この記事は
「とある科学の超電磁砲」第15巻の感想です。
ネタバレを含みます。
別格の面白さ
ラノベ原作のスピンオフという事が万人にお勧めできない点ですけれど、そこに目を瞑れば下手なバトル漫画よりよっぽど面白いバトルを描けていると声を大にして主張・布教したくなるのが「とある科学の超電磁砲」です。
15巻では特にその面白みが凝縮されていましたので、改めてバトルにスポットを当てた感想を書きます。
頭脳戦かくあるべし!!
力押しでゴリゴリに攻める脳筋バトルも良きですが、知略を張り巡らせた頭脳戦も好きなのです。
ただ最近は「自分を上回る相手にどうやって勝つか」がバトルを楽しむポイントになっていて、その点においては後者の方がより深く楽しめる作りの作品が多いですね。
唐突なパワーアップとか新技を炸裂させたからとか、そういうものより、理論的な逆転劇を好むようになってきたかな。
そんな僕の「知略戦は楽しい」の原点はというと、中学生くらいの頃に父に勧められた「伊賀の影丸」になります。
作者は横山光輝先生。
「鉄人28号」や「バビル2世」、「仮面の忍者赤影」に「魔法使いサリー」。
そして「三国志」。
数々の名作を世に送り出した大作家。
今でも秋田書店発行の「サンデーコミックス」で購入できたりします。
(ちなみに初出は小学館の「週刊少年サンデー」。秋田書店の「サンデーコミックス」出版の経緯は調べると面白い)
漫画の説明は一言で言えば、「忍術合戦」。
江戸幕府の公儀隠密・伊賀忍。
その中でも飛び抜けた力を持った主人公・影丸が様々な仲間と共に、敵の忍軍と忍術合戦を繰り広げて、幕府に反する組織や事件を潰していく…という漫画。
全9章で1章あたり、300~400ページほど。
その特徴は、敵味方関係なく、バンバン戦死者が出る事。
かなりサクッと死んでいきます。
出てくる忍者たちは、みんな得意な術を持っていて、相手によっては得手不得手があるんです。
当然自分の術は仲間内にも秘匿にしていることもあったりして、敵にばれることが無いようにしています。
術がばれると、対策を取られて死に直結してしまうからです。
(1対1で戦って敵を仕留めるも、その一部始終を覗き見していた新手に術を破られて斃されてしまうなんてことも)
罠を仕込み、策を巡らせ、秘術を持って敵を討つ。
手に汗握る頭脳戦が繰り広げられるんです。
忍者漫画=頭脳戦
という等式を作ってしまう位には、僕も影響を受けた作品でした。
っでね、これって現代でも十分に通用する等式なんですよ。
「ONE PIECE」の登場以降流行りだした能力バトル漫画は、やっぱりこの系譜に則って欲しかったりするわけです。
「ワンピ」無関係だけれど、「ポケットモンスター」が良い例じゃないですか。
様々な属性が付与されたポケモン達は、得意な属性と不得意な属性を持っていて、全能な属性は無い。
じゃんけんの法則が上手く取り入れられていて、それがバトルに奥行きと戦法という楽しさを生んでいます。
当の「ONE PIECE」でも、同じですよね。
悪魔の実の能力には、上下関係や得手不得手がしっかりとある。
個人的にこの観点で一番好きなバトルは対クロコダイル。
一見無敵に思えるスナスナの実の能力を使いこなすクロコダイル。
緒戦、二戦とルフィを退けます。
しかし、ただルフィも敗れたわけではなく、戦いの中で相手の弱点を看破。
対策を練るも、それでも力負けし、最後は「自分の血で弱点を突く」という手法で辛勝する。
スポ根的な少年漫画のノリを持たせつつも、能力バトルの醍醐味であるじゃんけん要素を織り込んでいる。
(じゃんけんとはちょっと違うけれど、能力特有の弱点を突くという点で…)
兎も角、「能力を披露する」ことは、「相手に弱点を晒す」ことにも繋がる訳ですよ。
能力の秘密を死守することって、能力バトルでは大事。
能力を誤認させた相手との戦いが見事
大分遠回りしましたが、ここからは「超電磁砲」15巻のお話。
2つの戦いがありました。
最初は、美琴VS雷斧。
レベルの差が絶対的な力の差となる能力者同士の戦い。
学園都市に7人しか存在しない最上位のレベル5の第3位である美琴は、学園中に能力が知れ渡っている存在。
それでも今まで勝ち続けてこられたのは、純粋な彼女の能力とそれに胡坐をかかない頭を使った戦いをしてきたから。
雷斧はレベル3か4の重力操作。
当然彼女の能力を知らない美琴は、雷斧の能力を探りつつの戦いを強いられます。
能力バレは致命傷である。
それは雷斧もまた念頭に置いて戦いを仕掛けます。
あの手この手で、美琴に「自分の能力は念動能力だと」思い込ませます。
そうやって、「六枚羽」(学園都市最新鋭の無人戦闘ヘリ)を呼び寄せた真意を誤解させました。
雷斧は「六枚羽」で美琴を斃すことを目的としている…訳ではなく、「六枚羽」に向かってレールガンを撃たせること。
1発目のレールガンで威力や軌道を読み、2発目を自身の能力で美琴に撃ち返すことで、美琴を美琴自身の力で斃そうと目論んでいたと。
自身の能力を誤認させる戦い方。
上位の相手をいかようにして斃すかを計算し、そこまで戦局を持っていく心理戦の綾。
非常に読み応えのある戦いでした。
「殺す戦い」ではなく「捕まえる戦い」
そして2戦目が黒子VS釣鐘。
個人的には、こっちの方が美琴の戦いより興奮を覚えました。
美琴同様黒子も有名人。
レベル4<大能力者>である黒子のテレポート能力もまた敵である釣鐘にばれている状態での戦い。
ただ、美琴達の戦いと異なるのは、黒子も釣鐘の能力に察しが付いていたという点。
前哨戦のような形で、一度組み合った両者。
テレポートによる攻撃を釣鐘が躱したのを黒子は見逃していませんでした。
そこから相手の能力を推察。
見事看破してからの戦いとなったのです。
相手の手の内をお互いに知った上での「化かしあい」。
だからこその面白さが詰まっていました。
先ず仕掛けたのは黒子。
釣鐘の能力「AIM観測」。
ざっくりと解説すれば、黒子のテレポート先地点が一瞬早く知れちゃうって能力。
黒子は、それを逆手に取って「眼前にテレポートをする」と見せかけて実際にはテレポートをしないという荒業を披露。
これの何が凄いのかは、多分原作読者じゃないと分からないのだと思う。
僕も完全に理解してる訳では無いですが、一応テレビシリーズの「禁書目録」は全話見てたお陰で「凄い!!」とギリギリ思えたのですけれど。
テレポートって滅茶苦茶デリケートな能力で、ちょっとでもミスれば壁にめり込んじゃったりする危険な能力。
「禁書目録」では、それによって重傷を負い、心に傷を作った少女も出て来てました。
要するに、「A地点に飛ぶ」と能力を実行に移した直後に「やっぱりやめた」と強制キャンセルすることは、かなり命がけというか、やろうと思っても出来ない繊細かつ危険な行為な訳で。
黒子はそれを戦いながらやっていたのだから、恐れ入る。
いくら相手の隙を突けるとはいえ、普通に出来るものじゃありません。
彼女の戦いに賭ける覚悟の大きさと能力の熟練度、度胸の賜物です。
これが伏線になっているのだからたまげました。
黒子がどの時点で、勝ち筋を見出したのかは分かりません。
ただ、材料は揃っていました。
釣鐘は痺れ薬を仕込んだ刃物を使ってくること。
特製の薬剤ジェルを持っていること。
釣鐘が変態サイコパスであること。
そして、自分がジャッジメントであり、相手を殺すことではなく捕縛することを目的としていること。
釣鐘が黒子をどうしたいのかも探っていたのでしょう。
その過程でトドメは刺さずに、逃げようと思えば逃がす意思があることも分かった。
自分がここで釣鐘を逃せば、彼女は粛清を甘んじて受け入れるつもりである。
黒子の正義はそれを赦すわけもなく。
自分を逃がさないよう敢えて逆なでするようなことを言う。
敢えて痺れ薬の効いた刃物で切られる。
痺れ薬が全身に回る前に、薬剤ジェルを血管内にテレポートさせて浸透を遅らせる。
油断を誘った最大の隙を突いて、渾身の攻撃を見舞う。
携帯電話によるフラッシュは、それでも倒しきれなかった時の備えか。
あるいは、初めから釣鐘の身体能力の高さを織り込んだ上での策かであり、最初から痺れ薬で昏倒させることが目的だったのか。
この辺もどうだったのか不明ですけれども、「殺すことなく無力化する」ことを最大限に配慮した結果の策は、実に黒子らしいし、頭を使った面白い戦いを見れたという満足感に浸れました。
勝利の分かれ道は、どう考えても「薬剤ジェルを血管内にテレポートさせて浸透を遅らせる」ことが出来るかどうかですよね。
思いついたとして、じゃあやれと言われて出来るかというと…。
声を出して悟らせたら終わりの中で、激痛が予測されることをやる度胸。
そうまでしてでも、釣鐘を捕まえるのだという覚悟。
事前に黒子の覚悟と度胸を見ているからこそ、「その程度は黒子は耐えるし、平然とやってのける」と思わせられてしまうんですよね。
黒子の正義の在り方を示しているし、彼女の色々な面での強さが見れたベストマッチ。
読みあいを制した黒子の戦いは、読んでいて痺れました。
終わりに
能力バトル漫画は、かくあるべきだなぁと改めて感じた巻でした。
やっぱりこの漫画は面白いなと。
10年読んでいても飽きない秘訣が何か分かった気がしました。