「空の青さを知る人よ」が最高だったので感想を。

この記事は

「空の青さを知る人よ」のネタバレ感想です。

期待通り!!

長井龍雪さん、岡田麿里さん、田中将賀さんの3人でなる「超平和バスターズ」名義の長編アニメーション第3弾。
「あの花」、「ここさけ」に続く秩父3部作ということみたいです。
お話し的な繋がりや世界観の共有は無さげですけれど、ちょこっと不思議な青春劇としての共通項はありますね。

今回は、13年前から現れた青年を主人公として、彼と彼の好きな女性とその妹、そして「現在の自分」の過去と未来を繋ぐ物語。
夢に生きる過去と現実に苦しむ現在が交錯する、ちょっと切なくて、しっかりと心に響く。
非常に素晴らしい映画でした。

ポイントを絞って感想を書きます。

井の中の蛙大海を知らず

これは、中国戦国時代、宋の哲学者である荘子が記した「秋水篇」からの言葉です。
現代日本でも割とポピュラーな言葉ですよね。
意味としては、「見識が狭い」など。
基本的にはネガティブな表現として使われています。

この言葉は、2人の人物をよく表していました。
1人は、相生あおい。
自分が錨となって、あか姉を「大きな塀の中」に縫い留めているんだという思い込みに縛られていました。
幼い頃にあおいとしんのを引き離したことに負い目を感じているのでしょう。
「自分のせいで、あか姉は好きに生きられない」とネガティブな思考に陥っていましたね。
大海…あか姉の本当の気持ちを知らないからこその井の中の蛙があおい。

2人目は、金室慎之介31歳独身。
大きな夢を持って東京へと進出した彼は、一度はソロデビューはしたものの成功には至らなかったのでしょう。
経緯こそ不明ですが、現在では大物演歌歌手の専属ミュージシャンとして生計を立てていました。
彼は、大海に飛び出した蛙さん。
大海に飛び出したからこそ、海の大きさに飲まれてしまった。
その過酷さや辛さに打ちのめされてしまった蛙は、井戸の中に戻ろうと考えていた。
それが慎之介。

さて、この荘子の言葉には続きがあります。
けれど、それは誤解したままの人も多いんじゃないでしょうか。
一般的に続きとされている「されど空の蒼さを知る」は、荘子の言葉ではなく、日本に入ってきてから付け加えられた言葉…らしいです。
当時何故このような続きを付けたのかは不明ですけれど、明るい兆しを見せて終わらせたかったのでしょうね。
井戸の中の蛙は、確かに海の広さは知らないけれど、井戸の中にいるからこそ、そこから覗く空の蒼さを知っている。
一転してポジティブな言葉になってますよね。

今作では、この「続き」を採用し、テーマの「答え」にしてました。
「されど空の蒼さを知る」を表現していたのは、しんのとあかねでしたね。

しんのは、本当に見ていて清々しい程気持ちのいい性格してましたね。
どこまでも真っ直ぐに夢を語って、本音で突っ走る好青年。
大海を知らないからだと言われても、だからなんだと突っぱねる強さと信念があります。
現実と言う名の「大海」なんて知らないけれど、夢に向かって突き進むんだという「空の蒼さ」を訴える。

一方のあかねは、本当に妹が大好きなんだと伝わってくるんですよ。
あのノートもそうですけれど、象徴的に使われていたのはおにぎり。
あかねにとって妹が一番なのは、両親が亡くなったからではない。
両親健在の頃から、おにぎりの具には、あおいの大好きな昆布一択。
だから、あかねにとって、あおいの為に生きるのは苦でもなんでもないし、「自分のやりたいこと」であると。
そもそも大海(東京)なんて興味が無かったのでしょう。
それよりも彼女にとって、妹という「空の蒼さ」が愛おしかった。
ただ、それとは別にしんののことを好きだったのも確かなので、その辺の辛さは抱えていたのでしょうけれども。

しんのと慎之介、2人が交差するとき、物語は始まる!!
しんのに感化され、あおいは空の蒼さ(姉が好きだという気持ちかな)を知り、慎之介は大海(東京)でもがき続けることを選んだ。
エピローグで高校を卒業したあおいは、東京に出ずに秩父に留まったように見受けられました。
姉から離れるのではなく、姉と共に暮らしていくという道を選んだ確かな証左なのかなと。

荘子の言葉とそれに続く言葉。
それを巧みに物語の骨子にして、非常に分かりやすく、そして心に残る素敵な物語になっていて、いたく感動いたしました。

主題歌とクライマックス

長井監督と言えば、クライマックスで主題歌を掛けるのが定番の演出の1つになっています。
個人的にもテンション上がるので、大好きな演出なのですけれど、しっかりと意味のある使い方になってないと台無しにもなるんです。

クライマックスと言えば、物語が一番盛り上がる時。
多くの場合、語られてきたテーマが集約される個所でもあります。
そんな大事なシーンで、テーマに合った歌。
文字通りの「主題」歌が流れないと、相乗効果は得られません。
演出としての意図が半分以上失われると言ってもいいくらいです。

ただ、そこは長井監督。
そんな愚行は犯さない監督さんというのが、僕の認識。

例えば、「とある科学の超電磁砲」シリーズの主題歌は4曲あります。
「only my railgun」、「LEVEL5-judgelight-」、「sister’s noise」、「eternal reality」(4曲ともfripSideの楽曲)は全て作品の為に書き下ろされたもの。
きちっと主題歌として機能していたので、4曲ともクライマックスの劇中歌として使用されていましたが、非常に盛り上がるシーンに仕上がっていました。

「超平和バスターズ」括りで言えば、「あの花」(2011年)のEND主題歌である「secret base 〜君がくれたもの〜」。
元々は、2001年に発売されたZONE最大のヒット曲。
アニソンでも無ければ、「あの花」の為に作られた曲でもありません。
けれど、歌詞と作品テーマが一致したことで採用され、だからこそ、めんまが旅立つ瞬間に流れた時により涙腺を刺激してくれたのでしょう。
この歌をあの場面で流すのは、マジで反則過ぎでした。
何度見ても泣ける名シーン。

思い返せば、長井監督はきちっと「主題歌」だからこそ、クライマックスの劇中歌で流しているのかなと。
今回も、同様でした。
しんのがあおいの手を取って、空を飛んだシーンであいみょんさんの「空の青さを知る人よ」が流れました。

あおいの主観で、歌詞を見ていくとスゲェ切ない気持ちになるんですよ。
「空の青さを知る人」は勿論しんののこと。
「青く澄んだ思い出」を「しんのとのあくる日の思い出」と解釈すると、彼と過ごした「もう一度同じ日々を求めている」となって、完全にあおいの気持ちになります。
しんのを好きな気持ちを隠せない…って切ない歌詞に聞こえるのです。
けれど最後にはしんのが知っている空の青さを知りたいと願っている。
劇中では、その願いが届き、あおいは空の青さを知りました。

しっかりと意味のある主題歌の使い方をされていて、見てる僕の気分も高騰しました。

面白かった

今年見たアニメ映画の中で一番好きかもしれない。
それほど良かった。
キャラも皆好きになれたし(特に正嗣良かった。なんならかき氷を経費で喰いまくった団吉に「腹壊しちまえ」と毒吐いてた区役所の上司も好きw)、くすっと笑えるシーンも何度もあった。
ちょっぴり切ないけれど、鑑賞後の気分も晴れやかになれたし、何度も見てみたいと素直に想わせてくれる映画でした。
これはBD買いましょう。

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