パワーインフレの扱い方から見直すバトル漫画(後編) 初期から強い主人公の漫画とパワーインフレ

パワーインフレを避けるバトル漫画

前半では「DB」を取り上げました。
最初の予定では、DB部分はもっと短くて一つの記事にする予定でしたが、気づいたら何だか長々となってしまいw
記事を分割した以上、見合った結論があるんだろうなと思わないで下さいね。
そういうのは無いですw

さて、DB以降、僕は大ヒットしたパワーインフレ漫画を知りません。
何かあったかなと頭を巡らせてみても、何も思いつかない。
逆に、「パワーインフレを取り払った」作品ばかりが目立つ気がします。

その最初が「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」ですね。

「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」

時期的には、「DB」の連載が終盤だった頃に「週刊少年ジャンプ」で始まった今作。
ジャンプの暗黒期を支えた看板漫画となりましたが、この作品の主人公である剣心は最初から滅茶苦茶強かった、所謂「最初から最強の主人公」でした。
別に今作がこの設定のオリジナルという訳では無いです。
パッと思いつくだけでも「CITY HUNTER」とか同じく最初からチート設定ですしね。バトル漫画じゃないけど。

ただ、その走りになった作品でもあった気がしないでも無いです。
「DB」のインフレが一部から揶揄されていたからなのか。
はたまた、強さの表現を描くことが難しいからなのか。
理由は分かりませんし、そもそも理由なぞ無いのかもしれませんけれど、今作以降パワーインフレを失くした作品が乱立し、立て続けに大ヒットしていったように思うのですが、ただの気のせいかもしれませんw

さて。余計な憶測はここくらいにして、作品を振り返ってみます。

元「伝説の人斬り」という設定上、剣心の強さには十分な説得力が最初から備わっていました。
次々と襲い来る敵も、剣心の前に敗北していったのも納得といったものでした。

ただし、成長要素が皆無かと言うとそうでは無く。
主に弥彦に担わせていた”成長”の役目を、剣心も京都編にて担うことがありました。

かつての師である比古清十郎の元へ向かった剣心は、そこで飛天御剣流の奥義を習得。
今作で唯一と言っていい「主人公のパワーアップ」と言っていいのがこの点でしょうか。

全体を思い返して見ましても、やはりパワーインフレからの脱却を図っているように思われます。
主人公を最強に近い位置に初期設定しているからインフレする必要が無く、かつ、強敵に勝つ説得力も持っている。
実に巧みな作劇だと感じますね。

もう二つ程取り上げてみます。

「FAIRY TAIL」

現在のマガジンの看板作品ですね。
これも主人公であるナツが最初から強いという特徴があります。
ただ、この漫画の面白い点は、「何故ナツが敵に勝てるのか」イマイチ伝わりにくかった点ですね。

ナツもフェアリーテイルのメンツも強い。
けれど、敵はそれ以上に強いかのように描かれている。
最初の内こそそれでも説得力もあったのですが、だんだん敵の強さアピールが大仰になるにつれ次第に「?」となっていきました。

謎の不思議パワーを得て、ど根性とかそういうので勝っているだけなのではとも思えて来ちゃう。

その理由は、ナツがどれだけ強いのか定かでは無かったからですねw
強い強い言われていても、それ以上に「強い」キャラも仲間内にいるし、基準となるものが見出せなかった。
とはいえ「剣心」と同様、それでも基準はありました。

「ドラゴンに育てられ、鍛えられた」という点です。

通称ドラゴンスレイヤーと呼ばれるナツらですが、でも、実際ドラゴンがどれくらい強いのか分からなかったw
だって出て来なかったのですから。
相当強くて、そんなドラゴンを倒せるらしいナツらも相応に強いとは分かるのですが、次々と立ち塞がる敵魔術師との力の差が図れなかった。
基準はあっても、その基準自身(ドラゴン)の強さが明示されていなかった為、ナツの相対的な強さが図る事が出来なかったのです。

僕は好んで作品に触れていましたので、少々疑問に思っていてもそれ以上の感情は抱きませんでした。
でも、そうで無いとちょっと納得いかない点かもしれません。
前半の記事でも書きましたが、やはり最低限の説得力は必要です。

そんな今作ですが、明確な基準がいよいよもって確立したと思っています。
イグニールの登場です。

この最恐のドラゴンは、本当に強かった。
ドラゴンの中でも別格の存在だとはいえ、束になったフェアリーテイル主力メンバーを軽々と一蹴。
あっさりと敗北してしまったナツ達。
ですが、僕はこれで納得しました。

このような怪物をも倒す力を秘めていたナツ。
これまで敵魔術師を退けられたのも納得いきました。

でもこの作品、これ以上に面白い点は、そんなナツらを相対的に弱くさせた点ですね。
ドラゴンに敗北したナツらの”時”を止め、時間を7年間進めた。
ナツらの成長を止めて、周りのレベルを跳ね上げた。

これは実に面白い展開だったと思います。
コミックスのあとがきで作者自らこの点に触れていましたが、パワーインフレをある意味リセットする、とてもユニークな手法だったと考えます。

直後に割とあっさりナツ達もパワーアップしてしまったので、やや「あれれ?」と思わない事も無いですがw
魔法という「時を止めても不思議に感じない」点を優位に活かした素晴らしい作劇でした。

「ONE PIECE」

最後に少しだけ。
バトル漫画の括りに入れるには、少々憚れるのですが…。
この作品も剣心の系譜(というと語弊があるなぁ)を受け継ぐ作品。
ルフィもまた長年の修行を経て、ゴムゴムの実の力をモノにして、ある程度の強さを得た時点からのスタートでした。

この初期に設定された強さだけで乗り切ったのが東の海編。

でもグランドラインに入るとそうはいかなくなりました。
海に強さを設定した為ですね。
東の海(最弱の海)<グランドライン(前半)
の為、初期の強さだけでは太刀打ちできなくなってきた。

そこで、別の要素が入ってきます。
ゲーム性の導入ですね。

悪魔の実固有の特性があり、これが戦闘の勝敗を左右していきます。
習熟度や相性なんかですね。

アラバスタ編での対クロコダイルが象徴的でしょうか。
2度の敗北の後、クロコダイルの能力の弱点を突いた戦略で、見事強敵を打ち負かしました。

また、ルフィの「ギア」シリーズなどは、この習熟度の賜物ですね。
更に「DB」の見た目の変化なども取り入れて、強さに説得力がありました。
…修業シーンとか一切無くて、唐突感があったのはご愛嬌w

ただ、これにも限界が来ました。
どうしてもルフィが勝てない敵が出て来てしまった。
それも当然で、世界でも最強の「新世界」目前まで物語が進んでしまったからです。

そこで更に別要素が加わりました。
「覇気」ですね。
2年間の修行という、今まで無かった要素まで取り入れて、これを習得させルフィを強くしました。

ルフィ達が航海する海そのものにレベルを設定し、その都度ルフィ達の強さに根拠を加えていくという手法。
これも実にオリジナリティ溢れる一つの「パワーインフレの描き方」だと思います。

まとめ

パワーインフレを観点に4つほど漫画を取り上げてみました。
確かにインフレする漫画というのは、危険な要素を孕んでいるんじゃないかと思うのです。
物語そのものを崩壊させかねないし、上手く描かないと強さの説得力まで欠いてしまう。

でも、大ヒットしている漫画は、きちんとこれを取り入れ糧としてるように思えるのです。
バトル漫画にはどうしても付き纏うパワーインフレ。
それをどう描いているかで、作品の個性が現れるような気がして、このような観点で読み直すとまた新しい魅力に気付くことが出来るのかもしれないなと思ったりしました。

以上、長々と失礼いたしました。

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