この記事は
「スパイ教室」第4巻の感想です。
ネタバレあります。
こんにちは。凡愚です。
唐突に「彼女」は口を開いた。「あぁ、ところで」。
女性らしさを感じない声音。
それどころか最早男のそれは、およそ眼前の「彼女」から発せられたとは思えないもので。
声と共にがらりと纏う雰囲気が変わり、続けて「彼女」はこう呟いた。
「このお遊びには、いつまで付き合えばいい?」
埒外の状況に、一瞬紫蟻は隙を作ってしまい……
…以上が、プロローグの紫蟻と「彼女」の場面を読みつつ、僕の頭の中に作られた「今回の物語の顛末」。
流石クラウス。
撃たれたと思わせての迫真の演技。
敵の懐に潜り込み、隙を突く巧妙な作戦だ。
だがしかし、君の手は散々見てきた。もう騙される僕ではない。
ふふん。
そう何度も騙されるものですかと得意になった僕の鼻は、しかし、当たり前のように折られました。
完全敗北。
徹底的な不正解。
掠りもしない結末に、逆に笑えてきました。
いや~ユカイユカイ。
今回も爽快に騙されちゃった。
時間誤認だったのね。
てっきり、時系列的には、下の通りかと思い込んでました。
(1)白蜘蛛と紫蟻の作戦開始(4巻プロローグ前半)
(2)3巻本編
(3)4巻1章~4章中盤
(4)紫蟻と「彼女」の対話(4巻プロローグ後半、間章)
先に少し未来の話を振って、本編の内容は、そこから過去を振り返るという形式で進行しているものと勝手に構成を組み立ててしまいました。
恐らくこの構成が最もオーソドックスだから。
トリックがあるとしても、「彼女」は女ではなく男の変装という性別誤認だと思い込んじゃったんですよね。
何故そう考えたのか。
偏に「灯」から死者は「まだ」出ないという前提があったから。
故に、致命傷を受けている「彼女」が8人の少女の誰かという選択肢を真っ先に外しました。
怪我を受けたフリをしているということも考えましたが、一流の殺し屋(スパイ)の目を欺くのは不可能と判断。
それ以上に、このシーンには読者を欺くトリックがあると今までの経験から察したからというのが大きかった。
「ディン共和国の若いスパイ」という情報そのものに「嘘」があるはずだ…と。
尚更8人の少女は除外され、残る選択肢は「彼女の正体はクラウス」しかありませんでした。
いやはや、参りました。
ここまで推理して、先を見越したつもりになって読んでいましたので。
どこまで作者の掌の上だったのでしょう。
今回も圧巻のドラマを読ませて頂きました。
もう少し感想を。
8人の個性的な女の子たちが集まって、かしましくない訳がない。
コミカルな会話のキレは巻を重ねるごとに増していってますね。
僕が掘り下げられていく彼女達を好きになっているからというのが1つ。
もう1つは単純に彼女たち自身の中が深まっているからなのかなと。
それだけに冒頭のクラウスへの勝負は、今まで以上に楽しいものでした。
単純に彼女らのスキルが上がっていることが見て取れたこともありますが、文章で読んでいても連携と統率が取れていることが窺えたので。
1人1人の能力と役割をしっかりと作戦に組み込んだ上で、最適な行動を全員が取れている。
案の定逆転負けを食らうお約束の流れも踏襲しつつ、帰りの「反省会」と称した会話の和気あいあい振りを含めて非常に面白かった。
だからこそ、より一層ティアの孤独感が際立ってましたね。
リリィ達がティアを仲間外れにしてた訳ではないと理解しつつ、輪に入れないティアの心境に共感出来ました。
落ち込んでいる時に、このレベルの輪を見せられたら、余計精神的にダメージあるわ。
ちょくちょく3巻の失敗をフラッシュバックしちゃうのも、無理からぬこと。
めちゃんこ楽しい勝負シーンでしたが、7人の結束力とティアの孤独という対比を痛いほど浮き彫りにさせるものでもありましたね。
だからこそクライマックスは燃えましたね。
徹底的に落としつつ、7人からの励ましがありのティアの大活躍。
冒頭から仕掛けられていた叙述トリックも、このクライマックスに向けての伏線だったというのも凄いところでした。
8人の成長が語られ、それ以上にクラウスが成長していたという驚きの事実まで明かされたのだから、第1部を締めるに相応しいエピソードになっていたと感じました。
なんだかんだ紫蟻は強敵でしたしね。
終わりに
僕が読んでいるラノベシリーズの中では、相変わらずトップレベルの構成力。
今回も満足度の高すぎる内容でした。
仕事をさぼってまで読んだ甲斐がありましたね。
次回から第2部。セカンドシーズン。
不穏な気配を匂わされてますが…灯から犠牲者は出さないで欲しい。
この和気あいあいなチームの仲を死で分かつ展開が来ないことを祈りつつ、発売を首を長くして待ちます。