。
ただ、「i・ショウジョ」は「i・ショウジョ+」とタイトルを変えて、現在も連載中です。

i・ショウジョ+ 1 (ジャンプコミックス)

i・ショウジョ+ 1 (ジャンプコミックス)

掲載年作品名作者
2015学糾法廷小畑健&榎伸晃
2015改造人間ロギイ三木有
2015Ultra Battle Satellite打見佑祐
2015レディ・ジャスティス荻野ケン
2015デビリーマン福田健太郎
2015ベストブルー平方昌宏
2015バディストライクKAITO

7本が対象となっています。
12本中7本なので、やはり確率は高めです。

掲載年作品名作者
2016たくあんとバツの日常閻魔帳井谷賢太郎
2016ラブラッシュ!山本亮平
2016レッドスプライト屋宜知宏
2016歪のアマルガム石山諒
2016デモンズプラン岡本喜道
2016オレゴラッソ馬上鷹将

「オレゴラッソ」は次号で終わるでしょうから、載せておきます。
「BORUTO」を除いて、新連載10本。うち6本が打ち切りでした。

大体毎年良くて5割。悪いと8割近い確率で早期打ち切りを出している事になりますね。
これでも近年は「我慢」している方で、3か月以内というのが非常に少なくなってきた感がありますが、少し幅を広げると非常に多くの作品が打ち切りに合っている現状が分かります。

何故同じ轍を踏むのか

人間は考える葦である。
そう。人間は考える事が出来るんです。
そうやって強く生きてきた。

では何故編集部は同じ過ちを繰り返すのでしょうか。
例えば、同じジャンルの漫画を続けて投入し続けることがあります。

バスケ漫画だと
「どがしかでん!(2008)」⇒「黒子のバスケ(2009)」⇒「フープメン(2009)」

サッカー漫画で言えば
「マイスター(2009)」⇒「少年疾駆(2010)」⇒「LIGHT WING(2010)」⇒「DOIS SOL(2011)」

「黒子」と「フープメン」は本当に短い間隔で投入されていたから、よっぽどバスケ漫画を当てたかったのか…。
結果生き残ったのは「黒子のバスケ」のみ。

何故に早期打ち切りにあったジャンルを被せて来るのか、不思議であります。

先にも書きましたように、アンケートを取っている以上、編集部には生きたデータがある訳です。
それを分析し活かせば、「早期」打ち切りとなる漫画を減らせる可能性が高まると僕なんかは思う訳です。
まったくのゼロにすることは無理でも、数を少しずつ減らせて行けるんじゃないかなと。

蓄積(ノウハウ)は40年以上あるんですから。

だけれど、いっこうに減る気配が見えない。
こうなると、学習してないんじゃなかろうかと首をかしげたくもなるのです。

読者の声を反映させたからと言って、そんな簡単に早期打ち切り漫画を減らせるわけがないという意見も一理あるでしょう。
でも、プロの編集者が長年にわたるデータを以てして、それが不可能かと言えば、僕は可能だと思うのです。
難しいには決まってる。
けれど、減らせることは出来るんじゃないかな。

それなのにデータ上には現れていない。
早期打ち切り漫画を生み出し続けています。

それは何故なのか?
僕はそのヒントが、先程触れた「同じジャンルの漫画ばかり集中させる」点に隠れている気がするのです。

私見

編集者が早期打ち切りにならないよう考えて世に出した漫画は、人気が出るでしょうか?
って言っても答えなんか無いんですけれど。

そこを敢えて予想してみると、「ヒット」はするんじゃないかなと。
「早期打ち切り」は当然のごとく回避し、ある程度は続く。
けれど、「大ヒット」と呼べるところまではなかなかいかない。
そう考えています。

枠にはめ込んだ、教科書通りの作品がムーブメントを起こす程の大ヒット作に化ける可能性は、ずっと低いんじゃないかな。

いつだって大ヒットするものは、既存の概念をぶち破った新しい発見から生まれるんです。
エポック・メイキング。

「SLAM DUNK」は連載開始時、売れないと言われたそうです。
当時はバスケ漫画は売れないという風潮があったから。

「ONE PIECE」はルフィの目玉の大きさがダメだと言われたそうです。
小さくて売れる絵じゃないと。

計算して出したものには到底真似できない。
編集部の予想を覆す大発見。

もしも、編集部の意見がまかり通っていたら「スラダン」も「ワンピ」も生まれなかったかもしれない。
取り敢えずやってみようの精神って大事だなと感じます。

「ジャンプ」を長年読んでたりすると、1話読んだ時点で打ち切られるかどうかの予想が立てられます。
3話まで読むと、確信に変わり、割と高確率で予想は当たります。

けれど、たまに予想を外してくる作品がある。
編集部はそういう「予想を裏切る作品」を生み出したいんじゃないかな。

誰もが、バスケ漫画は当たらないという。
サッカー漫画は打ち切られてばかりなのに、何故まだ投入するのかと疑問を発する。
それは編集部は承知の上。
そういった予想を超えて、早期打ち切りを掻い潜る作品を生み出したい。
「黒子のバスケ」のような作品を生み出したいんですよ、きっと。

データからは割り出せない、とびっきりの計算外のバケモノを生み出したいんですよ。
「スラダン」や「ワンピ」のような。

ところで、話変わりますが「SLAM DUNK」の略称って「スラダン」で大丈夫…?
オラ、不安になってきたずら。

閑話休題。
エポック・メイキングに期待して、どこかダメだと思っても、投入してくるんじゃないかな。

つまり、短期打ち切り漫画がいっこうに無くならないのは、裏を返せば、編集部が常にチャレンジし続けている証左なんですよ。
「売れると計算した型に嵌ったお利口な作品」に頼らない作り方をしてる証拠なのかなと。

「ジャンプ」がいつまでも挑戦し続けるから、雑誌不況の今でも売れ続けているのだと思うのです。

終わりに

当たり前ですが、打ち切られること前提で投入される漫画なんて無いはずです。
編集者がどこか「これはイケる」という点を見出していて、売る為に投入されている筈です。
でも、一方で、強烈なダメだしのある作品でもあるのかもしれませんよね。
「こいつぁ、売れねえよ」と痛烈に社内で批判され、だからこそ、連載が決定してるとかさ。

批判通り打ち切られる作品が大半なのかもですが、批判を覆して生き残った漫画が、「ジャンプ」の屋台骨となっている。
そう考えると、早期打ち切りを掻い潜った漫画はどれもこれも、凄い漫画に思えてきませんか。
批判を覆した格好良い漫画に。

個人的には「鬼滅の刃」がそれなんですよね。
1話でダメだろうなと思ったら、今や大人気ですからね。
僕のダメだしを刃で返して、大活躍~。
やられた僕も、今じゃ面白く読ませてもらっているので、痛くない。

うん。
編集部の実の意図は勿論分かりません。
けれど、傍から…素人の僕からは、そういう風に映っているのです。

今も「駄目だし」から必死に這い上がろうとしてる漫画が生まれようとしてるのかもしれません。

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