「探偵くんと鋭い山田さん」の布教をしたいのでレビュー書きます。

この記事は

「探偵くんと鋭い山田さん」の感想です。
ネタバレあります。

はじめに

「お前のブログに布教出来るほどの価値はあるのかよ」と問われれば、僕はきっぱりと「No」と言います。
いや、ごくまれに聖人のような読者様が僕のブログ記事を機に作品に手を出してくださるのですが、年に1,2度あるかないかです。
(「ライアー・ライアー」でごくまれが起こりました。ありがとうございます。)
先刻の「全記事URL強制変更」のお陰でPV数も300行くか行かないかという程度まで下がってしまい、今後も望めないのですけれど、それでも書きたいんだ!!布教したいんだ!!
ということで、「探偵くんと鋭い山田さん」の記事書きます。

だって、あとがきで「続きは出るかどうか不明」、つまりは「1巻の売上次第」って話だから。
1人でも多くの方に購入していただければ、僕が続きを読める。
続きが読みたい。
故に拙かろうと、影響力が無かろうと感想を書く。

はじめます。
(ミステリとしてのネタバレはしませんが、内容には触れています。ご了承ください。)

ミステリとラノベの相性は悪いと思う

ノックスの十戒やヴァン・ダインの二十則が作中に出てきますが、ここまで厳密にミステリのルールを守っていなくとも、所謂「本格」を目指すほどにミステリというのはパズル染みていきます。
謎解きに必要な要素だけが抽出され、それをもとに舞台設定や人物設定、小道具に至るまで計算の上配置されます。
ここに読者の目線を逸らす為の偽の手がかりをほんの少し混ぜ合わせて、ミステリ小説の骨子が出来上がる訳です。
つまるところ、キャラクターを見せるというよりもトリックや謎解きを魅せることに主眼が置かれがちなのが、ミステリという特殊なジャンルの傾向だと思うのです。

この点、ラノベとの相性が悪いんですよね。
ラノベや、漫画もそうかな。
キャラクターというのはやっぱり重要な要素で、魅力的なキャラクターが紙面狭しと動き回ってる方が絶対的に楽しいのです。
魅力的なキャラクターを創造するには、どうしてもバックボーンとなるエピソードやアイデンティティを持たせる必要が出てきます。
その描写に紙幅を費やすと、しかし、ミステリとしては「不必要な描写」となってしまう恐れがあって…。

ミステリとラノベの相性は、ほとほと悪いんだろうなと想像してしまうのです。

が、世の中、僕の浅薄さを嘲笑うが如く、キャラの立った本格ミステリなんて山のようにあります。
古典で言えば、名探偵シャーロック・ホームズから始まり、エルキュール・ポワロ、エラリー・クイーンなどなど。
日本に目を転じても、金田一耕助、明智小五郎など枚挙に暇がありません。

近年では、東川篤哉先生の作品とか好きなんですよね。
特に烏賊川市シリーズなんて、キャラの面白さと本格ミステリが融合された傑作です。

漫画でも「名探偵コナン」を筆頭に、いくらでも例を挙げられますね。

さて本作の話になります。
ラノベでミステリ。
この先、成功例として挙げられる作品になるかどうか。
僕としては、挙げていきたい作品なのです。(だからこそシリーズ化をして欲しくてですね)
何故ならば、キャラもミステリも両立しているから。

キャラについて

この作品のメインキャラクターは3人だけです。
少数精鋭です。

先ずは主人公の戸村和(とむら なぎ)。
「和」と書いて「なぎ」って読ませるのは、珍しい。
1巻のサブタイトルの「俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくる」からも想像できるように彼は、基本的には探偵役ではありません。
主人公だし、依頼人たちからは「探偵」と思われていますが、彼はどちらかといえば探偵助手ですね。
何気ない言葉で探偵にヒントを与えたり、話を聞くことで探偵の考えの整理を促したり。
地味だけれど、探偵には必要な相棒ポジションです。

彼には、2人の姉がおり、姉に対するとある後悔から「2人の探偵の助手役」を自然とこなす必然性があったりします。
劇的過ぎず・どこか実際にありそうな境遇が、重すぎず軽すぎずな絶妙な加減で描写されていて、戸村という少年のキャラ性をしっかりと立たせてあります。

続きまして探偵役兼メインヒロインの山田姉妹。
姉の雨恵(あまえ)は、適当な女の子。
勉強も人間関係も人生設計まで適当。
隙あらば寝る彼女は、一度興味が湧けば、自由な発想から推理を展開し真実を浮かび上がらせる天才肌。
今作の「名探偵」を張る女の子です。

妹の雪音は、姉とは異なるしっかり者の委員長さん。
ただ、やはり姉とは反対に対人コミュニケーションが苦手。
そんな彼女は、姉の持ち得ない広範な知識で雨恵の推理の補強をする役目。
雪音自身は推理をするわけでは無いものの、探偵に無い能力を有して、「事件」解決に寄与しています。

全く正反対に描写される双子探偵ですが、実のところ…というのがあって、ラストに大きくキャラの肉付けがなされています。
それまでは描き分けこそ出来ていたものの、戸村視点の描写しか無かった為、ひどく表層的な面しか見えてなかったんですよ。
「ラブコメのメインヒロイン」としては、正直弱さを覚えていたものの、ラストでいっきにひっくり返りましたね。
彼女たち姉妹に関しては、まだまだ掘り下げられると思っておりますので、それを今後楽しみたいんです。
その為には、シリーズ化が必須でありまして…

ミステリについて

今作は所謂「日常ミステリ」の守備範囲ですね。
殺人事件とか警察沙汰になるような事件はありません。
けれど、どれもこれもミステリとして非常に興味深かったのです。

1巻で描かれた事件は3つありました。

1つ目の事件は、彼氏の浮気を立証して欲しいというもの。
現実の探偵さんのメインのお仕事の1つ「浮気調査」。
高校1年生なのに、そんな案件を強引に任されてしまった戸村くん。
依頼人の「ことの始まり」…じゃなかった、琴ノ橋鞠さん(推定15歳・カーストトップJK)らからもたらされた年上彼ぴっぴの「浮気相手」は3人。
高校生の戸村くんには荷が勝ちすぎる依頼に何気なく山田姉妹が絡んでくるというもの。

「こういうことかな」という答えが見えて、そこに向かってお話が進んでいくのですが、雨恵の推理は見事なものでしたね。
少ない手がかりから論理的に導かれる結論には、納得しかありませんでした。
最初の事件という事で、3人の関係性が端的に描かれている点も良かったです。

続いて2つ目の事件の依頼人は津木くん(笑
名前が安直で笑ってしまいましたが、こういうの好きよw
さて、彼の依頼は、「表紙カバーしかないミステリ小説の犯人を当てて欲しい」という無茶ぶりでした。
ミステリのテーマとして、そそられませんか?
僕は大いに興味をひかれました。
中身の無い本の犯人あてをして欲しいなんて前代未聞に思えたのですよ。
そんなこと出来たら凄すぎるでしょって。
解決編で津木くんが「なんで判ったの!?」と驚いてましたけれど、そうなるよね(笑

いや、本当に見事なロジックでした。
滅茶滅茶少ない情報から「恐らく犯人と思われる人物」を絞り込んだ手際は惚れ惚れします。

最後3つ目は「絵画にナイフを突き立てた犯人捜し」。
いっきに事件性を帯びてきましたが、オチは「真相を暴いて、誰かの不安とか誤解を解消する」というテーマに沿ったもの。
一見安直な謎解きでしたが、ちょっとしたツイストを利かせていて、面白みを付加してありました。
この事件はキャラ描写の為というニュアンスがあったものの、ミステリとしても工夫が施されていたのが好印象。

ツイスト (出典
評論家のサザランド・スコットが「現代推理小説の歩み」で多用している言葉で、「ひねり」という意味。
すなわち推理小説の面白さは不可解な謎の提出にはじまり、中盤のサスペンスに富むストーリー展開、そして結末の意外性といった各要素に支えられていますが、数多くの作品に触れるに従ってそういったミステリーの形式に次第に慣れた読者は、途中で犯人や結末をある程度予測するようになってしまいます。
そしてそういうすれっからしの読者の予想を覆すべくストーリー展開や犯人の設定をひと捻りして、新鮮な驚きを感じさせる手法をこう呼びます。

個人的なベストはやはり2つ目の事件ですね。
カバーから犯人当てをするという奇想天外な発想が本当にユニーク。
普通に考えると雪音の言うように邪道でしか無いし、ミステリの楽しみ方としても無しなんだけれど、ミステリ小説の謎としてはアリ。
しかもきちんと納得のいく論理があるのだから、否定なぞ出来ませんって。

ミステリは殺人ミステリしか認めないという偏屈な僕ですが、このレベルの日常ミステリを提供されたら、もう「面白かった」と諸手を挙げるしかありませんよ。

まとめ

買ってください(直球)

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