石黒正教先生最新作「天国大魔境」は"謎しか無い"のに面白い理由

はじめに

そういえば、石黒先生の新作が「月刊アフタヌーン」でやってましたね。
本屋に行ったら1巻が発売されていたので、買ってみました。
購入の決め手は、帯ですね。
有名漫画家5名が一言感想を寄稿されていました。
「BEASTARS」の板垣巴留先生。
「GANTZ」、「いぬやしき」の奥浩哉先生。
「ヴィンランド・サガ」の幸村誠先生。
「海月姫」の東村アキコ先生。
「What’s Michael?」の小林まこと先生。

どの作家さんのコメントも気になったのですが、特に「これは読まねば!!」と強く思わせてくれたのが、小林先生でした。
「去年の忘年会で2回も話しかけてくれてありがとう。」
これは読まねば!!!

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さて、1巻の感想を一言で言えば「う~~~ん、全く分からん」。
ジャンルすら分からないという、謎だらけの漫画でした。
短めですが、感想を書きます。

99%の謎と1%の予想

荒廃した「地獄」と閉ざされた「天国」。
2つが舞台で、世界観の説明が一切無し。
唯一分かってるのは、地獄には人喰いのバケモノが居て、15年前に世界は崩壊したらしいってコト。
殆どが餓死して、生き残ってる人類は少ない感じです。
天国の方はもう全く分かりません。

200ページ近く読んでも殆ど情報が掴めない漫画。
果たしてそれは面白いのか?
うん。
不思議な事に面白いんだわ、これが。
得も言われぬ吸引力があるよね。

主人公コンビっぽいマルとキルコの会話が飄々として、どこかコミカルだからなのか。
すいすい読めちゃうんです。
ちょいグロ(グロ苦手)なんですけれど、気にせずに読めちゃう。

あとは、謎ですね。
作中の99%が謎で構成されてる。
主人公の出自も、世界観も、過去も、武器も、なにもかも。
マルがバケモノだけを殺せる能力は一体なんなのかとかね。
物語の最終目的すら不明。

ここまで謎だらけだと逆に興味が失せちゃうんですが、今作は妙に弾きこまれるんですよね。
気になっちゃうんです。
きっと、1%の予想が出来ちゃうから。

キルコの謎を読み解いてみる

2度読み返して気付いたのですが、至る所に伏線があります。
殆どがキルコのことなんですけれどね。

自分の裸に見惚れていること。
年齢を2歳間違えてしまったこと。
1人称が「僕」だし、強盗に向かって堂々と「男だ」と言ってる。
これに頭の傷、入院してた時の記憶、弟の死を併せると、「彼女」の正体が予想できます。

電力車レースの竹早桐子がレース中に弟を巻き込んで事故を起こす。
桐子は脳死、弟は心肺停止。
このままだと2人とも死んでしまうので、動いていた弟の脳を無事に済んだ桐子の身体に移植した。
そうして「キルコ」になった…のかなと。

これは多分間違いない気がします。

「謎しか無い物語でも根気よく読んでみると、謎が解ける」。
現時点では「解けた気になってる」でしかないんですが、これは快感です。
脳内麻薬出まくりですよ。

この手の漫画は、伏線を基にして推理できると、やっぱり楽しくて仕方ありません。
「答え合せ」がしたくなるのです。

普段なら「つまんない」って言っちゃう「いつまで経っても謎しか提示されない漫画」なのに、面白く感じる理由はこんなところなのです。

調子に乗ってみる

調子に乗って、マルのことも予想した事を書いておきます。
閉ざされた天国の世界は、マルの脳内世界の”ようなもの”なのかなと。
そして、マルとトキオは同一人物。
顔がそっくりなのは、同じ人間だから。

上で「ようなもの」と濁したのは、文字通り「マルの夢の中の世界」ではなく、現実に存在してる可能性がメッチャ高い為。
ただそれが「地獄」とどのような繋がりを持った世界なのかが分からないので、言葉を濁しました。

ブラフの可能性もあるんですが、マルが寝ると天国の物語に切り替わって、トキオが寝ると地獄にシーンが映るんですよね。
場面の切り替わり前後に「寝た」描写がないこともあるんですが、直後に「起きる」描写があることが多いので、そうなのかなと。

これが物語にどう繋がるのかは全くちんぷんかんぷんなんですけれどね。
若しかしたら、マルとトキオは「扉」のようなもので、注射が「鍵」なのかもな~とか妄想してます。
鍵を開けることで、「天国」と「地獄」2つの世界が繋がって、「地獄」が救われる…みたいな。
そうするとマルは「いなくなる」可能性が高いですが、今作はハッピーエンドを迎えそうもない作風なので、案外アリなんじゃないかと思ってます。

謎の病気

タラオとミクラを蝕む病。
全身の皮膚に黒い痣のようなものが浮かび上がって、ミクラさんは亡くなったようです。
タラオにも同様の症状が出て、車いす生活。
痛みもあるっぽいですが、なんの病気なのか?
世界の謎を解明する伏線なのか、はたまた、「2つの世界は病気を媒介にして繋がっていることを示唆する」為の設定なのか。

ここも気になった部分ですね。

終わりに

「謎だらけ」という言葉では不足するほど「謎しか無い」漫画。
普段なら興味を引かれない類なのです。
しかし、石黒先生らしく伏線が至る所に散りばめられているので、それを読み拾う事で、色々な妄想が出来るんです。
そこに面白さを感じました。

小林まこと先生の推薦文を信じて良かったです!!

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