映画「SAND LAND」ネタバレ感想 原作の「冒険譚」を「大冒険譚」へと見事に膨らませた傑作だった

この記事は

映画「SAND LAND」の感想です。
ネタバレあります。

久々の「Dr.SLUMP」、「DB」以外の劇場アニメ化

鳥山先生と言えば、「Dr. SLUMP」と「DRAGON BALL」がどちゃくそ有名ですよね。
ただ、それ以外の漫画もアニメ化されていたりします。
劇場作品に絞ると「PINK」と「剣之介さま」以来なので、33年振りですか。

「ドラゴンボールZ 地球まるごと超決戦」をメインとした夏の東映アニメフェアで同時上映された2作品ですが、いや~懐かしい。
当時はまだ地元に小さな映画館がありましたので、父に連れて行ってもらって滅茶苦茶楽しんだなぁ。

内容はほぼ覚えてないけど。

…そりゃ、33年も前だし。
「地球まるごと超決戦」が凄く面白くて、それ故に同時上映作品が何だったのかとかははっきりと記憶してるのだけれど、肝心の中身は…。

ともかく、あれから33年。
初めて東映を離れて、東宝が配給で初めて手掛けた鳥山作品!!!
「SAND LAND」の感想です。

違和感の少なかったセルルックCGアニメーション

僕の基本的なスタイルは、断固手書きアニメーション!!
なのです。
頑としてCGアニメーションを嫌っております。

イルミネーションの「スーパーマリオ」とかピクサーアニメ。
日本では「STAND BY ME ドラえもん」とかは、良く出来てるなぁって思うこともあります。
しかし、まだまだ手書きアニメーションの良さには程遠く、違和感ばかり先行してしまうのです。

アニメーションなのに、肝心のアニメーション自体に違和感を持つと、どうしても作品に没頭出来ないんですよ。
心から楽しめないんです。

だからこそ今作もあまり期待していなかったのですけれど。
かなり良かったんです。
まだまだ動きとかに硬さというかぎこちなさを覚えたものの、手書きアニメーションに近い質感を再現できていて感動を覚えたほど。

少なくとも「DRAGON BALL超 SUPER HERO」の何十倍も良かった。

それ故に自然と作中の世界観に浸れて楽しめました。

濃密な原作の冒険を大冒険へ!!

鳥山先生の漫画の魅力って展開の速さにもあると思っています。
今の30代、40代の僕ら世代にとっては、アニメ「ドラゴンボールZ」の影響で
鳥山作品≒引き延ばし
というイメージを植え付けられている人も少なくないと思われますが、よくよく原作を振り返ってみると内容が濃ゆいことに気づかされるはずです。

「SAND LAND」なんてまさに鳥山プロットの真骨頂でしょう。
幻の泉を求める人と魔物の大活劇をわずか14話、コミックス1冊に纏めているのだから。

出会い、ゲジ竜とのチェイス、ベルゼと方向性の似た服を着た悪ガキどもとの闘い、戦車を奪った後に飛行機との一戦。
アレ将軍率いる戦車隊との戦車戦、スイマーズとのいざこざ、ピッチ人の隠れる泉を見つけ、ベルゼブブと虫人間の決戦。
そして、ゼウ大将軍との最後の戦い。
ここに更にシバの過去とゼウとの因縁を絡めたドラマを描いて、全体を纏めている。

これだけの分量を1冊で描き切ってるのだから、どれだけ展開が速いかお判りいただけるんじゃなかろうか。

さて、そんな原作の冒険を、映画では大冒険へと昇華されていました。

もうね、原作の膨らませ方が「分かってる」としか言いようがない。
鳥山先生の好きな要素をぶち込んだ今作において、やはり一番の魅力は「カッコいいジジイ」でしょう!!!!!

元天才軍人・シバ。

映画ではさ、シバの魅力が数倍、数十倍にも膨れ上がっていて最高でしたね。

大きく展開が膨らませてあったのは、2つ。
中盤の見せ場であるアレ将軍との戦いとクライマックスですね。

原作では1匹だった虫人間が大量になってベルゼと死闘を演じ、シバとゼウの戦いも大幅にマシマシになっておりました。
シバVSゼウについては、後ほど触れることにしまして、ここでは戦車戦を取り上げます。

アレ将軍率いる4両の戦車との闘い。
原作と映画、簡単に比較してみましょう。

先ずは原作。
2両ずつ別れ、挟み撃ちを目論むアレ将軍。
シバは相手の位置を捕捉・走りつつ、丘の上に登ることを指示。
太陽を背にして、先ずは2両を行動不能にします。
ベルゼからの情報を耳にしつつ、残り2両からの砲撃を交わすと、すかさず敵の待ち伏せを利用して一瞬の隙を作り出します。
その一瞬で敵の正確な位置を目測すると、すかさず行動不能に陥れ、アレ将軍を屈服させるのでした。

では、映画。
基本的な流れは原作を踏襲しているのですが、より戦略的な感じになっていました。
冒頭からして変えてるんです。
原作ではアレ将軍からの攻撃は、ほとんど無かったのですけれど、映画では最初から撃ちまくってました。
「敵の砲弾を交わし逃げつつも、状況を見極め、地形を利用して作戦を組み立てるシバ」というシチュエーションを作り出すことで、シバの「天才軍人」要素を見事に膨らませていたんです。

アレ将軍が降伏するタイミングも変えてありました。
残り1両となってからもアレ将軍は戦いを止めずシバに挑み、最後は金属レーダーをかく乱するというシバの作戦に嵌り敗北。
この「追加の戦い」もまたシバの軍人としての才覚が如何なく描かれていて、非常に見事な肉付けでした。

映画として単純に迫力が足されたというだけではなくて、シバの軍人としての腕前を原作より引き立たせた良改変だったと思いました。

「殺さない」

ワルだと言いつつ、やってることも自慢話の中身も小学生みたいなベルゼブブら魔物たち。
ここら辺の会話は鳥山先生らしさ全開のギャグですけれど、さりげなく「魔物よりも人間の方が”問題”がある」とあります。

魔物は殺しはしないけれど、人間はする。

シバが人を殺したことがあると知った時のベルゼ達のリアクションは、「自分達(魔物)よりも恐ろしいシバへの畏怖」のように読み取れます。
ピッチ人全滅の指揮を執っていたのが自分だとシバが告白した時のベルゼ達のリアクションも同様ですね。

さて、ベルゼと虫人間の戦いに目を転じます。
全力でベルゼを殺しにかかる虫人間に一方的に蹂躙されるベルゼ。
シバが助けようとするも、切れたベルゼは逆転。
虫人間を倒します。
倒すのだけれど、殺しはしないんですよね。
倒したところで歩み寄って「戦いを止めるよう」話し合いをしようとします。

こうしてベルゼは一貫して「相手が誰であっても殺さない」姿勢を持っていることが窺えます。

原作では、この点についてはこれ以上もこれ以下も無いというか。
「テーマではない」ので、ゼウ大将軍もアレ将軍の砲撃で爆死。
シバは「ゼウを殺す資格がある」としてアレ将軍の行為を容認しているのです。
ですが…ベルゼ達を信用し、絆を育んだシバなら「殺さない」選択肢を採っても良かったよねとも考えてしまう訳で。

繰り返すようですが、作品としての良しあしでは無くて、単純に好みの問題。
僕は映画のようにシバも「殺さない」道を採ってくれたことでスッキリしました。

シバ対ゼウ大将軍。
原作から大きく膨らませたシーンのもう1つ目。
シバのひたすらにカッチョイイアクションシーンに痺れるところですが、やはり見どころは、「トドメの1発」。
原作以上に悪逆非道なゼウを辛くも追い詰めたシバ。
命乞いするゼウに銃口を突きつけて、決着を着けようとします。
鳴り響く銃声。
羽ばたく鳥たち。
シバとゼウの姿は塔の影に隠れて、僕ら観客からはどうなったのか見えなくなります。
殺したのか、殺さなかったのか。
一体どっちなんだろうと想像を膨らませた次の瞬間。
弾痕は、ゼウの頭上近くの床にあって…。

王道のシチュエーションではありますが、「人は殺し、魔物は殺さない」を何度も語った後で、「かつて人を殺したことのあるシバがベルゼ達と出会い、絆を深めていくことで、憎き相手を殺さない選択をした」ドラマがしっかりと伝わっているから、納得感が半端なかったのです。

最後もベルゼの一撃でバイキ〇マン宜しく、彼方の星になったゼウ。
原作とは異なり生き残りました。恐らく。

どうしようもない悪役だから、原作でゼウが死んだことに対して「何故(物語上)殺したのだろう」という疑問はありません。
けれど、好みの問題として、生き残った方がスッキリとした気持ちになりました。

終わりに

楽しかった。
この一言に尽きます。

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