この記事は
「サマータイムレンダ」の感想です。
ネタバレあります。
はじめに
「サマータイムレンダ」ご存知ですか?
「ジャンプ+」で連載中の漫画です。
作者は田中靖規先生。
「ジョジョ」の荒木飛呂彦先生を師に持ち、元アシスタントに「ヒロアカ」の堀越耕平先生。
師匠譲りのサスペンス描写の巧みさに加え、堀越先生を弟子に持つほどの確かな画力を有する。
今一番面白いサスペンス漫画です。
今回はこの漫画の記事です。
尚、3巻までのネタバレを有します。
漫画の性質上、特にネタバレ厳禁な為、その辺ご留意ください。
購入動機
購入動機は2巻の表紙でした。
好みド直球な美少女に目を奪われたのです。
浴衣で寝転がってるほうが小舟澪。
本作の「お姫様」です。
本編開始時既に亡くなっている小舟潮(メインヒロイン)の実妹。
クール系もおっとり系も可愛い子は可愛い。
けれど、僕は元気いっぱい系な女の子が一番好きなのかもしれない。
肩上で揃えられた短めのボブカットは、動く時に邪魔にならない程度の長さに調節しているから。
夏の日差しを浴びて全身万遍なく日焼けした小麦色の肌は、それだけで太陽の下を駆けずり回る様子を想起させてくれる。
元気を絵に描いたような姿(髪型に関してはイメージ)で、見惚れてしまったのです。
もうこれだけで「かわええ!!」ってなりました。
そうして、本作を知った僕は、1巻を探しました。
「知らない漫画」の情報集めの方策その1。1巻の帯を見る。
僕が子供の頃は、帯は一部のコミックスにしか付けられていませんでした。
売れてる漫画、売り出したい漫画。
そういった一部のコミックスにしか付いてなかったのです。
だから、「帯が付いている」ことが一種のステータスになっていました。
しかし、近年はほぼ全てのコミックスに帯が付けられ、帯は「販促の役割」を増大させてきた嫌いがあります。
特に1巻は、その漫画のセールスポイントが大々的に付けられることが多いですので、漫画を知るには格好の材料になっています。
では、「サマータイムレンダ」はどうか。
今勢いのある人気漫画の作者の推薦文。
定番の手法の1つですが、購買意欲をそそる力は十分にあります。
あの「ヒロアカ」の堀越先生が絶賛してる。
これだけで小学生、中学生に響くものがありそうです。
しかもダメ押しで「師匠、最高です。」なんて書かれてる。
面白い漫画を描く先生の師匠が描く漫画⇒「弟子より師の方が上」という方程式⇒「ヒロアカ」より面白い!?
フィクションじゃないし、アシより師の方が面白い漫画を描くという訳では必ずしも無いので強引な論法ですが、小学生が連想しそうではあります。
まぁ、食いつき良さそうですよね。
少なくとも僕は釣れましたw
堀越先生は「逢魔ヶ刻動物園」から応援してる作家です。
氏が絶賛してるんですから、「騙されても良い」ってなりました。
そうして読み始めた訳ですが、これが予想を大きく上回る面白さだったんです。
ループものの欠点
この漫画を一言で表すのならば同じく1巻帯から拝借して「ひと夏の離島サスペンス」です。
影と呼ばれる謎の存在が巣食う離島を舞台に、影から澪を守るべく網代慎平が「何度も同じ日を繰り返しながら」奮闘する物語です。
そう。
所謂「ループもの」です。
やはり相性が良いのでしょうね。
サスペンスとループというのは。
訪れてしまった最悪の結末をやり直す事で、少しずつ少しずつ歴史を変えて、活路を見出すという構造になるので、自然と緊張感と(ループを突破した時の)爽快感が出ます。
「主人公が死ぬ」なんて描写はドラゴンボールでも無い限り基本的には使えないシーンですが、そのような「1回限りの衝撃展開」を唐突に描けることが強みです。
あっさりと慎平や澪が殺されてしまうので、先の展開が良い意味で読めないんですよね。
ループを突破しそうな展開になっても、簡単に死というバッドエンドが訪れる可能性を秘めているし、そういう展開になりやすい。
それを繰り返す事で、「これでもダメなのか」という絶望感をキャラに与えられるし、間接的に読者をも闇の底に叩き落せる。
サスペンス特有の絶望さを描くには、ループというのは相性が良いのです。
また、絶望を大きく出来るので、反面、それを乗り越えた時の爽快感も大きくなります。
これもまたループを取り入れたことで生み出される効果でしょう。
このようにループとサスペンスの愛称はバツグンに良いのですが、しかしながら、安易に多用すると頼みの「緊張感」を蔑ろにしてしまう恐れをも含んでいます。
どのような絶望的な状況に追いやっても読者に「どうせやり直せるんでしょ」と思わせてしまうと終わりなのです。
これがサスペンスとループを絡めた時の最大の欠点では無いでしょうか。
欠点の克服方法
だけれど、この漫画はその辺のフォローは抜かりありません。
ちゃ~んと緊張感を失わないように出来ているんです。
先ず、回数が制限されていること。
ループを可能としている「おかあさまの右目」。
ハイネ、母。
そう呼ばれる謎の存在を復活させる事が影の野望なのか?
この辺りの謎は何れ説かれる事として、母と呼ばれる存在の「失われた右目」が、今は慎平の右目として現存していて。
その目の力で、慎平は7月22日をループしている訳ですが、目の力には限度があると明言されています。
しかも、その回数が不明と来ている。
何度やり直せるか分からない。
これは恐怖です。
コンテニューの回数が分かっていれば、「捨て回」を作れますよね。
この回は捨てて、次回突破できればいいやと考えて、死を恐れない無茶をして打開策を講じれる。
けれど、それは出来ません。
今回で最後かもしれないから。二度とループできないかもだから。
慎平が捨て回を作れない事は、緊張感を持続させます。
だけれど、これでも弱いと思う読者はいるかもですので、追い打ち設定があります。
「ループする度に、セーブポイントが後ろにずれていく」という点。
1回目のループでは、0時0分に戻ったのに、2回目は0時30分だった…みたいな感じ。
0時0分に戻れていれば助けられた命も、助けられなくなってしまう。
なにもかもやり直す事が出来ない。
緊張感を持続する上で、大きな大きな設定ですよね。
これらの「設定」を慎平は3回殺された後の3回目のループで気付くのです。
まだ絶望的なやり直しのきかない状況には陥っていない。
けれど、本当にそうなのか?
疑心は募るのです。
本当に希望は見えてるのだろうか?
2巻までをプロローグとするなら、慎平の奮闘は3巻から本格的な幕開けとなります。
既に3度命を奪われ、3回目のループとなった。
得られた情報も多く、整理しながら、慎重にことを運ぶ慎平。
その甲斐あってか、強力な味方を得ることに成功し、目下最大の強敵と対峙、見事討ち果たせた。
順調に進み、なんとなくですが、これが「最後のループ」になりそうな。
そんな予感めいたものが見え始めています。
遂に影を追いつめ、黒幕の正体に迫れるのかもしれない。
けれど、本当にそうなのか?
慎平は2度目のループで最大の協力者「南雲竜之介」に助けられます。
彼女から信頼を得た慎平は、「次のループで必ず助ける」という言質を取ります。
3度目のループ。
慎平は始めて南雲先生を探すのですね。
「巨乳眼鏡の姉ちゃん、見なかったか?」と。
これまでのループでは取って来なかった行動を起こす事で、彼はようやく最大の協力者を得ることに成功したのです。
今まではほぼほぼ1人で駆けずり回って失敗を繰り返してきたので、彼女の存在は非常に心強いです。
影の弱点を知ってるし、倒せる確かな戦闘力を有している。
常識に囚われない柔軟な発想と理論的に構築する頭脳も持っている。
勝ったなガハハってなりそうです。
けれど、本当にそうなのか?
1話にあった何気ない謎
ループものは繰り返し読み直す事で新しい発見があるのが面白い所ですよね。
緻密に組み上げられた物語程、序盤に張られた伏線に気づけて、新鮮な気持ちで読み返せます。
本作もそうなんですよね。
まだまだ「これあの伏線だったんだ!!」ってことは少ないんですが、読み返すたびに新しい発見があって面白いです。
そんな中で気付いた第1話の何気ない会話がこちら。
この時慎平は1回もループしてません。
文字通り最初の7月22日です。(このシーンの日付は7月23日)
3度目のループ。
つまり4回目の7月22日に初めて巨乳眼鏡姉ちゃんを探し回ったのに、1回目の7月22日に慎平が探し回っていた事になっている。
勿論、慎平はそんな行動を起こしてません。
では、問題です。
慎平は本当は何回ループしてるのでしょうか?*1
黒幕の正体も謎ですが、恐らくここが本作最大の謎。
そして、ループ突破の鍵が隠されているのではないかと睨んでおります。
終わりに
本当に本当の最初の周回だったらば、潮を助けられたのではないか?
もし、潮を助けられた可能性が示唆されたのならば…。
慎平を襲う最大最悪の絶望ですよね。
「まだ取り返しのつかないことは起きていない」というのが勘違いだったらば、彼は心が折れてしまうかもしれません。
そんなどん底の闇が近い将来訪れそうな気がして、気が気じゃありません。
非常に面白くも切ないループものサスペンス。
今後も必見です。
*1:尚、慎平の影が探していた可能性が微レ存。嘘です。多分これが正解です。書き終ってから気づきました汗