はじめに
色々な意味で本書の発売を危ぶんでいたり。
12月発売予定になっていたのに、特に告知も無く(少なくとも講談社の公式サイトには見つけられなかった)延期してたのもそうですが、なにより作者さんが…ね…。
あの騒動について僕はどうこうという意見も持ってないので割愛しますが、何となく「出版社から干されたらどうしよう」的な心配をしてました。
作品に罪は無いですし。
とまあ、どうでも良いことですね。
こうやって無事に発売して下さったのですから。
第5巻感想です。
非常に非常に大人しい印象
非常に非常に大人しい印象のエピソードでした。
ミステリ的にもひかげのハッタリ的にも。
文化祭という舞台で起こった2つの「事件」を描いていた本作ですが、事件毎に感想を書いていきます。
前半の事件は、白樹台生を恐怖のどん底に突き落とした学園七不思議事件。
新たに判明したキリカの可愛い面をじっくりと楽しむエピソードですねw
それは半分冗談として、こちらは毛頭「隠す気」は無かったのかもですね。
堂々と口絵で前半の真犯人のネタバレをしてましたから。
まあ、でも、この口絵の事を考慮しなくても驚きというものはあまり無かったです。
真犯人が誰かというのは大きな問題では無かったから。
謎解きを楽しむというより、純粋に物語を楽しむような性格をしていたからかな。
勿論、真相に至る伏線(というようなものでは無いんだけれど)に気づけていたら、ミステリ的にもっと楽しめたのかもしれません。
完全に僕自身の記憶力の問題ではあるんですけれど、キリカが真犯人に至った手掛かりは3巻に出て来てて、それを覚えていればまた違ったのかもしれないなと。
ミステリの謎としての魅力は殆ど感じられなかったのですが、この学校特有の文化祭の特徴を絡めていた手練れは、いつも通り凄かったです。
この辺りは今作ならではですね。
独創的で、それでいて魅力のある「白樹台学園」という舞台を作り上げて、「この学園ならではの事件」を描いている。
前半は、まさにこのような着想から作られた事件に思えました。
で、毎度楽しんでいるのがひかげの詐欺にも似た事件解決手腕。
なのですが…。
いつものような大がかりな物では無く、ちょっとした物で終わってました。
ココに期待している僕としては物足りなかったです。
「彼女」を驚かす術はちょっと凝ってましたけれどね。
更にその上を「彼女」が行っていたオチは笑いましたw
後半は演劇部がメイン。
月島沙樹という芸能科の女優が出て来るんですが、まあ、一癖も二癖もある子なのは言わずもがなですねw
彼女を中心に物語が展開されるんですが、こちらはミステリ要素は前半より薄かったかな。
ひかげの活躍もほぼ無し。
見せ場と言えば沙樹の彼氏のフリをして、マスコミを引き付けた点のみ。
依頼人を説得するのも正攻法な手段に終始していたし、それにしても煮え切らずに中途半端な感じで終了。
沙樹1人が全てを攫って行ったという印象が強いエピソードでした。
ひかげの決意に納得
正直言えば、ストーリーにいつもの捻りが無かったかなと。
体育祭で非常に盛り上がった手前、「後の祭り」感を感じてしまったんですよね(汗
連作短編的な構成になっていたから…というのもあるかと思います。
1巻掛けて1つの物語をじっくりと描いてきていたこれまで。
クライマックスには相応の仕掛けがありました。
この巻は、文化祭というテーマの下で2つの独立したエピソードで出来ていました。
これまで通り、この2つのエピソードが最後に収斂して、大きな捻りを利かせてくれるものとばかり思ってたのですが、それもなく。
ひかげの活躍も、多分最も少なかった。
で、どうしてなのかといえば、大きな転換期を描く為だったのかと。
ひかげ自身の心の転換期とでもいうのかな。
だからあえて、目立つ活躍はさせなかったんではないか。
読み終わって、そういう考えに至りました。
以前ひかげが狐徹の敵になると切り出した訳ですけれど、あの時はその場の勢いにしか思えなかったんですよね。
今回も具体的にどう立ち回るかまでは決まって無さ気でしたが、決心ていうかのかな。
なんだろう。
「狐徹を負かすんだ」という想いを強固にした感じ?
そういうのが伝わってきた。
少なくとも僕としては、かつての宣言は唐突に感じたんです。
「え?急になんで?」みたいな。
それが今回はふっと「なるべくしてなったのか」と納得出来た。
今回ひかげは、薫の姉に対する気持ちを聞いて、姉であるひなたに向きあって。
自分そのものを見つめ直したのかなと思うんです。
沙樹の登場は、それをさせる為だったんではないかと。
ひなたの熱烈な信望者である沙樹との対話は、ひかげが決して「優秀な」ひなたに劣っていないんだと語りかけている様でした。
その役目はこれまでも美園がやっていたことですけれど、美園とはちょっと違うんですよね。
美園は「ひなたの弟だから」という理由でひかげにラブラブアタックをしている。
ちゃんと彼女なりにひかげの能力も見ているんだけれど、あまりその点は出していなかったイメージ。
沙樹は「ひかげの能力を知って近付いてきた」。
目的はひなただったかもしれないし、ひかげがひなたに似ていたからというのもあるかもしれない。
また、「能力を知って」というのも少々語弊はある。
「ひなたが話すひかげ評を盲信していた」のであって「知って」はいなかった。
でも却って、「沙樹自身ひなた評」が入ってない分、ひなたがひかげをどう評しているのか、ひなたにはダイレクトに伝わったんではないかな。
今まで避けていた優秀な姉に対する感情。
自身を正当に評価できない卑屈な心。
そういうのを見つめ直す切欠としては沙樹は十分機能していたように感じました。
更には、最終的には朱鷺子の評価(ひと目でひかげの姉と分かった云々)も加え、キリカが纏めてフォローは完璧。
外見だけでは無く、人としての魅力とか能力もひなたに似ているんだと。
決して劣ってはいないんだと。
ひかげに教え込む為だったのではないでしょうか。
この文化祭を通じて、ひかげは気持ちを入れ替えていたように解釈しました。
白樹台を選んだのは「姉と比較される事から逃げたかった」からでは無くて、「自分から逃げていた」だけだったとも読み取れましたし、今回それを「強い者へ挑む為」と改めていたから。
白樹台で強い者と言えば、ひかげが認めた狐徹になる。
狐徹を倒す事は、彼自身の成長を促す事なんですね。
それがはっきりと分かったので、納得いったのです。
終わりに
掛け合いは相変わらず楽しくて、所々で笑いつつ、あっという間に読み終えました。
狐徹との対決姿勢が明確になった今、ここにキリカがどう絡んでくるのか。
それを楽しみにしつつ、6巻を首を長くして待ちたいです。
- 作者: 杉井光,ぽんかん8
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/01/31
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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