この記事は
「生徒会探偵キリカ」を題材とした記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。
この記事無駄に長いっぽい
ご大層な記事名ですが、要するに「生徒会探偵キリカ」6巻の感想です。
- 作者: 杉井光,ぽんかん8
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/06/02
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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あくまでも僕個人の主観であり、価値観の上に立ったものです。
また、同タイトルのネタバレを”核心には触れておりませんが”多分に含んでいます。
ご注意くださいませ。
展開の読める物語 その1
「展開が読めてしまう事」。これは是か非か。
多くの場合は、これを非と見做されるのではないか。
そういうイメージがあります。
「先の読めてしまう物語程陳腐なものは無い」
そういう考えを持っている人って少なくない気がします。
とはいえ、程度の問題もありますよね。
徹頭徹尾予想通りに進んでしまうと、お話的には面白さを見出せないとしても不思議ではありません。
他に琴線に触れる要素を見出せないと、物語の評価がそのまま作品そのものの評価に直結しちゃいますので、「展開が読めてしまう事」自体作品にとって長所と成り難いと考えます。
ただ、程度の問題なんです。
「全く先の読めない物語」も、それはそれで良い評価は得にくいんじゃないかなと。
勿論成功例はある筈です。
ただ、それは奇蹟みたいなもの。
数え切れない物語が生み出されてきた今になって、誰の考えも及ばない様な展開の連続で話を構成出来る作品なんて、それこそ稀有な存在でしょう。
物語にあまり触れてない時期ならばいざ知らず、そうじゃないとそのような作品に一生に一度出会えれば位の確率…なんていうのは言い過ぎでしょうかね?
殆どの「全く先の読めない物語」は往々にして破綻をきたしていると思います。
布石、振りを無視し、取ってつけた様な展開の連続。
「超展開」と揶揄されるような物語構造を取っていれば、展開こそ読まれないでしょうけれど、面白いかどうかというと別のお話。
その手の作品が全てつまらないとは言いませんけれど、やはり大衆に好まれる事は少ないのではないか。
先が読め過ぎてもダメ。
読めなさすぎるのもちょっと…。
程度の問題。
「生徒会探偵キリカ」第6巻のお話に入ります。
6巻は生徒会選挙がメインとなっておりました。
主人公・ひかげ(日影)が、意地から現・生徒会長である天王寺狐徹(黒髪ツインテの美少女)を倒そうと持ち前の詐欺師の腕を見せる…というお話。
ひかげ達の通う白樹台学園は、生徒総数8000人の中高一貫のマンモス校。
そこで4年という長きに亘って生徒会長に君臨し続ける狐徹は、文字通りの化物です。
絵に描いた様な…いや、絵にも描けない様な絶対的な王であり、誰も彼女には敵わないし、挑む事さえ尻込みする程。
そんな大きすぎる敵に立ち向かうひかげに勝ち目はあるのか?
ひかげが狐徹と戦うという筋書きは、ずっと表明されてきた事であり、5巻はだから1つの節目となっています。
かつてない”敵”にどう立ち向かうのか。
果たして勝てるのであろうか。
興味は尽きず、ワクワクしながら読み進めました。
さて、白樹台の生徒会選挙ですが、アメリカ大統領選に似ていると描写されております。
会長立候補者は、副会長候補を擁立し、2人揃って出馬する。
2人の得票数の総数が、そのままペアの票数になるというシステム。
選挙で勝つには、会長だけでは無く副会長の人気も大事になってくるわけです。
かつて狐徹の下で副会長を務めていた朱鷺子もまた「打倒・狐徹」を掲げ、会長職に立候補。
相棒となる副会長にひかげを指名してくるも、ひかげはそれでも意味が無いからと固辞していました。
しかし、狐徹打倒には、どうしても学園No.2の力と人気を持つ朱鷺子の助力が必要。
ひかげは、朱鷺子の相棒探しに奔走するというのが序盤の見所でした。
焦点は朱鷺子の副会長に誰を擁するのか…です。
第3章でその様子が描かれていますが、先ずひかげはキリカと一緒に「副会長候補」に虱潰しに遭いに行きます。
しかし、2人の考える候補は皆ダメ。
「圧倒的過ぎる敵」狐徹を倒せる力を持った人間は、誰も居なくて…。
そんな中、ひかげの詐欺師センスがキラーンと光る訳ですよ。
1人だけいるじゃない…と。
ひかげが閃いた瞬間、僕にもひかげが誰を擁立しようとしているのかが分かりました。
断言しちゃいますが、この時点で読者の多くが同じキャラクターを思い浮かべた筈です。
察しの良い方ならば、もっと早い時点で察していたかもしれません。
ひかげとキリカが「有力?な副会長候補」をご丁寧に1人を除いて全員潰してくれてましたから。
杉井先生的にも隠すつもりは毛頭無かったんでしょうね。
「先が読めた」瞬間でした。
一見すると「味方になってくれそうもない」キャラだけれど、きっとひかげが詐欺師センスを存分に発揮して味方に引き入れるんだろうな。
そう思ったんです。
と、同時に猛烈に「早く読みたい、知りたい」という願望が湧きあがりました。
「当たっているかどうか」は重要じゃありません。
予想通りであっても、想像を超えるものがあるかと考えるとワクワクしちゃうじゃないですか。
寧ろ「予想できたからこそ」の楽しみが出来た。
お話の焦点となっていた問題が解決する様子が見えたんです。
予想出来た展開は、知っててもワクワクするモノだった。
もう少しだけ読み進めれば、そこに辿り着く。
予想通りなのか。はたまた、裏切ってくれるのか。
だから、早く読みたいという欲求が高まる。
はたして3章では、予想通りの人を無事に味方に引き入れて、漸く狐徹に立ち向かえるだけの布陣を手に入れました。
ひかげは勝てるのでしょうか?
「日影ちゃんは勝つわよ」
第2章で未来を見通せる力を持った真央さんがひかげに言い残します。
第2章で。
展開の読める物語 その2
3章で、狐徹に対抗できる力を手に入れたひかげ。
いよいよ物語の興味は、ひかげが勝てるのかに移っていく…筈なんですけれど…。
その前に堂々宣言されます。
ひかげは勝ちます…と。
もうね展開の先読みどうこうの話じゃありません。
あろうことか大事な結末を堂々とバラシちゃってるんです。
それも序盤と呼んで差支えない2章で。
なんの波乱もなくひかげが勝って終わるんだろうか…。
4巻までの「実績」を知っていて尚、そんな風な思いが頭を駆け巡っていました。
副会長候補が決まり、打倒・狐徹が現実味を帯びた数ページ後。
事件が待っていました。
狐徹の立てた副会長が判明して、僕の考えは簡単に覆されました。
この展開は予想出来んかったんです。
聡明な読者ならば、きっとここまで予測していたのでしょうね。
けれど、そうじゃない僕は本当に呆気にとられました。
「日影ちゃんは勝つわよ」
え?どうやって?
そもそも勝つって、何に?
どういうこと?
頭はパニックです。
もうここからは我武者羅ですよね。
紙面に全神経を尖らせて、集中して先へ先へとページを捲りました。
一心不乱に最後まで読み切ったんです。
殆どの作品の「面白さ」の原動力の何割かは、これと全く同じ要素に起因してますよね。
「先の読める展開」って究極的には「どうせ主人公が勝つよね」も含まれます。
バトル、スポーツ、恋愛。
あらゆる作品は、主人公中心に回り、主人公が得する展開で締め括られる。
一部バッドエンドもありますけれど、それを除けばこの一言で纏められます。
だからといって人は物語を拒みません。
過程を大事にするからだし、キャラクターを愛するからであり、「想像を超える物語を期待してる」から。
「日影ちゃんは勝つわよ」宣言は、だから、特別な”力”を持たない台詞なんです。
“読者が分かってる事”を改めて台詞に起こしているだけですからね。
なのに、改めて宣言される事で戸惑いが生まれてしまった。
いや。ハードルを作者自ら上げたのかもしれない。
「そんなお約束、破りますよ」という作者からの挑戦状。
結果、ぶち上げられたハードルを僕が越える事は適いませんでした。
先が読めると思ってたら、全く読めなくなってしまったんです。
読めなくされたという方が正しいのかな。
「想像を超える物語」が僕の前にでっかく立ち塞がったんです。
たった一言。
「日影ちゃんは勝つわよ」という台詞の力は偉大でした。
文字通り単純に勝つんだろうなと云う平凡な予想をしてしまった時点で僕の負け。
予想外の方向からの飛び道具での攻撃に晒され、大きく驚かされてしまいました。
まとめっぽい
展開を敢えて読者に”読ませる”テクニック。
そして、その予想を大きく裏切るテクニック。
この2つは、作品を面白いという感情を喚起させてくれます。
「生徒会探偵キリカ」6巻は、既刊5冊に比べると小粒な印象を持ちました。
物語自体に大きなハッタリが効いておらず、比較的穏やかな落ち着いた印象を持ったんです。
ですが、しっかりと物語を面白く感じる2つの要素が組み込まれていて、最後までいっきに読ませる力がありました。
あとがきによれば、2つ目のテクニックを引き出した2章は、初稿では存在してなかったとの事。
ページ稼ぎの為に半ば強引に組み込んだ的な感じで書かれてましたが、いやいや。
この2章があるかないかって僕にとっては割と大きかったですね。
笑いという今作の大事な要素を多分に含んでいた事で、僕の「笑いに対する飢え」を満たしてくれたのが1つ。
もう1つは、やはり「日影ちゃんは勝つわよ」という台詞を入れてくれたことですね。
勝つとはどういう意味なのか?
最後までこの台詞に振り回され、興味をそそられ、最後の1行まで読ませてくれる原動力となったから。
作品を面白いと感じる理由は様々です。
その中でも僕としては、「予想を”させてくれる”展開」と「予想を”裏切る”展開」の2つを併せ持った作品に出会うと、面白いと感じますね。