この記事は
「〆切前には百合が捗る」第1巻の感想です。
ネタバレあります。
はじめに
平坂読先生の最新シリーズが遂に始動しました。
「妹さえいればいい。」13巻でアンケートがとられ、見事1位を獲得し、カクヨムに先行掲載されていた(らしい)本作が、満を持してGA文庫から発売されました。
わ~ぱちぱちぱちぱち。
百合もの・日常系ラブコメ・「妹さえ」と同一世界観。
「読みたい!!」がギュッと詰まっていた企画だったので、こうしてシリーズとして発売してくださって、本当に感無量です。
短いシリーズになるとのことですが、目いっぱい楽しみたい。
そして、楽しませてくださると確信を抱けた第1巻でした。
感想です。
平坂先生の日常描写が大好きだ
「妹さえ」の時もそうでしたが、僕はやっぱり平坂先生の書く日常描写が大好きです。
どこまでも現実に則して物事を描き出しているから、キャラクターが実際に存在しているかのような錯覚を覚えやすい。
日常描写と一口に言ってもメディアによって強みがあると思うのです。
漫画では、背景かな。
緻密で写実的なタッチで背景がしっかりと描きこまれていると、二次元のキャラがまるで三次元に存在しているかのような気になります。
アニメでは、動きの芝居でしょうか。
絵を動かすと言っても、例えば人間の筋肉や関節がどう動くのかを知っていないと動かせません。
現実の動き方に忠実に動かせば動かすほど、生きてるように見えます。
では、小説ではどうかな。
他はどうか分かりませんが、平坂先生は、料理にこだわる。
とはいえレシピ本ほど仔細に書かれてるわけじゃありません。
けれども、料理が出来上がるまでの工程を略さずに書いたり、食卓に載った品を一品一品紹介したり。
漫画やアニメではまずやらない、小説の強みである情報量の多さを活かして「書かなくても問題ないことをちゃんと書く」。
今回もローストビーフを作るだけで1ページ近くの分量を割いています。
じっくりと丹念に書かれてるからこそ、読んでるこっちまで食べたくなってくるし、それを「美味しい~」と頬を蕩けさせて食べるキャラクターにも血が通っているように思えてくるんですよね。
その他にも、実在する地名や駅、施設などを出すことで、あたかも僕らと同じ時代・同じ世界に生きているかのように思わせてくれるんです。
旅行に行けば、実在の観光地ではしゃぎ、その地の名物料理に舌鼓を打ち、地酒で酩酊する。
ムラムラすれば1人で慰めるし、眠ければ寝て、遊びたいときに全力で遊ぶ。
人としての当たり前の営みを包み隠さずにあけっぴろげで書かれていることが特徴なのですよね。
今作では、ラノベ作家の優佳理と女子高生の愛結の「何気ない日常」を淡々と描いている「だけ」です。
本当にそれだけ。
こう書くとdisってるように捉えられるかもですが、そうではありません。
だって、日常系と分かっていて手に取ったのに、中身がバトルしてたり、殺人に巻き込まれていたら嫌じゃないですか。
「よつばと!」に派手さを求めないように、平坂先生の日常系に異世界は求めてないのです。
どこまでもこの世界に生きるキャラクターの日常が見たいのです。
その期待通りに、美味しいものを食べて、釣りをしたり買い物をしたり遊んで、時には旅行に行って。
普通に生きているキャラクターが見れて大満足でした。
記号に頼らないキャラ立て
平坂先生は本当にキャラクターの引き出しが多いよなぁと常々感じていたのですが、その理由までは考えたことが無かったのです。
けど、今作を読んで、僕なりの答えが出ました。
記号的な性格に頼ってないんだ。
いや、正確に言えば「妹さえ」と今作は、違う。
その前の「はがない」は記号を使ってキャラクターメイクされていましたから。
その「はがない」で通り一遍の記号は使い果たしたので、キャラの立て方を意識的に変えたのかもしれないと言うのは考えすぎかしら。
兎も角、記号は極力省かれています。
まぁ、「妹さえ」にも変態的妹好きラノベ作家や変態的尻フェチイラストレーターや変態パンツフェチ漫画家など記号(?)使ったキャラはいましたけれど。
特に今回は登場人物が少ないとはいえ、徹底的に記号は排されていたかな。
分かりやすいキャラ付けよりも、日常の何気ない描写からキャラクターを立てるようにされていたと感じました。
故に愛結はこういう子とか端的には書けないし、そこまでまだ把握しきってないけれど、少しずつ少しずつ彼女達を理解できていくのでしょう。
で、気づいたら大好きになっているというパターンかな。
終わりに
字の文が独特でした。
三人称の神視点なのに、優佳理に寄った書き方と愛結や京に寄った書き方の2通りを使い分けていました。
これは恐らく意図的に変えてますね。
愛結や京に寄った字の文だと、優佳理のことをペンネームの「ヒカリ」呼びで統一していて、決して本名は使っていません。
多分ですが、優佳理と他者の関係性の違いを表してるんだと思うのです。
愛結も京も優佳理にとっては「仕事仲間」としての立ち位置だから、ペンネームになっている。
優佳理は、自分自身のことだから本名。
じゃあ、優佳理の家族が出てきた場合はどうなるのか。
憶測でしか無いですけれど、やっぱり本名ではない気がします。
「妹」とか「娘」という単語で優佳理を表現するんじゃないかな。
(今後も出てきそうも無いので、答えは出なさそうですが)
優佳理って好きは分かっても、愛とか恋を分からないとありました。
家族や愛結ことは好きだけれど、愛じゃない。
だから本名では表現されない。
愛結と付き合うことになったけれど、それでもまだ愛しているのかは分からないという優佳理。
優佳理が愛結を愛することが出来、本当の意味で2人が恋人になったのならば。
その時初めて愛結寄りの字の文で優佳理を「優佳理」と表現するのかなと。
2巻になっても尚、愛結寄りの字の文で優佳理のことをペンネームの方で表現してるのであれば、僕のこの推測は当たらずも遠からずと言えそう。
そこも楽しみにシリーズを追っていきます。