これぞ少年漫画の新王道!!「セイギダイ~明治警察伝~」

この記事は

「セイギダイ~明治警察伝~」の感想です。
ネタバレあります。

新王道少年漫画

いつからだろう。
フィクションの世界から勧善懲悪の概念が薄まったのは。
悪はひたすらに悪人であり、それを正義の名のもとに一刀に伏す。
とても分かりやすい構造のお話は現代では受けなくなったのでしょうか。

悪人にも正義感が掲げられたり、善人の行いも価値観の違いによって批判の対象となったり。
善対悪の単純な構図は鳴りを潜め、「価値観の衝突」が題目に上がるようになってきた気が致します。
それは少年漫画の王道であるバトルモノにも波及。

そういったものは確かに面白い。
少年漫画でいえば「僕のヒーローアカデミア」は本当に良く練られていますよね。
様々なヒーロー像とヴィラン像を提示し、「単純にヒーローが聴衆から支持されない世界観」を用意しています。
その上で、デクのヒーローとしての価値観が王道に見えるように工夫されている為、「様々な価値観が蠢く現代社会で、もがきながらも自身の正義感を貫くヒーロー像」を見事に浮き彫りにしています。

ヒーローの力は、見方が変われば暴力となり得る。
そういった側面からヒーロー活動には条件と規制が設けられ、ライセンスの有無で判断されている世界。
デクの持つ「危機に陥った人々を助ける」という絶対的な価値観は、非常に危ういものなのです。
正しい事をしても非難される価値観だけれど、デクはそれを曲げずに、かつ、世間も相手にしながら正義を執行する。
難しい題材を「王道少年漫画」に昇華していて、まさに「現代の王道バトル漫画」と呼ぶに相応しい漫画となっています。

一方で古き良き時代のバトルものも好きなんですよね。
頭空っぽにして楽しめる、ただただ正義が悪を滅ぼすような作品。
最近の作品だと「ワンパンマン」かな。
純粋な悪人をパンチ一発でぶっ飛ばすシンプルなバトルはスカッとします。

前置きが長くなりましたが、「セイギダイ~明治警察伝~」の感想です。
現代ならではの古き良き時代のバトル漫画。
今の時代のバトル漫画と古きバトル漫画の良いとこどり。
新王道少年漫画です!!
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この漫画面白い。

江戸から明治へ。
日本が大きく変わった過渡期。
変革のただ中に居たのが武士でした。
株式会社江戸幕府では重宝されていた彼らも、会社が「明治新政府株式会社」という人手に渡った途端に解雇。
職を失ってしまったのですからね。
そりゃ一斉蜂起しちゃいますよ。
各地で反乱です。
主人公・帯刀(たてわき)の父と兄も新政府に歯向かった武士でした。
しかし、近代兵器を要する新政府と剣を振り回すしかない武士では勝負は火を見るより明らか。
武士たちは次々と鎮圧され、追われた者は切腹して果てました。

時は移ろい、政府への恨むを持ったまま成長した帯刀は、地元の警察署を襲撃します。
武士の復権を求め、それが叶わぬのなら自害をしようとしますが…。

「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」。
江戸時代中期に書かれた「葉隠」に記された有名な一文です。
現代人が武士を想起する時に、まっさきに頭に浮かぶ生き様ではないでしょうか。

帯刀は、まさにそんな少年。
まだ子供のうちから「死に急いでいる」。
現代の価値観から見ると、ちょっと一般的とは言えないものです。
当時の武士の間では一般的だったのか?
不明ですけれど、この漫画の武士達には共通した考え方。

警察襲撃事件から日が経ったある日。
武士として死を選ぶような危うい少年だった帯刀の生き様を変える出来事が起こります。

物語の本格的な始まりは、そこからです。
「何があっても生きるんだ」と考えを180度改めた帯刀は、警察官を目指します。
父のような「人の命を重んじる警察官」を志します。

犯罪者であっても無闇に痛めつけない。
抵抗しないよう手を封じ、逃げ出さないよう足を討つ。
帯刀の剣技はそれを体現しています。
命あればきっと改心してくれる。
人を信じる。

理想論ですよね。
根っからの悪は居ないという性善説にも似た考え。
しかし、少年漫画の主人公が掲げるには、王道な思想です。

対する犯罪者達。
今のところ(2巻まで)は、帯刀の掲げる理想論に反するまさに「悪」です。
逃げる為には簡単にウソを吐き欺く盗人。
動機も背景も持たず、依頼通り何人も殺してきた暗殺者。
帯刀の思想を嘲笑うかのような面々が出てきます。

恐らく今後も「読者が同情できるような動機」や「彼らなりの正義感」を持った悪人は出てこないのでしょう。
帯刀の思想を阻む障壁として機能することを考えると、分かりやすい悪人の方が良いですからね。
だから、帯刀VS犯罪者のバトル漫画と見ると、この漫画はとても昔ながらのバトル漫画の型に嵌められます。
犯罪者と対する時の帯刀は、決して手を抜かず全力で剣を振いますので、ただただ痛快な善対悪を堪能できます。

このシンプルな構図のままだと、昔ながらの~で終わるのですが、この漫画はそうじゃありません。
帯刀の味方であるはずの東京警視庁が曲者なのです。
この存在が、構造を複雑化させています。

帯刀の掲げる思想を理想論だと一笑に付します。
犯罪者は徹底的に痛めつけろという考えが上層部(帯刀の直属の上司)にあり、徹底してるんです。
ある意味現実論と呼べる考えを帯刀に押しつけてきます。
ここら辺、マジでぶれません。

普通「理想論」を持つ主人公と「現実論」を持ったキャラクターが対立したら、「理想論」で「現実論」を看破したり、相手の思想を変えたりするじゃないですか。
実際帯刀も「犯罪者が逃げないよう徹底的に痛めつけろ」という命令に背き、「手足を打ちのめして動けなくする」=「無闇に痛めつけなくても逃げられない状況は作れる」ということを提示します。
相手の思想を自分の思想に則った範囲で実現して黙らせるんです。
主人公が相手を懐柔する流れですよね。

でも違うんです。
「帯刀のやり方は甘い」と認めず、一切思想を曲げません。
それどころか、より目を付けて帯刀の思想を捩じ伏せようと、現実を知らしめようとしてきます。
犯罪者との戦いとは別に、帯刀は身内との戦いに身を投じる事になります。
「正しい行い」を執行出来ない現実が主人公の前に立ち塞がります。
このあたり、最近のバトル漫画の兆候を孕んでいるなと感じました。

…無駄に長い事書いてきましたが、僕が言いたいのはシンプルです。
「この漫画面白い。」。
久方ぶりにワクワクする少年漫画に出会えました。

3人の剣聖とかいう少年漫画らしい、しかし、イメージとは真逆の人間臭いキャラクターが出てきたり。
暗殺者のバックに政府だか警察だかが居る事を匂わせ、壮大な物語を演出していたり。
キャラクターの魅力と興味を引く物語の構成が両立していて、とても面白い。

勧善懲悪のバトル要素と異なる正義感がせめぎ合う戦いを併せ持った、まさにこれからの時代の新しい王道になりそうな漫画でした。

終わりに

今作が連載中の「サンデーS」が増刷かかりました。
漫画雑誌の増刷は珍しい中、嬉しいニュースです。

とある公安の謎めいたお兄さんに執行してる、そこのお嬢さん。
折角雑誌を手に取ったのですから、今作も覗いてみてください。
途中からなので、そこから嵌れというのは無茶ですが、少しでも気になりましたら、先ず1話を読んでみてください。
セイギタイ~明治警察伝~(話) – 浦山慎也 – 「無料のコインでマンガが読める」サンデーうぇぶり
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いや、まぁ、僕は作者の関係者でも何でもないですが…。
打ち切られないように祈ってるので。
こんな感想にすらなってない駄文で分かった気にならずに、是非実際に1話の試読をお願いします。

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