「スパイ教室」第8巻感想 サラの成長を示した詐術に感嘆しました

この記事は

「スパイ教室」第8巻の感想です。
ネタバレあります。

大きな戦いのクライマックス

多大なる犠牲を払った今回の大きな戦い。
遂に、そのクライマックスを迎えます。
物語前半戦最終章。
第8巻の感想です。

サラの成長を示した詐術

8巻にして、ようやく推しのサラの出番となりました。
元々戦闘タイプでは無いですし、作中でも8人の中でスパイとして最も未熟と言われている彼女。
それこそスカッとするようなカタルシスを感じる大活躍を演じるという訳ではありませんでしたが、なるほど、彼女ならではの活躍を見せてくれました。

一番は語るまでもなく、作戦の根幹をなしたバーナード氏のトリック。
動物を人間と誤認させる有名な叙述トリックが今回用いられていましたが、当たり前ですが「騙す相手」は読者です。
だからこそ平気で動物が作中で喋っていたりするので、そういうところがミステリファンの間で好き嫌いの分かれるところなのだろうなと思うのです。
ちなみに僕は苦手な方。
叙述トリックってあまり好きになれない。
けどね、この作品は違うんだよね。

これまでも多くの叙述トリックがありましたけれど、「騙す対象」が読者もそうですが、必ず作中の登場人物だからというのが大きいのでしょう。
敵を欺くために仕掛けられているから、ある意味敵と同じ立場になって驚かされてしまうのです。
1巻なんてその最たるもの。
読者視点の物語が、「盗聴」という方法で敵にも筒抜けになっていた。
故に、読者も敵と一緒に騙されているという構図になっていたし、「叙述トリックの仕掛けられた意図」が明確になっていたんですよ。

例えば密室トリックで考えると、僕の言わんとしているところが伝わってくれるんじゃないかな。
密室トリックってミステリの花形トリックとも言われているけれど、実のところ犯人にとっては然程メリットの無いトリックとも言われています。
「被害者を自殺に見せかける」程度の意味合いしか持たせられないからですね。
「どこからどう見ても他殺の状況では、密室にする意図が無い」と言われていて、「無意味な密室トリックの用いられたミステリ」ってあまり評価されてないと思うのですよ。
「密室にした意味が無い」と読者に思わせちゃうだけで評価が下がっちゃう。
逆に言えば、「密室にせざるを得ない合理的な理由」がある作品の評価は高くなる傾向があるのかなと。

作品の評価なんてそんな単純に下されるものでは無いけれど、何が言いたいのかと言うと、「意図があったトリック」の方が俄然面白いということ。

今回も同様ですね。
白蜘蛛を騙すために仕掛けられていた。
故につまらないとは思いませんでした。
まぁ、一部、読者を騙すためだけのシーンもありました(プロローグの「炯眼」の回想シーン)が、許容範囲かな。
ここでバーナード氏が人語を話してたりしたら「おいおい」と思ってたかもですが、クラウスに対しては無言だったしね。
頷きくらいはするでしょう。調教された鷹なのだから。

とまぁ、この叙述トリック”だけ”だったら、ここまでの満足感は得られなかったかなと。
偶然を利用した「『鳳』復活」の搦手が大きかった。
サラが思いついた自分の仲間達を使ったトリック。
「動物たちの起こした出来事を生きていた『鳳』だと思わせる」。
僕のような「ハッピーエンド至上主義」派は、まんまと「マジで『鳳』生きてたんでは?」なんて期待しちゃいましたけれど、白蜘蛛からすれば「騙されるわけがない」のは確かに。
故に看破されるのは当然で、けれど、それを見越しての作戦だったとはね。

動物を使った詐術を見破らせたことで、「炯眼」の正体も動物であるという真相から目を背けさせた。
上手い作戦だよね。

それと同時に、サラの成長も魅せてるところが流石すぎですよ。
5巻でサラが披露した詐術を、モニカがこう切り捨ててました。

自分を囮にするなんて論外だ

と。

今回の詐術は、動物を囮にして、真相(動物)を隠すというもの。
師匠であるモニカの評価をしっかりと受け止めた上での詐術。

サラの成長をもしっかりと示しているから、非常に満足感の高い「騙し」になっていました。

極悪アネット

もう1つ好きなシーンは、やっぱりここだよね。
サラとアネット。
このシーンは外せません。

前回モニカによって曝け出されたアネットの本性。
強い殺人衝動…というのではなく、殺人や暴力を「是」と捉える常人とは相いれない価値観。
僕からすると立派な狂人のミーネすら、アネットの本性に理解を示さず「モノ」扱いしてましたけれど、サラもアプローチが似てて苦笑いw

でも、似て非なるものだよね。
ミーネからするとアネットは良くて「理解できない頭のイカれた女」で、実際はもっと酷くて「無機物と同等」の感覚だったんじゃないでしょうか。
人間とは見做してなかった気がします。

対してサラは、同じく人間と見做してなくても、「動物」と同等に捉えていました。
人によってはこれも十分酷い扱いと言えるのですけれど、動物を等しく愛するサラにとっては「人間扱いと同等」なんですよね。
「何言ってるか分かんないけれど、躾ければ大丈夫」って感じなので、やっぱり考えようによっては酷いかもだけれどねw

それでも、サラだからこそ、いや、サラにしか成し得ない解決方法で、サラのキャラクターを十分に表現されているし、かつ、アネットの問題の解決方法としても納得いくもので非常に面白く読めました。

今後サラの「調教」によって、アネットがどう変わっていくのか。
新しい楽しみも増えました。

百合百合してほしい、いつまでも

リリィって言葉で真っ先に連想するのが「百合の花」なんだよね。
つまりはさ、元々リリィは女性とくっつくのが既定路線だったんだと思うのよ。

モニカの告白を受け入れて、末永く幸せになって欲しい。

最後に。
サラの引退後の夢が死亡フラグにしか思えないのは、考えすぎですか?
死ぬのだけは勘弁してほしいです。マジで。

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