「たとえとどかぬ糸だとしても」切なすぎる恋愛劇がスゲエ!!

タイトルから切ないよ

タイトルの中の糸とは、運命の糸のことでしょうか。
運命の赤い糸は、決して手が届かないと自覚している。
けれど、諦めきれない。
…タイトルからして既に切ない。

これは少女の決して報われない初恋のお話。
兄と結婚した幼馴染のお姉さんに恋をした女の子の物語です。
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「たとえとどかぬ糸だとしても」の感想になります。
2巻までのネタバレがありますので、ご留意願います!!

2つの障害

主人公はウタちゃん。
女子高生。
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彼女が好きになったのが、薫瑠さん。
ウタの兄と結婚して1年が経ちました。
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ウタの友達のクロちゃん。
とってもやさぐれて、素敵に歪んでる女の子。
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2巻までのメインキャラクターはこんな感じです。
え?
ウタの兄ちゃんで、薫瑠さんの夫???
誰だっけ?

…まぁ、冗談です。
ちょっと今回蚊帳の外で。
彼が本格的に物語に絡むのは3巻からかな。
2巻ラストでとんでもない波風立てていきましたけれど。
この野郎とか思いましたけれど。
取り敢えず今回の感想では触れないで行きます。

薫瑠さんに恋するウタちゃん。
彼女の恋の前には2つの障害があり、故に、彼女は恋を諦めています。

1つ目の障害。
結婚してるということ。

ウタが薫瑠にいつから恋したのか、それは本人にすら分からない繊細な気持ち。
子供の頃から好きだったけれど、それがどういった感情だったのか正確に把握できていなかったようです。
彼女が自分の気持ちに気づいたのは、最悪のタイミングでした。

結婚式。
兄と薫瑠が結ばれたその日。
晴れの日を迎えたその日、薫瑠がウエディングドレスを身に纏ったその時に気づいちゃいました。
気持ち的にも法律的にも届かなくなってしまった決定的な瞬間に、恋に自覚したウタ。

これは辛い。
まだ「付き合ってる」段階ならば、チャンスを望んだのかもしれません。
2人が別れてしまえばというあらぬ気持ちを抱いたのかも。
ですが、結婚しちゃうと…ねぇ。
別れて…なんて簡単には願えないですよ。
かたや実の兄で、かたや好きなお姉さん。
2人の不幸は、自分の不幸にもなり得ますからね。
大切な人たちだからこそ、別れるなんて不幸な結末を迎えて欲しくないと思うのが普通でしょうし、それはウタもそうなのだと思われます。

恋を自覚した瞬間に、その恋は終わっていた。
ウタの絶望感が伝わってきます。

2つ目の障害は、同性であること。
きっとウタの中には「異性同士が付き合ったり、結婚する」という「常識」が染みついているのでしょう。
一度根付いた常識を破るには、相応の勇気と決意が必要です。
「本当に好きなら、それくらいの勇気持てるし、障害になんかならない」という考えを持つ方もいるかもしれませんが、誰しもがそういう考えに至れる訳では無いです。
「常識」に飲まれ、もがき苦しんじゃう人間も居て、ウタはそういうタイプ。

これも辛い。
常識なんて…と吹っ切ろうと思っても、なかなかに出来るものじゃありません。
辞書で「常識」を引くと、凄い言葉が出てきます。

健全な一般人が共通に持っている、または持つべき、普通の知識や思慮分別。

「健全な」一般人…。
まるで同性に恋してる人が不健全だとでも言いたげな文言になっちゃいますね。
この解釈はやりすぎにしても、辞書の意味合いから考えても常識を破るという事は、とっても勇気がいる事です。
破った瞬間に他者から白い目で見られちゃう…見られても不思議では無いとなるので。

とっもかく。
2つの障害が、ウタの恋路を阻んでいます。

でも、こういった恋愛における価値観って1つじゃないですよね。
先程も書きましたが、障害とも思わない人だっています。
それを作品内で提示して、それでもウタの恋は成就しないと描くことが、切なさを引き立たせることになります。

恋の切なさを描くことは、この作品にとって大事な要素です。
それこそが作品のテーマになっているので。
故に深堀して、際立たせる事はテーマを浮き彫りにする作業になります。

同性愛についての色々な価値観

さって、そこで、クロちゃんが登場する訳ですよ。
1話で恋についての持論を展開する訳ですが、これがまた「真理!!」って唸っちゃう位恋の核心を突いてるんです。
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少なくともウタの悩む2つの障害を吹っ飛ばすほどの破壊力を秘めています。

恋なんて自分勝手な感情なのだから、他人の作った常識なんて吹っ飛ばせ!!

それが出来ないからウタは悩んでるのに、ドストレートな進言をかますクロちゃん。
言うだけではなく、実行に移します。
ウタの持つ障害の2つ目「同性への恋」をクロちゃんは突破する事になるんです。
この展開はちょっと予想できなかったのでビックリ。
2巻の大半を使って描かれるので、クロちゃんのエピソードの肝がどれだけ作品にとって、ウタの恋にとって大事なのかが分かります。

そう。
恋なんて常識をぶっ飛ばすモノなんですよね。
ウタの周りの恋は、そんな恋で溢れてます。

クロもそうだし、「女の先生とイケナイことしてた」恋夏(こなつ)ちゃんという同級生もそう。
「常識」外の恋愛をしてました。
この恋夏とウタの会話も大事です。
ちょっと抜粋しますね。

恋夏「世間様は普通から外れた人間に対して風当たりがきびしーのだー」
恋夏「でもさ普通の何がそんなにいーのかな。つまらなくない?」
ウタ「そのぶん平和的で気楽には過ごせるんじゃないでしょうか…」

他人の作った常識をぶっ飛ばしている恋夏の考えと常識に囚われているウタの考えがこの会話の中に収斂してます。
どっちが正しいなんてありません。
価値観の違いなのだから。
ただ1つ言えるのは、世間の風当たりの厳しさですね。
常識から外れると、罰を受けちゃう。
恋夏は1年間の停学という罰を受けていて、常識から外れた恋をしても良い訳では無いということが描かれています。

常識から外れた恋の成功パターン(クロ。今んとこ)と成功しなかったパターン(恋夏)。
両面を取り扱って、価値観の多様性を上手に引き出しています。

恋に段階があるのだとしたら、先ずは好意を持つ事ですね。
いいひとだなぁという親愛感を持つところから始まります。
それが積み重なって、ある境界を越えて恋になる。
こう考えますと、ウタは「好意すら持ってはいけない」状態になってました。
しかし、クロちゃん事件を乗り越えて、ウタは自分の気持ちに少しだけ向き合えるようになりました。
「好意だけは持ち続けよう」‥と。
少し持ち直した感じになります。

結婚してる人を好きになったらダメですか?

結婚してる人を好きになる事。
問題無いですよね。
好きになるのは自由です。
例え、相手が誰であれ、どんな立場であっても。

心の中で想うのは自由だし、なんなら告白するのも自由かもしれない。
けれど、略奪しちゃうとそれは常識の範疇から逸脱する行為になります。

略奪愛、不倫。
言い方は様々だけれど、決して許容される恋じゃないです。

やはりここにも常識があって、ウタを悩ませます。

更には、気持ちの問題もあるのでしょう。
先にも書きましたが、ウタが自分の気持ちを貫くと、大切な人のどちらか、あるいは両方を悲しませる事になっちゃいます。
そこまで考えちゃうとどうしても身動き取れなくなってしまうのでしょうね。

僕はコミックス派ですので、3巻以降の内容を知りません。
その為、ここからは完全な妄想になります。
ウタの周りで「結婚してる人を奪っちゃったらダメ」という常識を吹っ飛ばす人間が現れました。
その人物の考えは、ウタの常識を揺らがすのでしょう。
結果として、ウタもまた、そういった考えもありなのかもという前向きな解釈をする可能性があります。
「同性愛」の件で「前向き」になったのですから、話の流れ的にもこっちの「常識外の恋」についても「前向き」に捉えるのかなと。

一見2つの障害を乗り越えた形になるものの、しかし、そうじゃなかったんだと打ちのめされる展開が待っている…と予想してます。
結婚してる人を奪っちゃいました事件は、一時的にウタを持ち上げて、最後に落とす前の前奏になりそうです。

お・わ・り・に

絵でキャラクターの心情を表現するのが巧いので、読んでいて凄い楽しいのです。
滅茶苦茶切ない恋物語なので読んでいて辛い面もあるんですよ。
大好きな人と同じ家に暮らして、毎日自分じゃない人間とイチャイチャしてる場面を見なければならないって、超辛くないっすか?
これだけでも辛すぎなのに、「同性に恋しちゃいけない」・「結婚してる人を奪っちゃいけない」という常識が少女の心を蝕んでいて、気持ちが共感できちゃうからより辛い。
辛いのですが、そこがウリになってるので、「あぁすげぇぇ」ってなる。

切ない百合を愉しみたいという方には、超お勧めの漫画ですね。
思う存分浸って下さい。

僕は浸り続けます。
衝撃な終わり方をした2巻の続きが早く読みたくて仕方ありません。
7月発売の3巻、楽しみ~♪

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