はじめに
瀧と三葉の登場シーンに劇場が揺れました。
「おおおお」とあちらこちらから漏れる声。
「君の名は。」効果が出てますね~。
新海誠監督の前作に心を鷲掴みにされた人々が初日から大挙押し寄せていたのでしょう。
で、恐らく多くの人が期待に違わぬ感動を味わったんだと思うのです。
思いたいのですよ、感動した僕としては。
アニメーションを駆使した心情の描き方が抜群に上手いから、グッと心を掴まれますよね。
「天気」と「東京」。
今回は、特にこの2つの要素を効果的に用いて、帆高の心情を綺麗に描写していました。
穂高と雨
心に留めておかなければならないのは、帆高は雨が嫌いではないということ。
寧ろ好きだったのでしょう。
冒頭の船のシーン。
東京へと向かう船上で、帆高は須賀圭介と出会います。
そこを切り取っただけでも物語的に重要なシーンではあるのですが、僕が個人的に一番気になったのは、帆高の雨に対する気持ちでした。
長く長く振り続けていた雨。
ようやく晴れ間が覗いたのも束の間、またしても雨の予報。
気分的には最悪になりますよね。
少なくとも僕はそうです。
事実、リアルの横浜の天気は梅雨とはいえ、来る日も来る日も雨雨雨。
嫌になってます。
彼らの世界は、梅雨なんてもんじゃないです。
2か月以上毎日雨が降り続いているんです。
鬱々とした気分になるのは、非常に分かります。
船上の人々が文句を言いつつ、船内に雨宿りに戻るのも無理ありません。
寧ろあの程度の文句で済んでるだけマシとも言えます。
人々が船内に引き返す中、ただ1人人波に逆行して外へ外へ向かう帆高。
彼は甲板に出ると、降りしきる雨の中喜ぶんですよ。
えええええってなりました。
信じられないものを見た気分でした。
帆高はよっぽど雨が好きなんだな~と深く印象に残ったのです。
メラビアンの法則
第一印象は大事です。
人と人とのことは勿論ですが、これは全ての事柄に当てはまると思っています。
初頭効果(第一印象は大事だよって効果)について、アメリカの心理学者メラビアンは、第一印象で優先される情報として「視覚情報が55%、聴覚情報が38%、言語が7%」という割合を提唱しました。
これをメラビアンの法則というそうです。
で、アニメやドラマだと知ってか知らずかこの効果を巧みに利用していると思うのですね。
こんな話題を出したのですから、当然僕は今作にも使われていたと考えています。
それが東京の最初のカットです。
繁華街でお馴染みの「いかがわしい宣伝カー」。
ドーンといきなり出て来たので、吹き出しそうになりましたよ。
知らない人が見ても水商売・風俗系の求人宣伝だと理解できるかんじゃないでしょうか。
視覚で「いかがわしい」という印象を与えられて、聴覚で「ば~にら、ばにら、ば~にらふ~ふ~、ば~にら高収入♪」って嫌に耳に残るどこかポップな印象を受ける。
怖くないですか。
水商売とか風俗には健全なイメージが湧かないのに、明るくて思わず口ずさんじゃう様な歌で宣伝してるのって。
「ついつい少女が軽い気持ちで応募しちゃうような」怖さを抱きます。
とかく、「東京のことを何も知らない」状態でいきなりこのカットを見せられたら、東京のイメージ凄く悪いですよね。
少なくとも「治安悪っ」ってなりませんか。
東京でなんやかんやあった帆高の「東京怖えぇ」が実感籠りまくって聞こえました。
さらに帆高の前には野生の拳銃が現れて。
街を歩いてるだけで拳銃が飛び出してくるとか東京怖すぎる。
恐怖や暴力の象徴である拳銃は、そのまんま東京のイメージの具現化なのでしょうね。
それを帆高が所持することになった。
その意味は何だったのか…。
この時はまるで分かりませんでした。
陽菜に惹かれる
雨が好きな帆高。
怖い東京。
お金に困った少女が水商売だか風俗の仕事を始めようとして…。
そんなところに出くわした帆高。
少女が「どん底だった時に手を差し伸べてくれた太陽」だったことも帆高が勇気を振り絞った理由。
このあたりの流れも分かりやすくて、素晴らしかったのですが、拳銃の使い方がさ凄かったのですよ。
帆高にとっての「太陽」である陽菜を助けるために、彼は拳銃を使いました。
(殴られてカッとなったというのも勿論あるのでしょうけれど)
恐怖と暴力の象徴であるはずの拳銃を怒りに任せて使った。
東京の悪いイメージに穂高も染まってしまったのかもしれない。
そう思わずにはいられないシーンでした。
そんな穂高を「闇から救った」のが陽菜。
きつく叱りつけて、だからこそ、彼は拳銃を捨てた。
東京の悪いイメージを完全に捨てたという暗喩にも思えました。
こうして陽菜と再会した帆高。
彼女が「晴女」と知り、彼女の悩みを解決する為に力を使って商売を始めることになって…。
どんどん陽菜に惹かれていったのでしょうね。
降りしきる雨を止めて、雲を晴らす。
陽菜に惹かれるにつれて、穂高はどんどん晴れが好きになっていったに違いありません。
だからこそ、ホテルで穂高は雨が止むことを願っちゃったんでしょう。
陽菜と出会うまでの彼にとっては、雨は決して嫌な天気では無かったのです。
朝起きて、しとしとと降る雨を見ても悪い気分にはならないタイプの子であった。
だから、異常気象とはいえ、降り続ける雨が止んで欲しいと心から願うことは無かったはずです。
陽菜と出会っていさえしなければ。
彼女と出会ったから穂高は変わった。
陽菜を好きになったから穂高は、陽菜の象徴たる晴れを祈ってしまった。
穂高の心の変遷は、冒頭の船上シーンがあったからこそ強く伝わってきました。
劇的な効果ですよね。
終わりに
拳銃を捨てたことで、東京の悪いイメージを捨てて、だからこそ、彼は高校卒業後に舞い戻ってこれた。
それは無論陽菜に会いたいからというのもあるはずですが、第一印象を覆せたからこそというのもあったのかなと。
まぁ、印象どころか実際東京の外観は別物レベルで変わってしまったのですが。
もしかしたら、そこも含めて、穂高の東京に関するイメージの変化を示していたのかもですね。
そして、雨ではしゃぐ穂高を冒頭で描くことで、彼が陽菜に惹かれたことを克明に出来ていた。
彼の心の変化が手に取るように伝わってきたからこそ、大きな感動を得られたのだと思っております。
やっぱり流石だな~と思わせてくれる極上のアニメーションを見させて頂き、非常に満足しています。
ところで四葉がどこに出てたのか分かりませんでした。
エンドクレジットで名前を見るまで、気づけなかったのが悔しいです。
彼女を探しにもう1度足を運ぼうかな。
あと、「風呂交代♪」のシーン、もう1度見たい。
あのシーン、めっちゃ好きになった。可愛すぎてヤバかった。