「声優ラジオのウラオモテ」第4巻感想

この記事は

「声優ラジオのウラオモテ」第4巻の感想です。
ネタバレを含みます。

はじめに

あぁ。きっちりと声優お仕事ラノベをしてくれてる。
満足感で言えば遂に1巻を超えてきた。
最高だった。最高でした。

感想

勧善懲悪モノではなくとも、悪役を作るとドラマって比較的容易に作りやすいですよね。
ドラマとしては非常に楽に作れるんです。

と、語弊の無いようにきっちりと書かせてもらいますが、「非常に楽に作れる」というのは、誰にとっても簡単に作れるという意味では使っておりません。
少なくとも僕には無理です。ドラマを作れるような力は持っていません。
あくまでも、「悪役のいない物語」と比べて、悪役が居た方が物語を転がしやすいという意味。

この作品、今のところ声優業界内で人間的に嫌な奴や悪役は出てきてません。
クラスメイトにクズはいましたが、業界内にはまだいませんよね。
厳しい人はいるけれど、いじめてきたりする人間はいないんですよ。
今回のお話は特に「悪役のいない物語」の中の「理不尽」をリアリティたっぷりに扱っていました。
だからこそ、面白く感じたのです。

先日、興味深い記事が出ておりました。

女性声優の人数が、2001年の225人から今年は955人になったという主旨の記事。
声優の仕事は多岐にわたりますが、例えば深夜アニメだけに絞ってみると、2001年は23本だったのに対し、2019年は160本と激増しています。
とはいえ、声優全員が満遍なく出演作を持ててるわけでも無く、ごく一部の人気声優で大半を回しているのが実情。
人数に対して仕事が十二分にあるかというと、そんな訳は無いと思うのです。

こういう実際のデータを見ても「新人声優が1年間休業したら、居場所が無くなっていた」というのは、かなりリアリティがあります。
というより、そういう声優さん普通にいるんじゃないかな。

今作の内容に話を転じます。
元人気声優・秋空紅葉。
ヒット作への出演を機にブレイク。
出演作を増やし、ノリに乗っていた時期に過労で倒れ、そのまま1年間の休業を余儀なくされた彼女。
体調を戻し、治療を終え、いざ職場に戻ってみると自分の「穴」は、自分よりキャリアの若い新人声優達が埋めていた。
彼女のエピソードは、彼女自身に落ち度が全くないんですよね。
過労で倒れたのも事務所の責任と言えるし、性格や態度が悪くて干されたという訳でもない。
過労と治療という致し方のない事情で敢え無く休んでいたら、戻る場所が無くなっていたというのは、理不尽なことです。
本人含めて「悪役」がいない理不尽なのだけれど、先に書いたように「リアリティがやたらある」。
(事務所を「悪役」にすることも出来たところ、そこはあえて「事務所は悪くない」としてたところに「悪役のいない理不尽」を意図的に作り出していたのでしょうね。)
だからこそ身に詰まされるし、同情もするし、「物語としては面白い」。
現実で同様の状況の声優さんに対して「面白い境遇だね」とは思えませんが、フィクションとしたら「面白いドラマ」になってるんですよね。

この手の問題は得てして他人の手に負えるものじゃありません。
当人の問題であって、当人が答えを出すしかない。
もしも他人が解決しちゃったら、個人的には白けちゃうな。
よほど得心の行く方法なら別ですが、そうでない限りは「あり得ない」と切って捨ててると思います。

2巻くらいまでのノリなら「由美子が解決してた」気がしてならないのですが、そうじゃありませんでした。
今回由美子も千佳も「自分たちの問題」に取り組んでいただけで終わったのは、非常に良かった。
秋空紅葉に自分たちの考えを押し付けたわけでも無いし、グイグイと強引に引っ張ったわけでも無い。
渦中に引っ張り込んだり、ちょっとばかり背中は押してたけれど、あくまでも切っ掛けであり、最後の一押し。
この程度の接触はむしろ必要ですしね。
それ以上は踏み込まず、由美子なんか丁寧に謝罪に行ってまで身を引いたのです。

悪のいないドラマをきっちりと作り、解決法も主人公に委ねない。
乙女と紅葉の会話をオミットしていたのも良かったなぁ。
やっぱり難しい問題だから、下手に言葉を並べて「答え」のシーンを描くよりかは、思い切ってカットした方が良いと感じました。
このあたりのドラマの塩梅がとても僕の好みでした。

主人公コンビはコンビの方の問題定義を前半でした上で、後半の乙女のドラマを上手に活用して解決させているので、きちんと見せ場は作れてるんですよね。
メインキャラ(乙女)にスポットを当てつつも、由美子・千佳の主人公コンビのドラマを深く掘り下げていた今回。
ボリュームも中身も大満足でありました。

終わりに

やっぱめくる良いキャラしてるわぁ。
どんどん絡んでいって欲しいね。

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