はじめに
ようやく最新第7巻第6巻を購入して読む事が出来たのですけれど、不思議な漫画ですね。
悪い意味では無いです。
漫画等における物語の常識・定義を悉く外した展開をしているという意味合いで。
それでいて、それが凄く自然で当たり前に見える。
たった一言。
「クイズバカ」の言葉で、自然に思わせてくれる作品です。
先読みが難しい
この画像は第29話「敗者復活」の最後の一コマですね。
ここでの明良の一言が、今作の全てを表現していると言ってもいいかもしれません。
通常、トーナメントや大会(同じかw)が舞台になると、先ず何よりも主人公が活躍します。
当然ですよね。
今描かれている「麻ヶ丘例会編」でも、主人公の識は、きちんと主人公然とした活躍を見せてくれてました。
敗れはしたものの、ある意味勝者である御来屋の上を行っていた。
ライバルである御来屋を落胆させる事無く敗北した事は、イコール読者である僕らもガッカリしなかったという事。
少なくとも僕はそうでした。
まだまだ経験が浅く、その点で御来屋達「クイズに慣れたライバル達」とは大きな差がある事が散々描かれている識。
そういう部分を考慮もしつつ、彼らを認めさせるまでの力を見せつけたという活躍っぷりは、充分主人公としての面目を保っていたと言えます。
ただ、この後の展開が王道を逸れていました。
多くの場合、敗者復活戦が用いられた時点で、その時点までに主人公を落としていたならば、主人公を復活させます。
で、最終的に決勝までコマを進めさせて、勝つなり負かすなりする。
何も最終的に勝たせる必要性までは無く、決勝の舞台に立たせるだけで物語としては成立します。
面白い事に、識は敗者復活の権利すら得られませんでした。
2ステージ制で行われた敗者復活戦に於いて、識は第1ステージに参加。
第1ステージのクイズに答える権利すら貰えず、外れクジを引いて脱落という主人公とは思えない終わり方でした。
これには読んでいて驚きましたよ。
更に、この後の展開も驚きの連続。
敗者復活第2ステージに進めたのは、ヒロインである真理。
それとこの巻のドラマ部分で重要な役割を担うと思っていた新名部長。
真理は、なんといっても作品のヒロインです。
主人公がまさかの脱落をしたのならば、真理が復活するのだろうと期待してしまいました。
新名部長に関しては、明良に勝ち進む姿を見せて「クイズすげーっ」と思わせ、明良が少しだけ改心する姿を描く為に活躍するのかなと考えていたのです。
つまりは、この両者のどちらかが勝ち進むものだと思っていた訳です。
しかして、復活を遂げたのは脇役の柴田君。
メインキャラでも無く、ドラマを紡ぐのではという雰囲気を作ったキャラでも無く、復活したのは”起死回生の男”。
新名部長と明良のドラマは別の部分で魅せて、真理はこの作品もう一つの真実の言葉である「楽しかったぁ!」のセリフと共に舞台から降ろす。
なかなかに先読みの難しい漫画です。
それは全て王道展開を敢えて外しているからなのでしょうね。
セオリーを外すに値する理由付け
そもそも何故この事に拘っているのかといえば、別に王道展開を外す事が悪いと言いたい訳ではありません。
但し、外すにはそれなりの理由付けも必要になってくるケースも多いと考えているからなのです。
王道展開というのは、悪く言えば「使い古された見飽きた展開」ですけれど、王道と呼ばれる所以がしっかりとしてるんですよね。
シナリオの流れを淀ますことなく、綺麗に流す。
誰もが納得出来る話し運びだからこそ、多くの作家さんが流用し、定番化して、王道とまで呼ばれるに至っている訳です。
それ故に、これを敢えて外すというのは、意外性を齎します。
上手に運べば、意外性を驚きに変え、読者からの賛同も得られます。
けれど、下手すると「読者の裏をかこうとし過ぎて迷走してるんじゃ」という思いを抱かせかねない危険性も孕むという諸刃の剣でもある訳です。
「ナナマル サンバツ」の話に戻します。
先にも書いたように、この7巻6巻だけでもいくつものセオリーを外した展開を描いています。
主人公・識が敗者復活の権利すら与えられなかった事。(復活戦に”参加”はしたけれど、それを勝ち抜くための”クイズの出題”が成されなかったという点に於いて)
メインキャラや重要な役どころを与えられたキャラですら復活出来なかった事。
意外性を齎した数々の展開。
ここに「セオリーを外した理由」があるかどうかで、評価も別れるような気がするんですね。
で、僕はきちんと理由が描かれていたと見ました。
この漫画は、クイズを心から楽しみ、クイズが大好きな連中が織りなす物語です。
一般的に「何故勝ちたいのか?」と問えば、栄誉の為とか勝つ事自体に悦びを見出しているとか、そういう事ですよね。
バトル漫画になれば、世界(平和)の為とかいうヒーロー然とした理由も付随する事もある。
大会を舞台にして、そこで主人公を勝たせ続ける最大の理由付けであり、主人公を勝たせなければならない理由でもある。
ただ、この漫画は違いますね。
大会を勝ち続けたいとキャラクターが願う理由は、ただ1つ。
「1問でも多くのクイズに参加したいから」
クイズを楽しみたい。多く解きたい。
それが根源にあるんでしょう。
だからこそ、作品として主人公やメインキャラを大会で勝ちあがらせる必然性は無い。
識に敗者復活の機会を与えなくても問題は無いのかなと。
真理達の敗退も「クイズを楽しんだ」で済ませられますからね。
終わりに
王道展開を外して描く事って、きっと当たり前の事なのかもしれません。
どんな漫画やアニメでもやっている事で。
だから「ナナマル サンバツ」のケースも殊更珍しい事では無いはずです。
けれどね、凄く凄く良いなぁと感じたんです。
作品の取扱いジャンルである競技クイズを理由の根幹に持って来てるという点が。
みんなクイズが好きだから、勝負に徹する以上にクイズに興じる事そのものを欲している。
1問でもクイズを解くために、勝利を欲する。
勝利は二の次。だけれど、決して負けたい訳では無いという心理が例会に真剣味を与えつつも、主人公を早々と敗退させても問題無い雰囲気を作れている。
よくある「どうせ主人公が勝つんだろ」が必ずしも通用しない漫画。
先が読めなくて楽しいじゃないですか。
正直言えば6巻5巻までは、こういう事を感じなかったんです。
なので余計にインパクトを覚えた巻となりました。
追記
ひでぇ。巻数間違ってましたorz
7巻って来年発売じゃないですか…。