はじめに
「神のみぞ知るセカイ」を全巻新品購入して、3日かけて読破してから1ヶ月が経ちました。
抜群の面白さ。
ヒロイン攻略編だけで終わっていたらここまで称賛を送ってなかったと思うのですが、女神篇からの過去篇、そしてラストの流れが余韻も含めて実に心地いい。
「攻略したら、はい、それまで。さようなら」というのって味気ないじゃないですか。
嫌だったんですよね。
それこそゲームみたいで。
だから再攻略が始まった女神篇から縦軸のストーリーが本格的に動き出して、それまで攻略してきたヒロイン1人1人に今一度スポットが当たる展開は、実に僕得でした。
別に「女神が入ってなかったから、じゃあ次」のように、女神がいるかどうか確かめられるだけに出て来たヒロインが居ても良いんです。
そこは物語の都合上致し方ないですからね。
全員を拾っていたら、それこそ収拾付かないというか、物語として成立しづらいですから。
でも、ほぼくまなく出て来てくれたことで「過去」になってなかったというか。
桂馬の中でも「無かった事」になってないんだろうなと思えたので良かったんです。
そんな女神篇を経て、物語は最終章となった過去篇へ。
そして、スゲエ納得の結末が描かれたわけですが…。
何故僕がそうまで惚れ込んだのか。
桂馬の選んだ恋の結末に心底得心したからです。
ちひろが選ばれた事がとっっても良かったんですよ。
白状すれば、僕が好きなヒロインは、歩美と栞です。
対照的な性格をした2人なんですけれど、好きになったものは仕方ない。
ちひろは4番目か5番目くらいでしょうか。
好きな順としましては。
何が言いたいのかと申しますと「一番お気にのヒロインが選ばれたから」という理由で、良かったと絶賛している訳では無いという事ですね。
それを踏まえて、では、何故良かったのかと言えば、ちひろのポジションが唯一無二だったからです。
女神で左右されるヒロイン達
「神のみ」に出て来たヒロインを4つのタイプに分類してみます。
ここでいうヒロインとは、桂馬が攻略した人間のみです。
ハクアは除いています。
先ずタイプAは、非女神持ちヒロイン。
6人の「ユピテルの姉妹」を宿主としていないヒロイン達。
桂馬の事は完全に忘れているので、攻略後は物語に関わってくる事はありませんでした。
続いてタイプBは、女神持ちヒロイン。
歩美、かのん、栞、結、月夜の”5人”。
「おい、6人だろ」とツッコまれそうですが、これで良いんです。
女神のお陰(せい?)で、桂馬との攻略に関する記憶を持っていて、桂馬に恋しちゃってるヒロイン達。
一先ずこの2つのタイプのヒロイン達が「もし桂馬と結ばれていたら」を想定して、考察してみます。
桂馬の心情からアプローチします。
桂馬にして見たら、駆け魂狩りって「恋愛SLG」の一環だった筈です。
リアルには興味は無いと言いつつも、どこか自分に嘘を吐いていて、攻略する度に傷ついていたのは事実でしょう。
助けてるとはいえ、記憶を失くすとはいえ、”ゲーム”で恋愛をさせてしまったという負い目があったのかなと。
桂馬って恋愛を大事にしてますからね。
失恋しても、すぐに次の恋を探そうとしていたちひろに対して桂馬はこう言ってます。
桂馬語録(1)
「そんなの…恋じゃねー。」
「ヒロインの恋はもっと重いんだよ!!」
「すぐに忘れたり!!乗り換えたり!!そんなのは恋じゃない!!」
と。
自身が否定する「すぐに忘れてしまう恋」を自分はさせていたという点で、申し訳なさもあり、彼は傷ついていました。
そもそも「嘘の恋」から始まっているので、女神持ちのヒロインズからの想いに対しても、やはり同様に申し訳なさってあったと思うんですよね。
例えば、歩美の「桂馬と結婚しても良い程の想い」も桂馬からして見たら辛かったのかなと。
彼女が桂馬を好きになった切欠となった「恋愛」に於ける桂馬から歩美への想いは、嘘・演技だったんですからね。
全てが嘘で演技だったとは言いませんけれど、その殆どが本当の気持ちではなかった。
女神持ちの彼女らを桂馬が振った理由って、想像に難くないんです。
「この物語を終わらせるためには、関係した女の子たちを物語から解放してやらねばならない!!」
「しかし、今のままではボクへの気持ちが残ってしまう。」
「ボクが一人でいることはむしろ逆効果だ。いつまでも関係が変わらない。」
「そこでボクが誰か一人とくっつく!!これで関係は強制終了!!ラブコメも終了!!」
由梨(ドクロウ)からちひろにした告白の事を聞かれた際、こう嘯いていた桂馬ですが、本心は「嘘で作られた恋愛に応えることは、申し訳ないから」…だったんでしょうね。
僕はそういう風に解釈してます。
という訳で、桂馬の心境を推測すると、タイプBのヒロインの誰かと付き合うエンドは、ちょっと納得いくものではありませんでした。
タイプAのヒロインについては、言わずもがなですね。
記憶を失くして、桂馬への想いを無くしているので、そもそも彼女達を選ぶエンドは存在しません。
桂馬にとっては「記憶を失くしている事」がせめてもの救いなのですし、わざわざ彼女らに自ら接近する道は考えられないでしょうね。
天理とちひろを分けたモノ
タイプCは、天理。
今作のメインヒロインって言っても過言じゃない程、特異な位置にいたヒロイン。
10年前から全てを知り、当時からずっと桂馬を想っていて、けれど、誰よりも早く桂馬に振られていた女の子。
彼女もまた唯一無二の存在ですし、桂馬と「嘘の恋愛」をしていない唯一のヒロイン。
最後に選ばれるヒロインが天理であっても納得出来るものでした。
正直彼女を「選ばれないのは納得」と結論付ける屁理屈を僕は持ち合わせておりません。
これはもう天理の性格がいけなかったと考えるしかないです。
10年前に振られ、それでも桂馬を忘れずに思い続けていたのは「若しかして」に掛けていたと最終回で語られています。
「自分が振られない結末」があったかもしれないという可能性だけを信じて、健気に頑張っていた。
恋に対してとっても積極的な姿勢な気がするんですが、行動が伴っていなかったのが何とも…。
あれだけディアナがモーションを掛けてくれていたんですから、そこに乗っかって自分の想いを告げていれば、その「若しかして」の結末になっていたかもしれないんですよね。
桂馬は天理に対して他のヒロインほど負い目を感じていないんですから。
散々自分の恋心を誤魔化し、違うよと釈明してきてしまったのがいけなかった気がしますね。
「ずっと前から…攻略なんか関係なく、桂馬君を好きでした」
これが言えていたら…。
そうしたらほぼ100%の確率で、桂馬を落とせていたと思うんです。
というのも、ちひろがそうだったから。
という訳で最後のタイプDがちひろ。
攻略対象ヒロインであり、しっかりと攻略時の記憶を失っている彼女。
しかし、攻略後も女神持ちヒロインズと同様に桂馬を意識していました。
FLAG.55「HELP!」で、その様子が早くも描かれています。
女神篇で語られますが、ちひろは割と前から桂馬を意識していたと言っています。
春頃から気になっていたと。
この観点で改めてちひろ編を見てみると、そう取れなくもないかなという表現があるんですよね。
そもそも、このちひろ攻略は、他の攻略と比しても特異点の大きいものでした。
基本は「駆け魂の入ったヒロインを自分(桂馬)に惚れさせる」のを目標としているのに対して、ちひろ編の目標は「ちひろの恋を実らせる」というもの。
檜編とかもそうですが、ちひろ編は「桂馬の近くにいるヒロイン」の中では唯一の例外のケースでありました。
桂馬が自分に惚れさせようと動いていないのにも関わらず、ちひろは桂馬を意識していたんですよね。
この時は、告白は無しにしようとまで言っています。
振られた時にちょっと親切にしてくれたから?
いやいや、無いでしょう。
内心はどうか分かりませんが、態度は散々桂馬をバカにしておりました。
そんな男にいくら傷心のところ親身になってくれただけで、吊り橋効果も無ければ、コロっと気持ちが傾く事も無い…んじゃない…かな…。
恐らく。
だから、「この攻略時」ではなくて、もっとずっと前から桂馬をそれとなく意識していた…と考えた方がスッキリします。
そもそも、ちひろ自身が意識していましたと告白してるようなものですよね。
「私ら(ちひろと桂馬)似た者同士かと思ってたのに。」
という台詞もそうですし、上述の桂馬語録(1)を言われた時の反撃の言葉である
「それ、あんたのことじゃん。」
もそう。
桂馬をどういう人間なのか知ってないと、出て来ない台詞です。
本当に興味が無かったら、特に2つ目のような返しはすぐには出来ません。
攻略の事なんか無くても、桂馬を意識していた。
好きになっていた。
そして、その想いを堂々と本人に伝えた。
ちひろからのキスは、桂馬がしてきたそれとは異なり、正真正銘本物のキスだった。
女神篇の桂馬は、「非女神持ちのヒロインに攻略時の記憶が無い」事を事実と認識していました。
誰よりもそれを分かった上で、ちひろに攻略時の記憶も想いも残ってないと”分かった”。
その上で、自分を好きだと言ってくれた。
都合上、ちひろを振らないといけなかった桂馬のこの時の傷は相当なモノだったでしょうね。
初めて自分を本気で好きだと言ってくれた女の子を傷つけてしまったんですから。
そりゃ泣きますよ。
桂馬の涙も、ちひろの涙も実に切ない女神篇の結末でしたね…。
まあ、惚れてもおかしくはないですよ。
桂馬自身、ちひろは自分と似ていると意識していたのもありますしね。
ちひろ編での台詞である
争いは同じレベルの者同士でしか発生しない!!
が、「同じレベル」=「似た者同士」って意味合いでしょうから。
桂馬に思いの丈をぶつけられたかどうかの違いが、天理とちひろの結末を分けていたんだと思います。
終わりに
もしも、天理が先に桂馬に告白していたら。
天理が事実上最後の攻略対象ヒロインになっていなかったら。
歴史的には天理が最初なのに、時系列では最後になっているというややっこしい事が無ければ、結末は違っていたのかもしれません。
けれど、正史はちひろが先に告白して、桂馬の胸に刻まれてしまった。
僕はアニメ3期で女神篇を初めて知り、結末に涙しました。
ちひろが可哀相だと滅茶苦茶感情移入したんです。
あのラストは桂馬にとっても辛すぎる出来事だとも理解しました。
2人が結ばれるラストを見たい。
そういう欲求が自然と高まり、だからこそ、ちひろエンドを読まされてまた泣いて、「これで良かった。最高の締めじゃないか」と1人喝采しました。
だから余計に良く感じたというのは否めません。
けれども、全体を通して読み、冷静に判断しても、やっぱりちひろエンドがベストだった気がします。
天理の失恋も切なくて、彼女が報われても良かったとは思いつつ、天理にはディアナが付いてますし…。
何より桂馬に告白する勇気が今一つ足りなかった。
そんな勇気を湛えつつ、他のヒロインとは違った立ち位置にいたちひろが選ばれたのは、納得いくものでありました。
もう2人の最後の会話とか最高ですもん。
ちひろ「あれ(告白)、なんなのさ… 何考えてんのあんた?」
桂馬「何も考えてない。だから…ボクもどうなるかわからん!!」
ちひろ「なんだそりゃ!!ま…なんつーか……茶でも、飲みに行かん?」
桂馬が言う「何も考えてない」って言葉こそが「告白が嘘偽り無い気持ち」であるという証ですからね。
これまでは「他人=ゲームの主人公の恋愛」をなぞっていて、ヒロインズへの告白もまた、「他人の言葉」だった。
考えに考え抜いた末のエンディングへ辿り着く為の「作られた台詞」だった訳ですよ。
でも、ちひろに対しての告白は、そういう策略めいた思考を巡らせていないという意味での「何も考えてない」。
「どうなるかわからん」というのは、他人の恋愛をなぞってないからという意味合いだから、「自分の言葉」。
桂馬のしてきたことを完全に理解していないちひろには、桂馬の言わんとしている事の全てが正確に伝わってはいないでしょう。
「なんだそりゃ!!」って返してますしね。
けれど、その後の台詞から察するに、歩美にしてきた一部始終を見たちひろには、ニュアンス程度は伝わってるんだなと窺えます。
由梨が見抜いていたように、桂馬の告白は本心だったんだ位は伝わっているんだと。
先ずは茶を飲みに行くところから。
少しずつ距離が縮まっていくんだろうなと想像出来る点が微笑ましく、2人にはお似合いに思えます。
神にーさまの選んだエンディングはとってもとっても良かった。
何度も読み返したくなるラブコメに出会えて、本当に幸せです。