この記事は
「探偵くんと鋭い山田さん」第2巻の感想です。
ネタバレあります。
はじめに
上質なライトミステリとして読みごたえがあり、かつ、ライトノベルとしての軽妙なラブコメとしても楽しめる。
非常に贅沢なシリーズとなってきたという印象を持ったと同時に、早々に物語を左右するほどの重大な局面にも差し掛かったのかもしれないと感じました。
第2巻の感想です。
主人公・和はミステリとしてとっても大事な存在
もしかしたら、1巻の感想でも触れたかもしれませんが、今作はメイントリオのバランスが非常に優れています。
「謎を解くこと」にのみ興味を持ち、類稀なる発想力と柔軟な思考で難解な謎を解き明かす「探偵としての枢軸」である山田雨恵。
奔放で自堕落な姉には無い豊富で多彩な知識を持って、理論的に謎に挑む山田雪音。
雨恵を中心として、山田姉妹が謎解きのメインを張りつつ、主人公の戸村和も無くてはならないポジションに立っています。
ミステリを無味乾燥なパズルとは一線を画す要素の1つとして、犯行動機のドラマがあります。
今作は刑事事件にならないライトなミステリを扱っているから「犯行動機」とするには語弊がありますが、まぁ、動機のドラマは今作でも大切なエッセンスとなっています。
ちょいと特殊な(それでいてごくあり触れたとも言える)家庭環境で育った和は、人の感情の機微に敏いところがあります。
その「能力」を用いつつ僅かな情報から「犯人」の内実に触れていくスタイルは、山田姉妹には真似出来ない部分。
特に「動機に興味がない」雨恵には決定的に欠けている能力である為に、和の能力は、ミステリを構成する上で必要不可欠なものといえます。
2巻では、そうした和の重要性が改めて浮き彫りになっていました。
特に第5話では、彼が見事に動機を類推して、事件を無事円満な形に収めることに一役買っていました。
面白いミステリって、きちんと動機まで推理出来ることが多いのですけれど、この5話は見事に「推理だけで犯行動機に辿り着ける」ことを証明しているんですよね。
「容疑者」3人が残した「被害者が書いた小説に対する批評文」。
これと被害者自身の証言だけで、誰が犯人なのか、何故犯行に及んだのかを見事に解き明かす様は、秀逸なミステリだと思いました。
ただ、僕が本当に面白いなと思ったのは、この先です。
和の能力は、彼が望まない「探偵の嫌な面」に直接関係してきているというところです。
「和の懊悩に迫るドラマ」への期待
探偵は、人の秘密に土足で踏み込むようなもの。
作中の言葉を借りるのであれば
埋められていた悪いものを掘り出して吊し上げにするような
こと。
今作の探偵って、古今東西の探偵たちと同じような「殺人事件を解決する名探偵」とかではなくて。
捜査権を持たない、現実に即した探偵。
ま、犯罪には関われないからこそ、「敢えてほじくり返す必要のないことを暴く因果な商売」として描かれています。
というか、少なくとも和の視点ではそういう職業。
だからこそ彼は、そういう探偵にはなりたくない、ならないことを戒めとしているのに、5話では「過去に起こった窃盗事件」に関わってしまった。
被害者が犯人を糾弾する気もなければ、荒立てるつもりもないからこそ、それ故に「埋められていた悪いものを掘り出して~」という表現にピッタリな「事件」でした。
和にとっては非常にグレイゾーンとなった「事件」。
この時は、被害者であり依頼人である先生の言葉に救われる形になったものの、続く「第6の事件」は、さらにエスカレート。
どこまでが本当のことだったのかは定かではないものの、「人の死(自死)」が関わったメッチャナイーブなエピソードでした。
和としては、「探偵」になりたくないのに、彼の能力は雄弁に「探偵としての素質」を語っていて、しかも悪いことにどんどんと舞い込む事件がエスカレートしていっている。
だからこその分岐点。
まだ「日常の謎解き」の範疇に留まっているけれど、第5、第6話と少しずつその枠からはみ出してきている。
このままいっきに枠外に出て「殺人ミステリ」にまで発展してしまい、和の懊悩に迫るドラマとなるのか。
はたまた、「日常」に留まれるのか。
第3巻以降は、どっちにも振り切れるような形のまま続いたような気がしたのです。
個人的には、彼の懊悩は今作の面白味の1つに数えています。
さらに踏み込んでいって欲しいというのが本音。
ただし、殺人とか絡むとどうしても毛色が変わってしまうので、刑事事件にまでは発展しない、されど、日常からは外れた絶妙なバランスの事件に巻き込まれて欲しいなと。
とてつもなく勝手な要望を持っていたりします。
なんにせよ、もしもの時は雪音が線を見込まないように待ったをかけてくれるんじゃないかな。
6話で実際にそうしたように。
それを機に和と雪音が接近して、雨恵がジェラって…。
あぁ妄想が捗る(笑
ミステリとドラマとラブコメと。
3つの要素が複雑に絡みあっているからこそ、先が楽しみで仕方ありませんね。
僕はミステリにはうるさい
通を気取れるほど読み込んでいるわけでも無いし、造詣が深いわけでも無いんですけれど、僕はミステリになると好き嫌いがはっきりと出ます。
つまらないものはつまらないと言っちゃう質なのです。
だから、嘘偽りなく、今作は1つのミステリとしても面白い。
ライトミステリって基本的には好きになれないのですけれど、謎の見せ方が上手くて、引きずり込まれちゃうんですよね。
今回の3本のお話は、どれも実のところ途中で朧気ながらも真相に到達出来ました。
けど、イコールつまらないとならなかったのは、謎の見せ方が上手いこと(簡単な真相を複雑怪奇に思わせる見せ方)もそうだし、解決に至るまでの展開に工夫を施していたり、細部まで練りこまれているから。
4話の1つの思い付きから、ドミノ式に全ての謎が解けるロジックも鮮やかだったし。
5話の動機の推理もそう。
6話では、主人公のドラマに関わらせる自然な展開が上手いなぁと唸らされました。
つまり、上質なライトミステリであるなと。
それだけではなく、ラノベ特有のキャラの面白味や美少女の可愛さとラブコメの楽しさを内在している。
つまりつまり、上質なライトノベルのライトミステリである。
てなわけで、記事タイトルは「上質なライノベルミステリ」となりました。
強力にお勧めしたいシリーズ。
次も期待してお待ちしています。