キャスト
実写版「るろうに剣心」鑑賞してきました。
取り敢えずキャストの印象から書いてみます。
やはり主演の佐藤健さんの演技が光る。
原作やアニメに見られる「優男」感は見た目だけ。
天然な部分や茶目っ気は薄く、常時凛々しさの残る出で立ちであり、多少原作の剣心像とはかけ離れているものの「実写版剣心」としては彼以上は無いんじゃないかと思える程の好演。
普段の優しい不殺の剣心と怒りに我を忘れた抜刀斎の”変化”を見事なまでに声で使い分けていて、ただ只管格好良い。
男の自分から見ても、頼りがいのある剣客を演じられていました。
一通り見終わって、彼無くして実写版は成立しない。
作ってはならないとまで感じました。
特殊なコンタクトを入れているのか。
原作同様目から狂気を放つ人斬り・鵜堂刃衛。
今回の敵役なのですが、こやつを演じたのが吉川晃司さん。
佐藤さん同様の嵌り役。
って言うと失礼かな…。それ程キャラクターとしては崩壊しているキャラですし。
でも、そう思うほどにはピッタリと狂気の沙汰を好演されていて、吉川さんの芝居で全体が締まっていたように感じました。
主人公と敵役。
作品の花とも言えるキャスト二枚がしっかりしていて、脇もベテランから若い人までバランスよく揃えられており、安心して鑑賞できました。
ただ敢えて一つ言わせて頂くと…。高荷恵が幼すぎた。
蒼井優さんでは演技力どうこうでは無くて、単純に若すぎるし、ここはもう少し年上の役者さんの方が良かった…かなと。
原作で恵は22歳という設定で、蒼井さんは27歳と充分「年上の役者さん」ではあるんですけれどね…。
童顔だからなのか、身長の問題なのか。
イメージとはちょっと違うかなとは感じました。
とはいえ、不満がある訳でも無く。
キャスト的には十分楽しませて頂きました。
脚本
特筆すべきなのは、やはり脚本なのでしょう。
原作ありきの映画作品に於いて、シナリオは殊更重要だと考えているのですが。
原作の再構成の上手さは折り紙つきですね。
弱冠詰め込み過ぎていて、説明不足の部分は確かにありました。
主に3点ですね。
1つは、左之助の扱い。
彼のバックボーンである赤報隊の部分をごっそりと省いてしまった為、彼の行動に疑問が残ってしまいました。
何故剣心に加担するようになったのかは、この映画だけでは理解が難しい個所だったと思います。
2つ目は、恵の事。
彼女の事を剣心は勿論薫までもが受け入れた過程がやはり無く、死の危険を冒してまで敵地に乗り込む剣心たちに感情移入できたかどうかと問われると、どうなんだろうなと。
勿論恵が多くの病人を救ったからというのもあるのですが…。
彼女を語る上で重要な独白を剣心だけでは無く、薫や左之、弥彦らがきちんと聞いていたら問題無かったのですけれども。
3つ目。この映画で最大の説明不足は剣心に関してでしょうか。
先程、映画・剣心の性格を「天然な部分や茶目っ気は薄く、常時凛々しさの残る出で立ち」と評しましたが、この部分をもっともっと見せてくれないと…。
刃衛のエピソードで最も重要な部分を描く為には、人斬り・緋村抜刀斎と流浪人・緋村剣心の落差をしっかりと見せつける事が大事だと感じるのです。
原作では普段の剣心からは見る事の適わない人斬りとしての一面に薫ですら「恐怖」を覚えるので、物語もグッと素晴らしいものへと昇華されているのですけれど。
この落差を脚本面で強調すべきであったかなと。
言葉遣いの違い(語尾の「ござる」が無くなったり、一人称が「拙者」から「俺」に変化したり)や声の高低でメリハリを付けようとされていて、そこは佐藤さんの演技力で十二分にカバーできていましたけれど、脚本面ではやや物足りなかったですね。
ただ、これらはある意味仕方のない部分。
弥彦との出会いをカットしたりと日常の部分を全てオミットして居た為、どうしても剣心は全編戦い尽くめであった。
これは映画として中だるみを防ぐために、ストーリー進行を早くし、立て続けに剣戟シーンを取り入れていたから、こういう説明不足な部分が出来てしまったのかなと。
上に挙げた3点はどれもこれも、日常部分を描いてこそだと思うし、今回は話のテンポ等々を考えて敢えて省くという選択肢を取られたのかもしれません。
その上でどうにか入れて欲しかったと願うのは、これは最早エゴになるのかなと。
先にも書きましたが、脚本は本当に素晴らしかった。
武田観柳との抗争を話の軸として、しっかりと刃衛編を絡ませている。
そこに剣心と薫らレギュラーとの出会いを織り込んでいて、怒涛の如く展開させる。
若干説明不足の部分がと書きはしましたが、全体から見れば些細な事であると断言できます。
それ程、原作の再構成の上手さが光っていて、原作ファンの僕としては大満足でありました。
アクション
で、ここが大きく人によって意見が分かれる部分かなと思います。
リアルな時代劇路線を取るか、派手で現実的で無いアクションをバリバリ取り入れた漫画路線を取るか。
これはどっちが正しいとかは無いと思います。
この作品としては、どちらかというとリアル路線だったように感じました。
刃衛の心の一方*1等、漫画的な部分は最低限に留め(斉藤の牙突は見なかった事にしますw)、時代劇の殺陣を忠実にしていたという印象です。
あ〜、剣心は非常にアクロバティックでありました。
ワイヤーアクションなのかな?
滑空したり、壁を使ってバク転したり。剣術というより拳法でもやっているかのような動きは、これはリアルな殺陣とは呼べないかもしれません。
ただ、こうせざるを得なかったのもまた、リアル路線を採ったからだと考えます。
飛天御剣流の特徴は「速さ」ですよね。
wikipediaから引用させて頂きますと、剣心の剣術は
「剣の速さ」「身のこなしの速さ」「相手の動きの先を読む速さ」という三つの速さを最大限に生かし、最小の動きで複数の相手を一瞬で仕留めることを極意とする、一対多数の戦いを得意とする実戦本位の殺人剣
であり、しかし、これは人が再現するには何とも難しい。
再現するには、普通に撮影しただけでは不可能でしょう。
何らかの撮影技法…剣心以外の演者の動きをゆっくりして、剣心だけ普通に動いてもらう事で、相対的に速く動いているように見せるとか…が必要であって、今回このような事はやらない事としたのかなと。
となると、剣心の剣術を再現するには、アクロバティックに派手に動かす事になる。
速さの先の結果として、多人数を相手に出来るという原作の解釈は捨てて、トリッキーな動きや武術?に似た動きを取り入れて多人数と戦えるように”見せる”。
剣心に派手な動きをさせて、短いカットを断続的に繋ぐことで「速く動いているように」見せている。
あくまでも役者の自然な(?)動きだけで撮影されているように僕には感じ、従ってリアル方面の演出を採用しているのかなと考えました。
だから一見すると派手ではあるものの、原作の持つ少年漫画的バトルメソッドは薄い。
飛天御剣流の技もはっきりとそれと分かるのは、双龍閃のみ。
派手で格好良い必殺技を見たいと思うと肩透かしを食らいます。
僕としては、もう少し少年漫画的なノリを欲していたのですが、まぁそれはやったらやったで「コレじゃない」感が強うそうなので、この選択で良かったのかもしれないとも思います。
実際、チラッと触れましたが、斉藤の牙突は「コレじゃない」感で一杯でした(汗
作中で牙突だとは言ってはいませんでしたけれど…あれじゃ…ね…。
リアル重視としたことで、バトルの爽快感が薄く、盛り上がりにも欠けている。
しかし、やったらやったで作品自体がうすら寒くなってしまう危険性も孕んでいる。
難しい部分ですね。
そうそう。背車刀が再現されていたのですが、これは素直に格好良かったです。
総括
中だるみが無く、良く練られた構成と佐藤さんらキャストの好演が光る佳作。
演出面がもう少し良ければ、非常に素晴らしい作品だったと言いたい作品ですね。
中だるみは確かに無いのですが、メリハリが薄い。
緩んだ部分が良い意味でも・悪い意味でも無くて、終始張りつめている為、クライマックスの盛り上がりも少なかったです。
薫が心の一方を自力で克服して、剣心を止めるシーンは、もっともっと盛り上げて欲しかった。
印象的に描いて欲しかったのですが…。
個人的に作中最も重要なシーンだと思っている箇所ですが、ここも盛り上がることなくさーっと流れてしまったのが、残念な点と言えばそうですね。
まぁ、贅沢な事を言っているのかもしれませんね。
これこそ僕のエゴと言われても仕方ないかな。
原作ファンとして実写化は心配ではありましたが、それでも十分楽しめる作品であったことは間違いないです。
色々とこうして欲しかったというのはどうしても出て来てしまいますけれどね。
ともあれ。佐藤剣心さまさま…ですw
*1:「心の一方」は実在した技術だそうです。ただ、今作のように本当に効くのかは不明な為、ここでは漫画的な要素として扱わせて頂きます。