4巻の帯に釣られた
4巻の帯の「見事な伏線回収」云々の常套句に釣られて、4巻まで電子書籍で購入しちゃいました。
昨晩あっという間に読み切ったのですが、物凄い面白いですね。
ちょっと良かったところを纏めてみましょう。
SF考証
SFっていうのは何を描いても良いという訳ではないです。
やはり最低限の説得力が必要なんですよ。
なんかすごい科学を出して、その原理に物理学なり化学なりの根拠が示されているのと、「ただ凄い」って言うのとどっちが読んでいて面白いってか話です。
SFを物語の中心に置けばおくほど、根拠が示されている方が断然面白い。
今作は、物語の真ん中にどっかりとSFが鎮座してます。
大きく幅を取っている以上、ここをしっかりと描いているかどうかが、作品そのものの面白さにも直結してると考えます。
突如宇宙に放り出されたカナタ達高校生+幼女。
少ない食料と数日しか持たない水を以て、ギリギリの帰還ルートを絞り出した一行は、次々と未知なる惑星に「食料と水」を蓄える為に中継していきます。
惑星シャムーアはそんな一行が2つ目に上陸した惑星。
謎の草食動物グルッピー(仮称)以外目立った動物が見当たらない。
つまりは、肉食動物が見当たらない星。
植物と草食動物しか居ない惑星で、どうやって生態系が維持されているのだろうか?という疑問が提示されます。
食物連鎖が成り立ってないよねというお話です。
そんな調査をしてる時、ひときわ高い樹から胞子が蒔かれ、仲間たちが次々と倒れていく。
そこで漸く気付く訳です。
今まで植物だと思っていた木も果実も山菜も全部菌類。
キノコであると。
食物連鎖の頂点にキノコがいるんだと。
ここから何故キノコには毒をもつ種があるのかという話に及びます。
考えた事も無かった話題。
植物でも毒を持つ種はあるが、食べられない為に、毒を持ってますよという分かり易い見た目をしてることが多い。
一方で、キノコは見た目からは判断が付かないことが多いし遅行性の毒だったりする。
「動物に食べられない為の工夫が見られない」。
「キノコは植物の為に動物を殺している」という説。
これがこの惑星のルールなんではないかという話が出てきます。
ここから更に生態系のバランスを維持する為に、解毒するキノコの存在と生息する場所が推理されていくわけです。
掻い摘んでいる上に、下手糞な文章で良く伝わらないかもしれません。
ようするに、我々が知っている生物学とか科学の知識の上で推理を働かせて、未知の惑星の探索に臨んでいる訳です。
惑星シャムーアなんて惑星は存在しません。
この惑星そのものがSFなんです。
それを実在する知識であたかも存在してるかもと思わせる程の説得力を有している。
色々と惑星が出てきますが、全てこんな感じです。
これは面白いですよ。
サイエンスフィクションをノンフィクションの知識で理詰めで構築してるのですから。
ミステリ
カナタ達は何者かの陰謀で宇宙に放り出されてしまいます。
一体誰が、何の為に?
仲間の中に犯人がいるかもしれない。
ミステリ的シチュエーションが演出され、伏線が張り巡らされています。
ネタバレしたくないので、それは置いといて、ミステリと言えば、上の惑星シャムーアの件がミステリですよね。
しっかりとした謎とそれに対する説得力抜群の推理がある。
終わりに
「スケットダンス」好きだった人ならば、ギャグを入れ込みつつ話を展開させるのが上手いというのは、分かるかと思います。
今作でも健在で、台詞量の割に読み疲れないのは、会話の楽しさに由来しています。
軽妙な掛け合いと卓越した作劇で見せるシリアスドラマが融合し、上質のSFミステリになっています。
というか、キャラクター立たせるの上手過ぎて、この中に「犯人」がいるのかと思うと嫌なんですけれど。
誰1人裏切っていて欲しくないなと思わせられているのは流石だなと。
あ、そうそう。
面白さの秘訣の1つは、圧倒的なまでのスピード感でしょうか。
しっかりと各惑星でのSF冒険ミステリを描きつつ、物凄い速さで物語が進んで行ってます。
4巻で、カナタ達が何故殺されなければならなかったのかという衝撃の秘密が明かされます。
もうすぐ帰還できます。
「カナタ達はどこへ向かっているのか」という伏線の回収もされ、その謎解きとあと少し…。
10巻以内で完結しそうなのがポイント高いです。
兎も角つられて最高に良かったです。