はじめに
水門都市を舞台にした第5章もいよいよ終盤戦。
5か所同時進行の一大決戦が始まりました。
怒涛の勢いで進んだ19巻の感想です。
プリシラとエミリアに見る「王の資質」
18巻が停滞してた分なのか、いっきに物語は進行しました。
これは大罪司教を2人屠ったとみて良いのかな?
シリウスの生死がやや怪しくて、こちらはもう一波乱あるかもですが、それにしてもそう長くは描かれない気がしますので、実質決着と見做せそうかな。
さて、2つの大きな戦いから2人の王選候補者の違いが克明に出ていた気がします。
先ずはプリシラ。
政敵としては正直好かんプリシラですが、味方になると頼もしく、かつ、まともな感性の持ち主なのだなと見方が変わりますね。
比較対象が異常で非常識で独善的なシリウスだからこそというのはあるのでしょうけれど、それを差し引いても味方陣営の考えとしては相応しい感じでした。
傲岸不遜な態度は変わらずだけれど、自身が認めた人物の奮闘に報いようとする姿は、どこかスバルを彷彿とさせるもので。
彼自身愛する者とそうではない者は区別して、差別すると述懐してますが、とはいえなんだかんだ目の前で泣いている他人がいれば手を差しだすのがスバル。
非常になりきれない優しさがあるのですが、プリシラはそこの判別を冷淡に下せる人間なのでしょう。
言葉通り味方しか助けない有様は、スバルと異にするところではあるけれど、根底に流れるものは同じというか。
今回に於いては、なんだかんだとシリウスの権能に支配された人々の命を守る戦いをしていましたが、芯は曲げないでいたところに「人の上に立つ資格」があるんだなと感じました。
国を背負って立つものが情にほだされたり、すぐに考えを変えたりでは不安でしかないですからね。
切り捨てるところは切り、救う所は救う。
全ての行動に1つの大きな芯が通っていて、それに殉じていれば、よほど悪政を敷かない限りは民人は着いていきそうです。
切り捨てられる側の人間にとっては、悪でしかないですが。
手を汚すのも厭わない事を王の条件なのだとすれば、プリシラほど相応しい候補者もいないのかもしれません。
続いてエミリア。
先程の王の条件に真っ向から対立しそうだなと改めて感じたのです。
レグルスは本当に度し難い敵でした。
大罪司教なんて揃いも揃って「悪意の塊」でしかないですし、そこに順位なんて着けようがない位悪い意味でトップを競り合っているほどの悪人揃いですが、こと「気持ち悪さ」に於いては頭一つ抜きん出ている感のあるレグルス。
ただ単に気持ち悪いのでは無くて、胸糞悪さを伴った気持ち悪さなので、非常に性質が悪いです。
性格も然ることながら、その権能に至るまで、彼の気持ち悪さを具現化したような悪意に満ちており、奴の打倒は人類の悲願とまで言っても過言ではないでしょう。
少なくとも全ての女性にとっては、そうですよね。
女性を愛する者にとっても同様で、やはり人類の敵と断言できそうです。
そのレグルスを屠る為には、54の命を絶たなければならない。
プリシラならば恐らく躊躇せずに53までは刈り取っていたのではないでしょうか。
害悪を滅ぼすために無辜の犠牲が必要であるならば、害悪を滅ぼす事を優先しそうではあります。
そういった犠牲を認めずに、必死に皆が助かる道を模索するのがエミリア。
今回レグルスの妻たちを仮死状態にする方法を見つけられたのも、そんな彼女だからこそでした。
こういう子は得てして「人民の上に立つには相応しくない」性格と言われます。
そりゃそうですよね。
人は万能じゃありません。
全員を救う方法を取り続けるなんてことは不可能です。
必ずどこかで切り捨てる道を選択しなければならなくなるし、選択した上で尚人の上に立ち続けなければならない。
優しすぎる子には向かない。
けれど、覚悟が伴っているところがエミリアの候補者としての強みでしょうか。
彼女が自分の心臓にレグルスの心臓が移動する可能性に気づいたのはいつだったのでしょうか。
53人の花嫁を氷漬けにした後?
否、でしょうね。
恐らくは、シルフィの胸にレグルスの心臓を発見した時。
敏い彼女は、最悪の想像をしたに違いありません。
53人の花嫁を氷漬けにする方法は、そんな最悪を想定した上での選択。
つまりは、「自分を氷漬けにすること」までを覚悟した上での行動だったんじゃないかなと。
花嫁たちを仮死状態にしたうえで、レグルスの権能が無くなれば万々歳。
奴を倒した後で、花嫁たちを覆う氷を解かせばいいだけ。
けれどそうはならずに、心臓が自分に移動してきたら。
その時はもう自分を氷漬けにして、スバルに後を任せるつもりだったのでしょうね。
自分を犠牲にしようとも、他人は救い出す。
これは「54番目の命」である自分自身をも捧げる覚悟の成せる業です。
逆にプリシラには、ここまでは出来ない気がします。
個人的には、人の上に立つに相応しい人物と思っちゃうんですよね。
とはいえ、民を助ける為に王が自分を犠牲にしちゃいましたでは、国としてはたまったものじゃありません。
おいそれと代わりが務まる訳ではないでしょうし、残された者にとってはやはり「相応しくない」と判断されるのかなと。
だからこそ、スバルが居る。
王の命こそを最優先にする彼が、王を助けてこそ、王の覚悟が活きてきます。
エミリアが命がけで国民を守る。
その横で、スバルがエミリアを守る。
誰1人として犠牲を払わない。
妄言と捉えられてもおかしくない夢物語を、しかし、2人が補いあう事で成立させているのかなと。
2つの戦いを通して、2人の王選候補者の違いと掲げるであろう「国王像」が見えた気がしました。
その上で、僕はやはりエミリアの方を支持したいですね。
夢物語結構じゃないですか。
全員を救うそんな王様が収める国があって欲しいものです。
大罪司教について少し
あれ?
サテラって若しかして地球人なんじゃ???
スバルに魔女の残り香がある理由、サテラに愛されている理由、死に戻りという特殊な能力を与えられた理由。
全部同じ地球人だからなんじゃ?
とはいえ、古くはホーシンを始め、アルなど地球から転生した人間は多くいて、全員がスバルと同じと考えるには無理があるので、スバルだけが選ばれた理由は他にもあるのでしょうけれど。
まぁ、サテラが仮に地球人だとして、物語の根幹の謎にどう関わってくるのかは分かりませんが。
それにしても大罪司教が星と関係してたのは気づかなかった。
これってスバルの考え通り偶然な訳無くて、間違いなく地球人が絡んでる証左ですよね。
大罪司教達に名前を与えた人物(若しくは福音書から取ったのか…)が怪しいですね。
なんの為にそんな弱点を晒すような名前を与えたのか。
謎ですね。
終わりに
リリアナの活躍が良かったですね。
エミリアがレグルスのことを一切覚えてなかった事と言い、この作品は意趣返しが本当に綺麗に嵌りますね。
大罪司教達の振りかざす矜持を・悪意を、見事なまでにやり返す。
ただ相手を力で斃すだけじゃなくて、精神面でもやり返すところにカタルシスを感じます。
さぁ、この勢いで20巻で5章完結へ!!
いくのかな…。
- 作者: 長月達平,大塚真一郎
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2019/03/27
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